六十九話 魔槌 実践投入
俺は戦槌から進化した魔槌に武器を換えると、モンスターを探して通路を進んでいく。
とりあえず進化したので、使い心地を試してみようというわけだ。
そう考えて歩いていると、ハニワに出くわした。
新武器を試す相手として、防御主体のハニワは、なかなかに適任なモンスターだ。
俺は魔槌を構え、戦意を込める。
魔槌は直ぐに反応し、ハンマーと円筒部分が赤熱化する。
「よしっ。おりゃあああああ!」
俺は気合の越えとともに魔槌で殴り掛かり、ハニワは落ち着いた様子で盾で防御した。
果たして魔追を盾に当てた感触は、メイスで殴ったときとさほど変わらないものだった。
少し拍子抜けしつつ、この魔追ならハニワの盾を壊せるのかを試すため、何度となく叩いていく。
するとハニワの盾の表面に赤みが発生し、やがて焦げたような臭いが漂い始める。
もしかしたら、この魔槌は殴った場所に熱を籠らせる効果があるのかもしれない。
そう思いながら魔槌を振るい続けていて、唐突に魔槌のヘッドが後ろから押されたかのように加速した。
予想外の挙動に、俺は魔槌のヘッドに振り回されるような形で、握った柄を振り下ろす。
急加速した魔槌は、ハニワの盾に衝突した瞬間、爆発を起こした。
吃驚して引っ繰り返る俺と、爆発を受けて吹っ飛び転がるハニワ。
両者とも呆然として動かない時間があったが、俺の方が我に返るのが早かった。
俺は魔槌を一度手放すと、地面に倒れるハニワに接近しながら、次元収納からメイスを取り出す。そしてメイスを渾身の力で振るい、ハニワの頭部に叩きつけた。
ハニワは顔面を割られ、数黒い煙となって消え、粘土を残した。
俺はハニワを倒しきったことに安堵しつつ、メイスを次元収納に入れて、魔槌を拾い上げる。
「なんだったんだ、最後の一撃は?」
俺はどういう現象が起きたのかの検証のために、ダンジョンの壁に向かって魔槌を振るってみた。
戦意を込めて魔槌を振るうことしばらくして、再び急に魔槌のヘッドが加速して壁に当たり、そして爆発した。
ヘッドが急加速したのを感じた瞬間から、爆発するまでの予想が出来ていたので、俺が驚いて引っ繰り返ることはなかった。
そして魔槌の急加速と爆発については、再現性があることが分かった。
「もしかして、この魔槌は何回か振るうと、急加速を始めるんじゃないだろうか。その状態でハンマー部を当てた対象に、爆発を引き起こすんじゃないだろうか」
検証のため、俺は何にもない場所で魔槌を振るってみることにした。
戦意を込めて振るい続けると、魔槌のヘッド部分の赤熱化が一振りごとに強まっていくことが分かった。
やがて振った回数が二十回を越えたあたりで、ヘッドの円筒の方から火が噴き上がり、魔槌が急加速する。
そこでいったん振るのを中止したが、円筒から出る火は止まらず、魔槌のヘッドが前に進もう進もうとする。
これは止めていられない。
俺は戦槌の柄を確りと握り直し、ハンマー投げのような要領で、身体を旋回させつつ魔槌を振るってみる。
これは、ヘッドが加速を始めた後に魔槌を振るうと、加速が強まるかどうかの検証だ。
その結果は、体を一回旋回させる毎に、円筒部分からの火の勢いが増し、より魔槌のヘッドの推進力が増えることが分かった。
このまま推進力が増えると手放してしまいかねないので、俺は回転軌道を操作して、魔槌のヘッドを地面にぶつけることにした。
床に当たった直後、今までにない程の大爆発が起こった。
その全ての爆発の威力が床に叩きつけられたが、不思議なことに、爆発の炎は俺の身体を焼かず、爆音が俺の鼓膜を破壊することもなかった。
そうして爆発が収まったあと、ハンマーを叩きつけた部分を見てみると、激しく焼け焦げた割れた石畳があった。
「この魔槌は、戦意を込めるとヘッド部分が赤熱化するのはオマケの機能で、どうやら本命は振るう度に威力が増し、そして一定以上に振るうと爆発するって効果の方みたいだな――それにしても、このダンジョンの床が割れたなんて話、聞いたことないぞ」
むしろ、どう頑張っても割れなかったって話しか聞かない。
俺は割れた石畳をどうするべきか考えて、とりあえず次元収納で回収できるかを確かめてみた。
結果は、割れた破片は回収できたが、割れた状態で地面にはまっている石畳は回収できなかった。
証拠隠滅は無理だと言うことが分かったので、他の探索者に現場を見られない内に、俺はこの場を退散することにした。