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六十六話 猛牛と小鬼

 ハニワとの戦いを終えて、俺は荒く呼吸をしていた。メイスの乱打を続け過ぎて、体力が持ってかれ過ぎた。


「ぜえぜえ。こんだけ倒し難いのに、ドロップ品が大量の粘土か。骨折り損のくたびれ儲けだな」


 特に持ち運べる重量が限られている他の探索者だと、苦労して倒した報酬が重量がある割に高く売れそうもない粘土じゃ、割に合わないだろうな。

 先ほど俺が拾った捨て置かれていた粘土のことを考えると、せっかく倒したのに泣く泣く収集を諦めることもあるんだろう。

 そう考えると、他の探索者にとってハニワとの戦いは避けたいと思っているんじゃないだろうか。


「俺も、あまり積極的に戦いたいとは思えない相手だしな」


 先ほどの一戦で倒し方を一つ確立できたとはいえ、倒しにくいモンスターであることは変わりない。

 もっと工夫して楽に戦って勝つ方法を編み出すべきだろうな。

 俺はハニワをどうやって倒すべきかを考えつつ、通路を先に進む。

 すると新たなモンスターと出くわした。

 それは立派な体格の牛。突進する際に前方に突き出す、先のとがった角。艶めいた黒い体毛を持つ、五百キログラムは優に超えてそうな肉体。興奮して真っ赤になっている目と、荒く息を吐きだす鼻。

 その姿は、まるで暴れ牛を絵で表したようだった。


「モンスター名が猛牛だったっけか。名前そのままだな」


 俺が感想を零すと、猛牛が地面を前掻きし始める。

 突進の予兆に身構えると、猛牛は角先をこちらに向けて突っ込んできた。

 軽自動車もかくやという速度と迫力に、俺は尻込みしそうになる。

 しかし足萎えては避けることもできないため、腹に力を籠め直してて、猛牛への対処を開始する。

 俺は次元収納から、岩珍工房に送るために残していたレッサーオークの革を取り出すと、身の前に広げて構える。

 そして猛牛の角が俺の体に当たりそうになる少し前に、俺は革を手放して横っ飛びで身躱した。

 空中に残った革に、猛牛は頭から突っ込んだ。そして先が尖った角が革を貫き、猛牛の顔に革が貼りついた。

 猛牛は革を顔から剥がそうと頭を振るうが、上手いことに貫かれた革が角に絡んでいるようで、どれだけ暴れても顔から剝がれない。

 そうして視認力を失った猛牛の横へ、俺は移動する。そしてメイスで前足を折った。

 骨が砕ける感触がした直後、猛牛は折れた足の方へと倒れて地面に転がった。

 地面に倒れても、まだ暴れ続けるが、視認できない状態では俺に角や蹄を当てることはできない。

 俺は暴れる猛牛の体に当たらないよう注意しつつ、メイスで攻撃を与えていく。

 流石に五百キログラム越えの巨体の生命力は伊達ではなく、渾身の力でメイスを振るっても一発二発じゃ倒せない。

 脊椎動物の急所といえる首筋に攻撃を集中させ、その首の骨をどうにかメイスで折ったところで、猛牛は薄黒い煙と化して消えた。ドロップ品は猛牛の角だった。


「突進は驚異的で、防御力も高い。猛牛も戦うのに苦労するモンスターだな」


 一匹相手にするのなら、革や布で頭を覆ってしまえば、ほぼほぼ無力化は可能だ。

 しかし今後、二匹一組モンスターが現れる場所に行った際に、猛牛二匹だったり、他のモンスターと連れ立って現れたときに、とても苦労する予感がある。

 特にハニワとの組み合わせは、恐らく最悪だろう。

 ハニワが前線で盾を構えて探索者の前に立ち塞がり、その身体で猛牛の突進の予兆を探索者の目から隠す。そして猛牛が突進してきたところに、ハニワがタイミングを測って身躱せば、探索者が突進から退避する猶予時間は僅かしかない。猛牛の体重は五百キログラム越え。その突進を受けるとなると、身体強化スキル持ちだろうと、怪我は免れないだろう。

 俺は猛牛の角を次元収納に仕舞い、通路を先へと進む。



 しばらく通路を進み、猛牛を同じ方法でもう一匹倒し終えた後に、新しいモンスターと会敵した。

 その見た目は、カラテ道着を毛皮に変えたようなものを着た、百五十センチメートルほどの背丈の子供。

 しかし、その頭には頭髪の他に二本の角が伸び出ていて、顔は憤怒の形で凝り固まっていて、体表が鮮血のように真っ赤な肌をしているのを見れば、人間の子供ではないことがすぐに分かる。

 あれはモンスターで、名前は小さい鬼ということで、小鬼と名付けられている存在だ。


「たしかに小鬼って見た目だけど……」


 いままで戦ってきたモンスターの中で、一番人に近い見た目じゃないだろうか。

 この小鬼よりも、ゾンビの方が人っぽいと思う人がいるかもしれない。

 だが俺としては、腐った体で動き回る存在よりも、この小鬼の方に親近感が湧く。

 そんな親近感から、俺は戦い難さを感じているが、小鬼の方は違うらしい。

 憤怒の表情の通りに、俺に向かって突撃してきた。手に武器はないため、徒手空拳で戦う気のようだ。


「本当に気乗りしないんだけどな」


 戦いたくはないが、襲ってくるモンスターは倒さないといけない。

 俺はメイスを構え、小鬼を迎え撃つ準備を整える。

 こちらの方が高身長でメイスのリーチもある。そのため、メイスの一撃が小鬼に当たる方が早かった。

 しかし毛皮の道着越しに小鬼を叩いてみて、俺はその手応えに眉を寄せる。

 まるでパンパンに空気が詰まったタイヤを叩いたような、硬さと弾力が両立した手応えだったからだ。

 その手応えに疑問をもちつつも、小鬼の道着の合わせから覗く肉体が目に入り、俺は驚いていた。

 子供のような体型なのに、道着の内側には、鍛え込まれて筋肉の線が浮いた体があったからだ。


「小鬼は、細マッチョかよ!」


 思わず心に浮かんだ言葉を叫びながら、俺は小鬼が反撃で突き伸ばしてきた拳を回避する。

 しかし、その身に着けている道着のように、小鬼は格闘技でも修めているのか、拳だけでなく蹴りも含めた連続攻撃を仕掛けてくる。

 俺はメイスの十字架部分を盾に使い、どうにか小鬼の攻撃を受け止める。連続攻撃なのに、一撃一撃に掃討な威力がある。まるでバットで殴られているかのような、強い衝撃だ。

 このまま防御を続けては、やがて押し切られてしまう。

 俺は覚悟を決めて、相打ち覚悟でメイスを小鬼の頭に振り下ろす。

 小鬼の蹴りが俺の横腹に当たると同時に、俺の振り下ろしたメイスが小鬼の脳天に直撃した。

 こちらは革のジャケットで蹴りを受け止めたが、小鬼は守るモノがなにもない頭に一撃を食らった。

 一撃ずつ交換の痛み分けでも、より痛いのは小鬼の方に違いない。

 事実、小鬼は頭に一撃を食らった直後から、攻撃の手が止まって動かない。

 この小鬼の失神は短いかもしれない。

 俺は急いでメイスを振り上げ直し、もう一度小鬼の頭を目掛けて振り下ろした。

 攻撃が当たる直前、小鬼の身動きが再開したようだったが、本格的に動き出す前にメイスの一撃が頭を割る方が早かった。

 頭蓋骨が割れ、その中にある柔らかいものを潰した感触があった直後、小鬼は薄黒い煙と化して消える。後には、小鬼が着ていたものと同じデザインの、人間の大人が着れる大きさになった毛皮の道着が落ちた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手の防御力が上がった事でソロによる手数不足と攻撃力不足がもろに出てきた感じか これまではメイスの攻撃力でカバーできてた分がなくなって苦しさが増してるというか 次の武器進化までどれぐらいだろ…
[気になる点] スキルの成長も最近はないし 戦闘もきついしでアイテムボックス型司教チャート サポート型としては使えそうだけどソロ探索だと再走案件では? というか宝箱収入がよい感じなので戦闘回避を目的と…
[一言] より人に近いってのは獣型とかよりも戦っててあまり気分は良くないですねー 強さもなかなか厄介なもんですし先に行くのは大変そうだなあ
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