五十四話 深層域のマップ埋め
深層域に入り、モンスターが一匹しか出てこない通路を進んで、第四階層へ続く階段まで到着した。
俺はここでスマホを取り出し、ダンジョン用のアプリを呼び出して、地図を確認する。
相変わらず地図は、回想と階層を最短距離で結ぶ通路は詳しく描かれているが、その脇道となると途端に途切れ途切れだ。
でも、これは仕方がないことだ。
探索者の多くは、ダンジョンを完全攻略しようとしている人と、ダンジョンで金を稼ぎに来ている人が大多数。そしてガチ攻略が始まる第三階層に入るような人だと、その傾向が顕著になるはずだ。
つまり、通路の脇道を探索するよりも、より先の階層に進んでいく人ばかりなのだ。
それに今までの傾向を見るに、脇道の奥に行けば行くほど、一度に出くわすモンスターの数が多くなる。
その数によって、階層を安全に進みたいと思っている攻略思考の探索者は、脇道に行きたがらなくなる。
金稼ぎをするための探索者なら、モンスターの数が多く出ることは歓迎だろう。しかし通常ドロップ品の換金率がまだ低い第三階層に拘る必要はない。より実力に見合った階層で、より換金率の高い通常ドロップ品を出すモンスターと戦った方が実入りが良い。
そんな複合的な理由で、第三階層の深層域に至っても、未探索な通路が多く存在しているわけだ。
「第四階層からは、それなりに通路が広く判明しているようだけどな」
たぶんガチで金稼ぎにしにきている探索者のメイン階層は、第四階層からなんだろうな。
俺はスマホを出したまま、深層域の未探索通路へ向かって歩いていくことにした。
モンスターが二匹同時に出くわす場所を経て、三匹同時に出くわす場所へ。
やはり数は力で、三匹のモンスターを相手取るのは、いつでも大変だ。
それに、この深層域にいるどのモンスターも、こちらに大怪我を負わせるだけの手段があるため、戦闘は慎重かつ神経を使うものになるしな。
モンスターを倒す順番も重要だ。
ゴブリンソードマンは剣による間合いの広さと軌道の多彩さがあるし、ビッグアントは俺の力じゃ一撃で倒せないタフさがあるし、ゾンビブッチャーは相打ち攻撃が強力だ。
ゴブリンソードマンを先に倒そうとすると、他の二匹と連係を取るべく粘る戦いをしてくる。結果、近い間合いで三匹同時に戦う羽目になる。
ビッグアントを倒すのに時間をかければ、他の二匹に近づかれる。その二匹がゾンビブッチャーだったら、相打ち攻撃を食らう危険が高まってしまう。
ゾンビブッチャーを倒した直後は、必ず身躱ししないといけない。薄黒い煙と化して消える直前まで、相打ち攻撃やこちらを掴んで動きを止めようとしてくる。
そんな危険を体験したからこそ、そのときそのときの状況とモンスターの組み合わせを考えて、倒す順番を瞬時に決断しないといけない。
リスクを避ける戦いをするのか、リスクを承知で速攻で片を付けるのか。
そういう神経を使う戦いを続けていくため、あまり長々と三匹同時に出る区域には留まれない。
だから、どうにか一つの通路の突き当りまで行ったところで、一度二匹ないしは一匹だけでる場所まで戻り、休憩を取る。
治癒方術のリフレッシュとリジェネレイトをかけてから、また別の通路の先へと進む。
この繰り返しで、徐々に深層域のマップを埋めていくしかなかった。
第三階層の深層域のマップ埋めを始めて、二週間。
この二週間で、モンスターを倒して一通りのレアドロップ――ゴブリンソード、ビッグアントの蜜球、ゾンビ肉包丁と魔石を度々入手しつつ、どうにかマップ埋めが完了した。
マップを埋めきった結果、この深層域には休憩部屋はないことと、マップの左右の離れたところに一個ずつ宝箱があることが分かった。
隠し部屋を探してみたけど、どこにも発見できずに終わった。埋め終わったマップ上にも、隠し部屋らしい怪しい空間はなかったのが残念だ。
そして二つの宝箱からは、十枚ほどの銀貨と二、三枚の金貨、ポーション四本と硬革鎧が一つ出てきた。
ポーションは有り難く在庫にさせてもらい、他は売り払うしか使い道がないんだよな。
だから俺の不老長寿の秘薬を探すという目的からすると、今回もハズレだったわけだ。
「宝箱から出てきた革鎧。綺麗な革の装飾があるけど、日本じゃ人気なくて大した値段がつかないだろうしな」
日本では日本鎧が主流で他の防具は不人気だが、外国では革鎧は普通に使われている。
だから少しでも高く売ろうとするのなら、外国人向けのオークションに出すべきだ。その方が、欲しい人の手に渡るだろうしな。
岩珍工房に送ることも考えたけど、あちらは出来上がった製品よりも素材の方が欲しいだろうしね。
とりあえずマップは埋め終えたので、第三階層の出入口に戻って、ダンジョンの外に出よう。
この位置からなら、第四階層に上って出る第四階層の出入口で、ダンジョンの外に出た方が早くはある。
しかし岩珍工房に送るレッサーオークの革が、この二週間の行き来で、あと少しで段ボール箱一つ分になりそうなんだ。だから帰り道で少しレッサーオークを狩って、ドロップ品を集めようと思っているわけだ。
というわけで、第三階層の出入口に向かって、俺は歩き出したのだった。