六十五話 激闘、ハニワ!
俺が身構えると、ハニワな見た目のモンスターも装備を構える。
ハニワの右手には、その上半身を隠す程の四角い盾がある。左手には、片手用の直剣。
盾も剣も、その見た目は素焼きの陶器のような赤茶けた土の色をしている。
あの装備が本当に陶器なら、鈍器の一撃で壊せるはず。
そう考えて、俺はメイスを力強く振るって、ハニワの盾にブチ当ててみた。
コーンと、分厚い板をハンマーで叩いたような音が、通路に響いた。
果たしてメイスで殴った結果はというと、ハニワの盾は割れるどころか薄い傷しか入っていなかった。
「うわっ、マジでか」
どうやらドグウの盾は、ちゃんとした防御力を持っているようだ。
ということは逆の手にある剣も、素焼き陶器のような見た目に反して、殺傷力があるに違いない。
俺は跳び退りながら、試しにと次元収納から矢を取り出して投げつけた。この矢は、ここに来るまでの道中でコボルドアーチャーを倒して手に入れたドロップ品だ。
ドグウの顔面に向かって飛ぶ矢は、命中軌道の途中で、ドグウの剣によって切り払われてしまう。
切り払われた矢の断面は、それなりに滑らかで、ドグウの剣に切れ味があることを証明してくれている。
「浅層域でも殺意高めだったけど、中層域に入って一層高くなってないか?」
盾の防御と剣の攻撃力は、どちらも厄介で強力だ。
特に剣の攻撃は、俺が着ている革の全身ジャケットで受けきることが出来るか不明な怖さもある。
「でも、やるしかないよな」
俺は腹を決め、ハニワとの戦いに本腰を入れる。
そんな俺の戦う気持ちに呼応したのか、ハニワの方も左手の直剣を掲げて戦闘態勢に入った。
しばらく睨み合いを続けていると、じりっと地面が鳴った。
俺は動いていない。ハニワが一足分の距離を詰めてきたんだ。
ここで俺は迷う。
ハニワのように盾を持つ相手と戦ったことがないため、どうメイスを命中させたらいいか分からない。
しかし手をこまねいていては、ハニワに先手を取られて、強制的に防御に回るしかなくなってしまう。
俺は状況に混乱しかける頭を必死に使って、打開の糸口を探す。
そしてどうにか、ハニワがお互いの攻撃可能範囲に入る前に、戦い方をまとめることが出来た。
「よしっ。やるぞッ!」
俺はメイスを大きく振るって、ハニワが持つ四角い盾の角の端を狙って打撃した。
このメイスのヘッドの形状は十字架だ。十字架の左右に突き出た棒の部分で、どうにかハニワを殴れないかを試す。
メイスは俺の狙い通りに動き、十字架のヘッドが盾の角を越えてハニワへ命中する。
命中はしたものの、メイスから伝わってきた手応えは硬質なものを殴った感じで、痛打を与えたと言い難いもの。
恐らく、ハニワがかぶっている兜部分に当たって、俺の攻撃が防がれてしまったんだろう。
その点は残念だったが、二段構えの作戦がある。
俺はメイスを力強く手元に引き寄せる。
するとメイスの十字架が、ハニワの盾の角に引っかかった。そして俺が引く力に合わせて、ハニワの手から盾を引きはがそうとする。
実際に盾を持ってみて、その角っこを引っ張らた体験をしたことがあれば知っているだろうが、握力だけで盾が奪われそうになる動きを制御することは難しい。
仮に盾が腕に固定するタイプでも、盾の端を動かされるとテコの原理によって、その固定した部分に多大な負荷がかかるだろう。
事実、俺がメイスで盾を引っかけて引っ張ると、ハニワは盾の保持が難しいと悟って直ぐに手放してしまう。
だがここで俺は、ハニワが盾を手放したのはわざとだと、ハニワが剣を掲げている姿を見て悟る。
ハニワは盾を持つことに固執するのではなく、剣による攻撃を優先したんだ。
俺の顔面に向けて、ハニワの剣が振り下ろされる。
「次元収納!」
俺は次元収納スキルを使い、片手で戦槌を次元収納の白い渦から引っ張り出す。
戦槌の柄とハニワの剣がぶつかり合う。直後、俺の手から戦槌が撥ね飛ばされるが、ハニワの剣も俺の頭に到達することはなかった。
これで、攻撃と防御を交換し合い、お互いに攻撃可能な距離まで接近している状態となった。
そして俺の方が、戦槌を吹っ飛ばされることを予期していた分だけ、先に次の行動に入ることができる。
「うおりゃああああ!」
メイスを片手で振るい、ハニワに当てる。これは先に攻撃することを目的とした、あまり威力のない攻撃だ。
しかしハニワに攻撃を命中させると同時に、先ほど戦槌を次元収納から引っ張り出すのに使った方の手も、メイスの柄を握ることに参加させた。
こうして両手持ちに戻ると、ハニワの剣を持つ手を中心に乱打を仕掛けた。
「うりやあやああああ!」
メイスをコンパクトに振るい続け、威力ではなく手数でもって、ハニワの行動を封じる。
ハニワは剣でメイスの攻撃を防ぎ続けるが、両手持ち武器と片手持ち武器の保持力の差が出始め、十発耐えたところでハニワの手から剣が落ちた。
盾も剣も失ったのなら、威力のある攻撃に移ってもいいだろう。
「おらああああああ!」
気合を入れてメイスを振るい、ハニワに痛打を与えていく。
ハニワは剣と盾を失っても抵抗を止めず、どうにか鎧でメイスでの攻撃を防ごうとしている。
しかし俺の武器は鈍器だ。鎧で攻撃を受け止めることはできても、その衝撃までもを殺しきることは難しい。
兜に当たれば、その内側にあるハニワの頭にひび割れが起きる。肩鎧に当たれば、肩が砕けたのか腕を動かさなくなる。
俺がメイスを振るえば振るうだけ、ハニワの鎧は無事でも身体の崩壊が進んでいく。
やがてメイスの兜への攻撃で、ハニワの罅割れだらけになっていた頭が完全に砕けると、ハニワは薄黒い煙と化して消えた。そして十キログラムほどの粘土を落とした。