五十八話 ヘルメット探し
自宅に帰ってから、フルフェイスヘルメットのことについて調べてみた。
すると、機械成型、機械整形と手作業の併用、手作業のみの三種類の方法で作っているらしい。
機械成型は安価で大量生産向けで、併用は品質と価格のバランス型で、手作業のみは高級品のようだ。
企業によって、どの製造法を使っているかはまちまち。
俺は手作業のみでフルフェイスヘルメットを製造している会社のホームページを開いて、個人で製造を頼めないかを調べていく。
しかし調べれば調べるほど、どのヘルメット製造会社にも、とある一文がくっ付いていることに気付く。
それは『本社製品はダンジョン内での使用は想定しておりません』という一文。
日本の企業にしてみたら、工事現場やバイクに乗る時に使うために作ったヘルメットだから、ダンジョンで使うことは想定外なのは当然だ。ダンジョンで使ってモンスターに怪我をさせられた、なんてクレームを受けないためにも、この一文は必要不可欠なんだろう。
だが俺にしてみれば、ダンジョンで使える保証がないという点で、買う気が失せてしまった。
「でも本当に、ダンジョンで使えるフルフェイスヘルメットはないのか?」
俺は諦め悪く、ヘルメットについて調べていく。
日本の企業ではダメならと、ダンジョンとヘルメットを英語翻訳した単語で検索をかけて、海外のサイトまで探っていく。
するとアメリカに、探索者用のヘルメットを作っている会社があった。
ページ翻訳をかけて中身を見てみると、どうやらFRPという樹脂繊維を手作業で固めて作るヘルメットの会社らしい。
「ん? 手作りのFRPヘルメット?」
何処かで見た単語だと思って、今日検索した履歴を見てみると、日本に同じ謳い文句の会社があった。
総手製のFRPフルフェイスヘルメットで、国際大会に出るバイクレーサーとの取引もある、立派な一流企業だ。
製造工程も製造方法も、アメリカの企業と同じように見えるが、日本の方のページには『ダンジョンの使用は想定していない』という文字がちゃんとある。
「FRPヘルメットは、アメリカのダンジョンには通用して、日本のダンジョンには通用しない――ってわけじゃないよな」
恐らく品質的には、同程度か日本の物の方が高いはずだ。
つまり、アメリカの企業はダンジョンに通用するか不確かでも手作りだから防御力はあるはずだと売り出し、日本の企業は用途外使用は保証できないと売り渋っているということだろう。
そう考えると、わざわざアメリカの企業から輸入するよりも、用途外使用だと分かった上で日本の企業のヘルメットを買った方がいいだろう。
「しかし用途外使用じゃ、安心できないよな」
頭という重要な場所を守るからこそ、ダンジョンで通用するという確証が欲しい。
そんな気持ちでネットサーフィンを続けていると、海外のとあるページを見つけた。
英語で書かれているようだが、フィリピンの探索者が作ったヘルメットについての紹介記事だった。
それをページ翻訳をかけて読んでいくと、どうやらそのフィリピンの探索者はヘルメットを自作したらしい。それも、モンスタードロップ品で。
興味深く思って読み込んでいくと、製作動画があった。
その動画を再生して、どう作るかを把握していく。
「なるほど。基本的にやることは、FRPでヘルメットを作るのと同じなわけだ」
FRPヘルメットは、樹脂の繊維を接着剤で固めて作る。
その樹脂の繊維の部分を、ダンジョンのモンスタードロップ品に置き換えて作ったのが、フィリピン探索者のヘルメットのようだ。
詳しい作り方は、まずストローを咥えて呼吸を確保すると、頭にヘアネットをかけてからサランラップを何度も巻き付けて厚くし、そのラップを接着剤で固めて型を作る。
鋏で顎の部分に切れ目を入れてから、頭から外したサランラップ型。
それを下地に、細く切ったドロップ品の革や繊維を、FRP用の接着剤で貼り付けていく。この動画の中で使っているドロップ品は、ゴブリンミサンガとラージマウスの毛皮。どちらも経験の浅い探索者でも入手可能だ。
ヘルメットらしい厚みに革と繊維を張り付け終えたら、最外周は繊維だけを接着していく。どうしてそんな真似をするのかというと、最終的に接着剤で固まった外側の繊維を電動ヤスリで削って、表面をなだらかにするため。繊維なら削りやすいが、革だとヤスリで削りにくいと英語字幕で語っている。
そうしてヘルメットらしい形が出来上がったら、下地のサランラップ型を糊を水で溶かしながら引きちぎって排除し、目の部分に穴を開けてから着色。
仕上げに、ヘルメットの内側にスポンジを貼り付け、外側にデカ―ルシールを貼り付けて、完成となる。
動画の最後には、出来上がったヘルメットをゾンビ犬に噛ませたり角兎に角で刺させてみたりして、その安全性のアピ―ルもしていた。
「なるほど、自作で作るって手もあるのか」
動画ではゴブリンミサンガとラージマウスの毛皮だったが、俺ならもっと良いドロップ品で作れる。
それに動画で毛皮はヘルメットの厚みを出すための嵩増しに使っているようだったから、繊維の量を確保できるのなら、別のもので代用が効きそうだ。
つまり俺がヘルメットを自作するなら、マミーの布と大蜥蜴の鱗で作ればいいんじゃないだろうか。
「ひとまず、作ってみるか。明日、ダンジョンでマミーの布と大蜥蜴の鱗を確保して、ホームセンターで接着剤とインクスプレーを買えば作れるはずだし」
俺はスマホでの調べ物を終えると、スマホを充電器に繋げつつ、アニメの視聴を始める。
主人公と親友の避けられない対立の運命に涙して、この日の夜が更けていった。