六話 レアドロップを探して
道を進みながら、次から次へと、最も浅い層に出る弱いモンスターを倒していく。
だいたい、鉄パイプで一度殴れば倒せるため、脅威度はないと言って良い。
しかしそれにしてもだ――
「――まったく、魔具や魔石がでてこない」
都合三十体は倒したはずなのに、一度も魔具や魔石が落ちてない。
モンスターを倒した後、次元収納スキルで地面をさらっているし、ちゃんと砂や塩や片栗粉は入手できているので、本当に落ちていないだけだ。
「俺の運が悪いのか、弱いモンスターだとレアのドロップ率が悪いのかだな」
愚痴りつつ、俺は自分の腕を揉む。
鉄パイプを振り続けてきたことで、腕に乳酸が溜まってきて張った感じがするのだ。
「身体強化のスキルをとっていれば、この腕の疲れも軽減したらしいけど」
身体強化のスキルは、肉体の強化。つまり筋力や回復力も強化してくれるので、疲れにくくなる働きがあるという。
ダンジョンでは、深い層へ行こうとするのなら、何日も泊りがけで戦いながら進む必要がある。
そのため身体強化のスキルは、最前線へ向かうことを目標とする探索者にとって必須であると、既存チャートは定めている。
俺はそのチャートに真っ向から反対しているため、この腕の疲労は受け入れるしかないわけだ。
「けど、身体の疲れは、身体を鍛え続けたら軽減されるんだ。身体強化のスキルは、スタートダッシュに優れているだけとも言えるしな」
気配察知のスキルにしても、このスキルがなくても慎重に行動すればモンスターの不意打ちは防げる。
そう考えると、身体強化と気配察知のスキルは、初心者を補助する役目のスキルであることが分かる。
そして俺が選んだ次元収納のスキルだけは、どれだけ体を鍛えたり心構えを決めたりしても代用できない。
「リュック一つ分の容量しかないから、より大きなリュックを持てばいい、なんて主張する人もいるらしいけどね。でも、論点はそこじゃないんだ」
身体強化と気配察知は、スキルを発動しても傍目には分からない。
しかし次元収納は、スキルを発動すると、白い渦が現れる。
こうした目に見える変化が起こるのも、初期スキル三つの中では、次元収納のスキルだけの特徴だ。
「その特徴の差が、後の展望の鍵になると、俺は考えているわけだけど」
腕のマッサージを終わるまでの、暇つぶしにしていた独り言を止めて、鉄パイプを持ち直して通路を進む。
真っ直ぐ続く一本道は、まだまだ続いている。
実を言うと、調べた限りは、最も浅い層にあるこの道の最果てを見た人は居なかった。
延々と続く道と、何も落とさない(と思われていた)モンスターとの戦闘が続いたことで、嫌気がさして帰ってしまう人ばかりらしい。
一応、最初期にダンジョンに入った人の中には、興味本位からこの道の最奥へ到達した人がいたという噂もあった。
けれど、道の奥になにかあったのかなかったのかすら、情報はなかった。
「これがゲームなら、ウンザリするほど長い一本道の奥には、それなりに有用なアイテムや装備が入った宝箱があるもんだけど」
そんなJRPGのお約束を、ダンジョンが踏襲してくれるとは思えないけどな。
つらつらと考えを巡らせつつも、モンスターが見えたら頭を戦闘に切り替えて、鉄パイプでモンスターを倒す。
そうして道を奥へ奥へと進みつつ、更にモンスターを十体ほど倒したところで、ようやく倒したモンスターから新しいものが落ちた。
「これは、なんだ?」
いま倒したモンスターは、メルトスライム。そして倒されたメルトスライムが落としたものは、試供用の香水瓶のような小さな容器だった。
小指の頭から第一関節ぐらいの小ささの透明な容器の中には、ほんの少しだけ液体が入っている。
「もしかしてこれ、スライムが落とすっていう溶解液。そのミニチュア版か?」
初心者にとって強敵と既存チャートで定められている、スライム。
そのスライムを倒すと、ペットボトルほどのガラス容器と溶解液が手に入る。
この溶解液は、投げつけて中身を浴びせることでモンスターに継続ダメージを与えることができるし、あらゆるものを溶かすのに揮発させても害のない安全な溶剤としての役割も担っている。
そのため、スライムの溶解液はそれなりの値段で取り引きされていると聞くけど――
「――こんな量じゃ、意味ないな」
俺はミニ溶解液を次元収納の中に入れると、さらに道を奥へと進んでいくことにした。