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五十五話 第四階層へ

 第三階層の探索が終わった翌日に、さあ第四階層へ。

 第三階層の階段を上り、黒い渦の中に入ると、今までと同じ石の回廊が出迎えてくれた。

 今までの階層と違うのは、第四階層の出入口の場所に多くの探索者が屯していることだ。

 探索者間でなにやら取引をしているように見えるが、他の探索者と関わりたくない俺には関係のない事だろう。

 そう考えて適当に選んだ通路を進もうとして、日本鎧を着た探索者の一団に道を阻まれた。

 俺は相手の予想外の行動に驚いた後で、イキリ探索者らしい態度を装うことにした。


「おいおい。なに道塞いでくれちゃってんの?」


 心底不快ですと体で表現する態度を演じると、道を塞いできた探索者たちは仲間内で顔を突き合わせている。


「なあ、こいつって、アレだよな?」

「役所でイキリ散らかしているっていう、アレだよな?」

「でも服装違くね? 素人作り丸出しな継ぎ接ぎのツナギじゃねえぞ?」

「あのバンダナ見ろよ。あれが一緒だろうがよ」


 内緒話のつもりなんだろうが、丸聞こえだぞ。


「なあ、用がねえなら、道を開けてくんねえかなあ!?」


 俺が苛立った演技で声を放つと、探索者一団の顔がこっちを向き直した。


「あーっと。君は四階層は初めてだろう? だから、ここの仕来りを教えておこうとな」

「……はぁ? 仕来りだぁ?」


 俺が困惑混じりに問いかけると、スマホで第四階層の地図を開くように言ってきた。

 俺がイヤイヤといった態度で準備すると、探索者からの説明がきた。


「我々を含めた、ここに居る多くの探索者たちが、この階層に稼ぎに来ている。だから誰もが多く稼げるように、ここで探索する場所を決めているんだ」

「はぁ。それで?」

「だから、君が四階層を活動場所にする気なら、その仕来りに従って欲しいんだ」


 しょうもない提案に、俺は本心から呆れてしまった。


「知ったことじゃねえな。第一俺は、ダンジョンに稼ぎに来ているわけじゃねえし」

「なんだって? もしかして、攻略志望なのか?」


 俺の目的は不老長寿の秘薬の入手だが、馬鹿正直に教えてやる理由もない。


「そっちともちょっと違うな。でもまあ、迷宮の先に行きたいってのは合ってる」

「それなら、第五階層への直通路以外には立ち入らないで欲しい。そうであれば、こちら側から文句を付かない」

「それこそ、知ったことじゃねえよ。俺は階層のモンスターと戦って、地力を上げたいんだ。一匹ずつ戦っていられるかってんだ」


 こちとら、初期スキルに次元収納を選んだからには、素の状態で身体強化スキル持ちと肩を並べる程度の戦闘力を培っておきたいんだ。

 なんで他の探索者の言い分を聞いて、成長の幅を狭めなきゃいけなんだよ。

 そんな俺の不満が通じたのか、相対している探索者が肩をすくめる。


「分かった、分かった。モンスターと戦いったいっていうのなら、深層域を活動場所にする際には、俺たちに一言かけてくれ。深層域は一番の稼ぎ場所で、俺たちのような探索者が多く活動してモンスターを狩り続けているから、モンスターと出会う確率が低いんだ。誰も活動していない通路の場所を教えてやるから」


 こちらの事を話の通じないやつという態度での提案に、俺はイキリ探索者っぽく話が分かっていない演技をする。


「分かってくれたらいいだよ。深層域に行く際には話しかけろってことだろ? それぐらいならしてやっても良いぜ。じゃあ、俺は行かせてもらうからな」


 俺が立ち塞がっていた探索者たちの横を通り、第四階層の通路へと足を踏み入れた。

 歩き去る俺の背中には、出入口に屯している探索者たちからの視線が突き刺さる感触が続いた。



 第四階層の浅層域の通路を進んでいくと、今までの階層と違い、低頻度で探索者と出くわすことがある。

 出くわした探索者の多くが、俺が一人でいることに驚きと不審の目を向けてくる。

 第四階層は、第三階層よりも一層にモンスターの危険度が増しているという。

 そんな危険な場所に仲間を連れずに歩いている存在は、確かに奇異に映ることだろうな。

 そうした探索者の目を気にしない態度で通路を進んでいると、モンスターと会敵した。

 全身に包帯のような布を巻いたモンスターのマミーだ。

 マミーは俺を発見すると、第二階層のモンスターであるグールと同程度の速さで近づいてきた。


「見るからにアンデッド。そしてスケルトンにランサー、ゴブリンにソードマンがいた事を考えると。グールの進化系がマミーってところか?」


 俺はひとまず戦槌でぶん殴ることにした。

 布を巻いているとはいえ、中身がグールなのなら、戦槌の一撃で倒せるはずだからだ。

 俺は近寄ってきたマミーに、思いっきり戦槌を叩きつけた。

 するとマミーは、大きく吹っ飛んで地面に転がった。

 上々の戦果に見えるが、俺は手に伝わってきた感触に不信感を抱く。


「なんだ? 硬い? いや、柔らかい?」


 感じたのは、少し不思議な感触だった。

 表現が難しいが、極薄の鉄の板を貼り付けたマットレスを叩いたような、硬質な手応えの後に叩く力を吸収されたような、変な手応えだった。

 どういう感触か言い表せずにいると、吹っ飛んで地面を転がっていたマミーが起き上がるのが目に入った。


「一度でダメなのなら!」


 俺はマミーが起き上がりきる前に、戦槌で殴り掛かった。

 再攻撃、一度目、二度目、三度目、四度目――マミーの頭部に直撃し、その首が折れた。ここでマミーは薄黒い煙と化し、薄茶色の麻布っぽい反物を一巻き落とした。


「ふぅ。三階層のモンスターと比べると、第四階層のモンスターは急に耐久度が上がったな」


 俺は反物を拾うと、その布がマミーの体に巻いているのと同じものっぽいことに気付く。

 そして今まで出会ったモンスターのことを思い返して、耐久度が高い理由に思い至る。


「もしかして、マミーの包帯っぽい布って、防具なのか?」


 ダンジョンの中では、あらゆる機械作りのものが低品質となり、手作りの物が高品質になるという、不思議な物理法則がある。それこそ電気炉と油圧ハンマーで作った五ミリの鉄板と、手作業で植物繊維を解した手漉きの和紙が、ほぼ同等の防御力になる。

 その事実を考えると、明らかに手作りと分かる目の粗い布を巻くということは、ダンジョンの外の物理法則に照らすと鉄板を体に巻き付けたような防具となる。

 そして先ほど俺が感じた不思議な手ごたえは、そのダンジョン内に適用される不思議な物理法則の影響に違いない。


「つまり四階層の魔物は、今までより倒しにくいモンスターばかりってことか?」


 俺は自分の得物の戦槌を見て、これでは威力不足なんだと理解する。

 戦槌を進化させるため使い続けてきたけど、ひとまず第四階層のモンスターと戦い慣れるまで、十字架ヘッドに進化したメイスの方を使うことにしよう。メイスの方が攻撃力が高いみたいだしな。

 俺は次元収納の中に戦槌を入れ、メイスを取り出して持ち替えた。

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― 新着の感想 ―
修正箇所です 「分かってくれたらいいだよ。深層域に行く際には話しかけろってことだろ? それぐらいならしてやっても良いぜ。じゃあ、俺は行かせてもらうからな」 ↓ 「分かってくれたらいいんだよ。 ~ じ…
[一言] これでマフラーを作れば首回りの防御強化に?
[一言] こういう事してる奴らばっかりだから攻略進まねえんじゃねえの?
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