六十話 実践投入&不思議なこと
俺は出来上がったヘルメット持ち、ダンジョンの中へ。
もう時間は夕方過ぎなので、今日は長々とダンジョンにいる気はない。今回の目的は、モンスターにヘルメットを使ってみることだからだ。
通路を第二階層への最短順路通りに進み、第一階層の奥へ。
順路から脇道へ入ったところで、おあつらえ向きにトツゲキバッタが現れた。
「よし、来い!」
俺のこの声が伝わったわけじゃないだろうが、トツゲキバッタが俺に向かって突っ込んできた。
俺はタイミングを見計らい、トツゲキバッタが胴体に当たる瞬間、手に持っていたヘルメットで叩き落とした。
ヘルメットで殴られたトツゲキバッタは、地面で足をピクつかせた後、薄黒い煙に代わった。
さて武器に使ったヘルメットを確認してみると、トツゲキバッタを殴りつけたというのに損傷は見られなかった。
その後も何度か第一階層のモンスターにヘルメットをぶつけてみたが、傷一つたりともつくことはなかった。
第一階層から上がって、第二階層へ。中層域で一番硬そうなミニゴーレムを殴るのにも使ってみたが、未だ傷はつかなかった。
「とりあえず、ちゃんとヘルメットに防御力があることは分かった。そしてバイザー部分に問題があることも分かったな」
マミー布と大蜥蜴の鱗で作ったヘルメット部分は無傷だが、ダンジョン用でない大量生産品のバイザーには細かな傷が入ってしまっている。このバイザー部分には当てないように努めていたのにもかかわらず。
「何回かモンスターの身体に擦ったけど、それで傷が出来ちゃったか」
ダンジョンの中の特殊な物理法則によって、手作りの物品でないと、モンスター相手にまともな防御力が現れない。
その法則に照らして考えると、機械作りの大量生産品の場合だと、モンスターが撫でるだけで大きな傷が出来てしまうんだろうな。それこそ、薄紙が触れただけで千切れてしまように。
「バイザー部分は飾りだから、ヘルメットの耐久力に関係はないんだけど……」
モンスターとの戦闘で攻撃を食らったら、一発で間違いなくバイザーは破損する。
破損したバイザーを買い替える出費を考えると、バイザーなんてなくていいんじゃないかという気がしてくる。
「後付け品だから、取り外すことができるし、ダンジョンの中にいる間はバイザーを仕舞っちゃうのも手だよな」
ダンジョンの中で使わないのなら、バイザーを買った意味がない気もするけど、それは仕方がない。見た目を整えるための部品みたいなもんなんだから。
ヘルメットが出来上がった翌日から、ヘルメットと革の全身ジャケットという、バイカーのような格好での探索が始まった。
第四階層へ進み、防御力が高いモンスターを相手に戦い続ける。
すると、体も頭部も守られている安心感があるからか、俺が今までより積極的に攻撃できていることに気付いた。
実際、今の防具ならマミーやマネキンの攻撃は当たっても大したことがないと分かってからは、攻撃を食らう覚悟でメイスでの一撃を叩き込むことを優先しているしな。
ヘルメットで視界が限られているので心配だった、地面を這って進む大蜥蜴がいる戦い。これについても、居ると分かっていれば自然と視線が向くので、あまり大した問題になっていない。
そうした諸々の結果、一度に二匹モンスターが現れる場所でも危なげなく戦えるようになってきた。
このままの調子で三匹が一度に出る区域まで足を伸ばそうかと考えて、その気持ちを押し止めるようなことが起こった。
いま倒したマネキンから、魔石が落ちたのだ。
「ちょっ、戦闘中に!? ええい、次元収納!」
戦闘で俺やモンスターにが踏まれ、魔石が割れて強化する能力を失ってしまったら大変だ。
俺は急いで魔石に接近して次元収納の中に収める。それから、生き残っている大蜥蜴をメイスで殴りつける。何度か殴り続けて、ようやく大蜥蜴を倒しきることができた。
ふうっと息をつき、次元収納から魔石と大槌を取り出そうとしたところで、戦闘音を聞きつけて寄ってきたらしきマネキン二匹が現れた。
仕方がないとマネキンを二匹相手にしている間、戦槌を魔石で強化するのは安全な場所までおいておくことにした。
そして以降、何度となくモンスターと戦っている間に、魔石を次元収納に入れていることを忘れてしまう。
すっかり忘れていて、ダンジョンを出るべく第四層の出入口――他の探索者が集まっている場所で、次元収納からリアカーを出して集めたドロップ品を積み込んでいるときに、魔石が次元収納の中に入っていることを確認して思い出した。
他の探索者がいる前で魔石を出すのはリスクがある。特に第四層の探索者は、ダンジョンに稼ぎに来ている人ばかりだ。魔石という高価なドロップ品を見たら、魔が差す可能性もある。 武器を持った人を色めき立たせる危険性を考えて、俺は次元収納の中に魔石を入れたままにしておくことに決めた。
俺はドロップ品を積んだリアカーを引いて、第四階層の白い渦に入ってダンジョンの外へ。そして役所へ向けて歩きつつ、愚痴をこぼす。
「ダンジョンの外でもスキルが使えたらな」
今までそんな事実は知られていないけれどと、半ば諦めの気持ちをもちながら「次元収納」と口にだしてスキルを使ってみた。
すると、俺の目の前に白い渦が現れた。あきらかに次元収納の出入口だ。
俺は吃驚して、慌ててスキルの使用と中止する。その直後、白い渦は瞬く間に消えた。
いま起こったことが信じられず、もう一度次元収納スキルを使ってみた。しかし今度は、何時もの通りにスキルを使うことはできなくなっていた。
「まぐれで使えたってことか?」
なんか腑に落ちない気持ちを抱えたまま、役所でドロップ品を換金した。
財布に収入を入れつつ、空のリアカーを持ってダンジョンへ。
ダンジョン内で次元収納の中へリアカーを入れてから、第一階層の最浅層に入るための脇道へと入る。
誰も来ないここなら、魔石で戦槌を強化することが出来るからだ。
そう考えて脇道に入ったものの、戦槌を強化することが出来ないことに気付く。
なぜなら、次元収納の中に入っていたはずの魔石が、なぜかなくなっていたからだ。
第四階層から帰ってくるときにはあったのに、なぜいまはないのか。
その理由について、俺は一つだけ心当たりがあった。
「ダンジョンの外で、次元収納のスキルが使えたよな」
魔石が消えそうな理由は、その一点しか思いつかない。
もしかしたら、魔石を所持していれば、ダンジョンの外でもスキルが使えるのかもしれない。
その仮説を思いついて、俺は検証するべきだろうかと悩むことになった。




