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六十七話 ダンジョン内での取り引き

 第四階層の中層域で、一匹ずつモンスターと戦って、戦い慣れようとする。

 しかしどのモンスターも、一筋縄ではいかない強敵ばかり。

 俺も戦い方を工夫したりしているが、いま一歩上手くいっていない感じがある。

 俺が苦労しているのなら、他の探索者ではどうだろうか。俺と同じで苦労しているんだろうか。身体強化スキルがあるから、苦労していない可能性の方が高いかもしれないな。

 そんな益体もないことを考えていたからか、探索者の一団がこちらに近づきつつあるのが見えた。

 彼らは通路の奥――つまりモンスターが二匹以上でる場所から返ってきたようだ。

 数は六人。先頭を歩くのは胴鎧に陣笠の男性。恐らく気配察知スキル持ちだろうな。その他の五人は誰もが日本鎧と兜の姿。この五人は身体強化スキル持ちだろう。

 俺がそう判断したのは、陣笠と兜の差だけではなく、彼らの鎧の傷つき具合も含めてだ。

 なにせ陣笠男の胴鎧は傷がなく、五人の日本鎧には大小様々な傷がついている。陣笠男が索敵に終始して戦闘に参加せず、他の五人が矢面に立って戦ってないと、装備の破損具合の差に説明がつかない。

 そして俺は、その探索者たちの装備の傷つき具合を見て、彼らもまたモンスターを倒すのに苦労しているんだろうと悟った。

 大小様々な傷の中には真新しいものがあり、ハニワの剣を受けたと思わしき斜めの傷や、猛牛の角が刺さったらしい丸い穴も見える。

 俺がそうやって観察しているように、探索者一団の側も俺のことを不審そうに見ている。

 まあ俺の格好は、フルフェイスヘルメットと革の全身ジャケットという、東京ダンジョンではあまり見かけない格好だ。怪しく思う気持ちはわからなくはないな。

 俺は担いでいたメイスのヘッドを地面に卸すと、探索者の一団が通りやすいように通路の端に寄る。そして片足を上下に動かして貧乏ゆすりする演技を行う。

 本来なら、イキリ探索者を演じるのなら、ここであの六人に絡みに行くのが正解かもしれない。

 しかし俺にはどうしても、ダンジョンという他者の目がない場所で、武器を持つ人間に絡みに行く勇気が起きなかった。武器で攻撃されるかもしれないくて怖いからな。

 だから次善のイキリ用の演技、不機嫌な様子で邪魔者が去るのを待つっていう態度で、俺のイキリ探索者という汚名を守ることにした。

 そんな俺の思惑が通じたのか、探索者の一団は俺とは反対方向の通路の端に寄ってから、俺とすれ違うべく移動を再開した。

 このまま行けば、何事もなく分かれられる。

 そう思っていたのだけど、なぜか陣笠男が俺に声をかけてきた。


「貴方は、ここ最近建て続けに宝箱を発見したという、例の探索者じゃないですか?」


 問いかける言葉ながら、口調は断定的だ。

 すっとぼけても良いが、不機嫌な様子を装っていたからには、その演技に準じた返答が必要だろうな。


「はぁ? もしそうだったとして、そっちに何の関係があるんだってんだよ?」


 イキリ探索者らしく荒れた口調で返すと、陣笠男はこちらを制止するような身振りをする。


「落ち着いてください。単なる取り引きの申し込みですから」

「取り引きだあ? 俺の装備を奪おうってのか?」

「違います、違います。失礼ですが、貴方は宝箱から傷を治す水薬を入手しませんでしたか? いまお持ちなら、幾つか譲っていただけないかと。もちろん、代金はお支払いいたします。モンスタードロップ品での物々交換でどうでしょう?」


 俺に口を挟ませると話が前に進まないとでも思ったのか、陣笠男はペラペラと言葉を並べて反論を許さなかった。

 失礼な態度に少しムッとするが、イキリ探索者としては金儲けの匂いの方を気にするべき場面だろうな。


「へえ、取り引きねえ。あるぜ、傷を治すポーションは」


 俺が次元収納から試験管のようなガラス筒に入ったポーションを取り出して見せると、六人の探索者たちが色めき立った。

 その反応は、俺が次元収納スキル持ちだからなのか、それとも本当にポーションを持っていたからなのか。

 陣笠男の場合は、ポーションを持っていたことに安堵した様子だった。


「やっぱりですか。以前に姿を拝見したときは、防具がボロボロになっている割に無傷でいたので、手に入れたポーションを躊躇いなく使って傷を治しているからだと考えていたのですが、当たったようですね」


 この陣笠男。防具ツナギを着ていたときから、俺に目を付けていたようだ。

 でも確かに言われてみれば、ツナギがボロボロになっていたのに、俺の体に傷がなかった。その理由を考えると、ポーションで治したと考えるのが当たり前か。

 なにせ治癒方術なんてスキル、世間一般どころか探索差界隈にすら全く認知されていないんだしな。

 ここは俺が治癒方術を使えることを悟られない内に、ポーションの取り引きを終わらせた方が良さそうだ。


「どうでもいいけどよ。予想が当たっていたか銅貨が十四だってんなら、ポーションは要らねえよな? 引っ込めちまうぞ?」


 俺が不愉快だって演技でポーションを次元収納に仕舞おうとすると、陣笠男から待ったがかかった。


「もちろん、取り引きしたいですとも。傷薬一つと猛牛の肉一つの交換でどうでしょう?」


 俺はポーションも猛牛の肉の相場は知らない。

 しかし、この陣笠男が俺に声をかけてまでポーションを求めるからには、それなりの理由があるはずだ。

 ここはイキリ探索者を演じるためにも、もっと足元を見ていい場面だろう。


「肉なんて要らねえよ。魔石はないか、魔石は。魔石以外は要らねえんだよ」


 猛牛の肉はレアドロップ品だが、同じレアドロップ品なら魔石が良い。

 もうちょっとで戦槌が進化するんじゃないかって予感があるから、魔石が欲しいんだよ。

 そんな気持ちで俺が魔石を要求したところ、陣笠男の表情が固まった。


「魔石一つと傷薬一つの交換、ですか?」

「おうよ。ダメなら良いんだぜ。俺だってポーションは使うんだ。そう余っているわけじゃないしな」


 俺がポーションを引っ込めようとすると、陣笠男は渋々といった態度で自身のバックパックから魔石を出してきた。

 恐らく、この中層のモンスターを倒して入手した魔石なんだろうな。今まで俺が手に入れてきた魔石よりも、少し大きい気がした。


「これとの交換ということで、構いませんか?」

「ああいいぜ。このポーションと交換だ」


 俺がポーションを先に手渡し、魔石を奪い取るようにして手に入れる。そして魔石をすぐに次元収納の中に仕舞ってしまう。次元収納には簡易な識別能力があるため、いま居れた魔石が本物の魔石かどうかを判別することができるからな。

 果たして陣笠男が差し出した魔石は、次元収納によると本当の魔石だった。

 俺はそれを確かめると、取り引きは終了だとばかりに、立ち去ろうとする。

 そこに陣笠男からの、再びの静止の声がきた。

 

「まだ魔石は持っているのですが、そちらはポーションをお持ちでしょうか?」


 陣笠男が魔石を六つ取り出して、取り引き継続の申し入れてきた。

 俺はどうしたものかと考える。

 次元収納の中にあるポーションは、残り五つ。

 俺には治癒方術があるから、ポーションは必ずしも必要なものではない。逆に魔石は、メイスや戦槌を強化するにも、ダンジョンの外でスキルを使うにも必要になる。

 五つ全部取引するべきだろうか。

 いや、五つは多すぎるだろう。

 陣笠男は、俺がポーションを使って傷を治したと思っているんだ。残り少ないって演技の方が、そういう探索者らしく見えるはずだ。

 俺は次元収納からポーションを三つ出した後に、もの凄く悩んだ様子で一本を次元収納の中に戻す、そんな演技をした。


「二本なら、交換してもいい」

「では魔石二個と交換ですね」


 今度は俺が先に魔石二つを手にし、ポーションを手放す際には渋々といった手つきをした。

 たぶんこれで陣笠男は、俺が魔石欲しさに在庫少ないポーションを手放したと思うことだろう。

 ここでダメ押しの演技で、俺はヘルメットの内側で大きく舌打ちしてから、足早に探索者の一団から離れる。

 これ以上の取り引きはしないというポーズであると同時に、人目のない場所で戦槌を魔石で強化するためだ。

 そうして俺が立ち去ろうとすると、探索者の一団の方から安堵と笑みが漏れる声が聞こえた。

 俺との取引を終えた安堵からか、それともポーションと魔石の交換があちら側に有利な取り引きだったのか。

 ともあれ、俺は三つの魔石を手に入れた。これだけあれば、戦槌の進化は起こるはずだ。


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― 新着の感想 ―
誤字が気にならない人は楽しく読めると思う。 他の作品にはない魅力があって主人公の攻略に惹き付けられる。 しかし誤字があまりにも多く、投稿時に見直しを一切していない様子が伺えるので、主人公と同じで実力…
物語は斬新な設定でとても良いと思うけど、それを活かす頭も無ければ誤字脱字もし放題で修正しない、色々と理由付けが甘すぎる、主人公の価値観が破茶滅茶、矛盾もありまくり。これじゃ折角面白そうな話なのに台無し…
[気になる点] 予想が当たっていたか銅貨が十四だってんなら→どうかが重要、の誤字?
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