六十一話 魔石とスキル
魔石があれば、ダンジョンの外でもスキルが使えるかもしれない。
その仮説を思い返して、俺は自宅で一人、布団の中で戦慄を感じていた。
もし仮説が本当だったなら、社会に激震が走ることになる。
スマホでネット検索して確認したが、現在の魔石は、綺麗な宝石としての価値と、次世代エネルギーに使えないか調べる研究用の価値しかない。
そんな用途が限られた素材だというのに、希少な宝石並みに、小さい魔石でも何十万とする価値がある。
ここに、現実でスキルを使えるようになるという付加価値がついたら、どれほど価値が上がるだろうか。
特に身体強化スキルがダンジョンの外で使えるようになった場合、肉体労働系の色々な分野での活躍が見込まれる。ダンジョン内のように拳銃などの現代武器が効かない身体になるのなら、無敵の兵士だって作れてしまう
次元収納のスキルだって、初期で選んだだけで、登山リュック一つ分の収納力がある。それほどの容量があれば、世界にある珍しいものから危険なものまで、大量に隠し持って歩くことが可能になる。
つまるところ、魔石を使用してスキルを発動させる行為は、犯罪に使われる可能性が高いわけだ。
そんな犯罪を増やす可能性が高い仮説を、俺は思いついてしまった。
正直、責任が取り切れないので、他に漏らす気はない。
「でも、ダンジョン外で次元収納のスキルが使えたら、すごく便利なんだけどなあ……」
物の出し入れをするためにダンジョンに入る必要がなくなるため、ダンジョンの事だけじゃなくて日常生活にも次元収納の収納力を活かすことが可能になる。
どこへ行くにも手ぶらで済ませられるし、貴重品の保管にだって使えるし。
「それにしても、本当に誰も魔石とスキルの関係を知らないんだろうか?」
普通の探索者は、ドロップした魔石を持った状態でダンジョン探索をする。だからダンジョン内では、スキルを使っても魔石を消費しない。
そして日本の場合、ドロップ品はダンジョン近くに設置した役所が買い取る。これは東京ダンジョンだけでなく、他のダンジョンでもそう。まあ、東京ダンジョンほど建物と設備が整った役所はないので、出張所のようなこじんまりしたものだそうだけど。俺が奈良ダンジョンに入る際、役所が目に留まらなかったのも、役所建物が小さかったからだろうな。
ともあれ、日本のダンジョンでは買取所が近くにあるため、魔石を持った状態でスキルを使おうという奇特な人間は現れにくい。
だから日本では、魔石とスキルの関係に気付く人は少ないはずだ。
では海外ではどうなんだろうか。
あまり得意ではない英語で、改めて魔石や魔石の使用方法について調べてみたけど、やっぱりどこにもダンジョン外でスキルが使えるという情報はなかった。
「本当に知らないのか、それとも知っていて隠しているのか……」
仮に隠しているのなら、社会的な混乱を避けるためなのか、スキル使用を自国や組織の利益につなげるためか。
ここまで考えて、俺は頭を振って思考を放棄した。
「都市伝説みたいな考えは意味がない。世界の裏で知られていようといまいと、俺には関係のない話だし」
俺がダンジョンに入っているのは、未だ所在不明の不老長寿の秘薬を手に入れるため。
それ以外のダンジョンの事象を気にしている場合じゃない。
「魔石は戦槌の強化に使うと決めているし、戦槌の強化が終わればメイスの強化に使うしな」
つまり、目的外に使用できるほどの在庫を抱えることはないはずだ。
だからダンジョンの外でスキルを使えるようになることを知っていても、大して意味のない話でしかない。
「でも、どうしてもダンジョンの外で次元収納スキルを使いたい時のために、一つぐらい確保していても――いやいや、それで戦槌やメイスの強化が遅れるほうが、ダンジョン探索に支障がでるよな」
俺はどうするべきかを考えていき、結論がでないまま、考えることに飽きてしまう。
こんな益体もないことを考え続けるよりも、アニメ視聴やラノベ読破のほうが有意義だと、俺はスマホを取り出して趣味の時間に没頭することにした。