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四十二話 第三階層活動中の他の探索者たち

 第三階層からは、ガチの探索が始まる。

 だから第三階層やそれより先の階層へ進む探索者たちの装備は、オリジナルチャートを走る俺以外、押し並べて似たり寄ったりな見た目になる。

 全身を日本鎧で包み、腰に日本刀を大小一本ずつ指し、背中には飲食物やドロップ品を入れる大容量リュック。頭装備は、身体強化スキル持ちなら兜で、気配察知スキル持ちなら陣笠や編み笠。

 今の俺は、二匹連れのモンスターと戦い慣れることと、戦槌を使い慣れるため、役所が公開している第三階層から第四階層への通路の近くを活動場所にしている。

 だから俺が戦槌を振り続け疲れて休憩を取っていると、日本鎧姿の一団が連れ立って歩いて近づいてきたりもする。

 俺が次元収納からペットボトルを取り出し、中身の水を飲む。

 そんな俺の姿を、日本鎧姿の一段は頬面越しに、あり得ないものを見ためを向けてくる。そして俺の格好を見て、俺が誰かを察したような頷く身動きをする。

 彼らは、俺が最近役所で騒動を起こしているイキリ探索者だと分かったんだろう。

 厄介な人物に関わりたくないと言いたげに速足になって、俺の近くを通り過ぎようとする。

 イキリ探索者を装うからには、ここで絡みに行った方がいいだろうか。

 いや、後に役所で彼らを見かけた際に、俺に恐れをなして逃げていった腰抜けと蔑んだようが、より『らしい』かもしれないな。

 そんなことを考えながら、通り過ぎる一団を視線で追う。

 すると、俺の場所を少し通りすぎたあたりで、やおら立ち止まった。

 もしかして俺に絡んでくるつもりかと心構えをしようとして、そうではないことに気づかされる。

 なぜなら、一団の中にいる編み笠の男が、警告を発したからだ。


「前方から、猪が二。近づきつつある」


 その言葉が耳に入ったので、俺は少し顔を傾けて、通路の先に目を向ける。しかし突進ボアの姿も形も見えない。

 しかし一団の他の面々は、その気配察知スキル持ちであろう男の言葉を疑わず、腰の日本刀を抜いて戦闘準備に入る。

 すっかり日本刀を構え、立ち位置を定めたところで、通路の先にようやく突進ボア二匹が現れた。

 突進ボアは、日本刀を構える日本鎧の一団を見かけるや、一気に突っ込んできた。しかも小賢しいことに、日本刀を振りにくくさせるためか、壁に沿うように走ってきている。

 通常の突進よりも遅い速度なので、恐らく日本鎧の一団に近づいたところで、二匹同時に走る軌道を変えて突っ込んでくる気でいるんだろう。

 やはり一匹のときより、二匹のときの突進ボアは知能が高めに感じる。

 探索者の一団はどう対処するんだろうと思いながら、日本鎧の一団が身躱して、突進ボアがこっちに突っ込んでくるかもしれないから、俺は戦槌を構えておくことにした。

 しかし、その備えは杞憂に終わる。

 なぜなら、日本鎧の一団の先頭にいた探索者が、迫りくる突進ボアへと刀を振るったからだ。


「身体強化あああああ!」


 スキル名を叫びながら斬りかかる際に、その探索者の存在感が大きくなったように感じた。

 恐らく身体強化スキルによって力強さを増したことで、俺がその身体から発せられる迫力を存在感という形で認識したからだろう。

 初めて見る身体強化スキルを観察していると、瞬き一つの間に、二匹の突進ボアの頭が両断されていた。

 あまりの早業に、映像のコマが飛んだんじゃないかという錯覚をするほどだった。

 これは、身体強化スキルが既存チャートで強く推奨されているわけだと納得せざるを得なかった。

 恐らく、あの探索者の身体強化スキルは、一度か二度レベルアップしているんだろう。

 それで、あの目にも留まらない速さで攻撃できるようになるのであれば、もっとレベルアップすれば破格の強さを手に入れることが出来るだろう。それこそレベルを上げて物理で殴れば、どんなモンスターでも倒しきれると思えるぐらいに。

 そして俺が次元収納スキルを選んでから治癒方術スキルが入手できたように、あの探索者たちも身体強化スキルを選んだ先に何らかのスキルを得ている可能性が高い。

 恐らくは、戦闘系のスキル。インターネットを使っての事前調査からすると、多くは斬撃強化や耐久強化だという。

 先ほどの攻撃は身体強化スキルしか使ってなかっただろうから、斬撃強化のスキルを使ったら、どれだけの強度のモンスターでも斬ることができるのか。石どころか鉄までも斬れるんじゃないだろうか。

 そんな明確な『強さ』を目の当たりにすれば、既存チャート上ではモンスターをいち早く発見する気配察知はパーティーに一人いれば良く、物を多少多く持てるだけの次元収納は必要ないと結論付けられても仕方がないと言えた。

 ゲームでもレベルを育てての物理ごり押し戦法は、時間が多少かかるものの誰でも楽にゲームクリアできる基本戦術だしな。

 しかし力押し一辺倒で攻略できるほど現実のダンジョンは甘くないことは、東京ダンジョンがある層より先に探索が及んでいないという情報が確実性のある噂として流れていることから明らかだ。

 そして既存チャートでは行き詰ると分かっているからこそ、俺は俺の目的のためにオリジナルチャートを作ったわけだしな。

 そんなことをつらつらと考えていると、日本鎧の一団は刀を収めて立ち去ろうとしているところだった。

 彼らは、倒した突進ボアの肉を拾わず、先に進もうとしている。

 放置された肉を見て、ここはイキリ探索者を装うチャンスだと判断した。


「なあ、アンタら。その肉を捨てていくなら、俺が拾ってもいいんだよなあ?」


 大声で呼びかけると、日本鎧の一団は一度を止めて俺を見てから、再び歩き去り始めた。


「おーい。勝手に拾っちゃうぞ? 後で所有権を主張してもダメだからなー?」


 再度確認のために声をかけるが、今度は日本鎧の一団が足を止めることはなかった。

 それならと、俺は突進ボアの肉を二つ拾い、次元収納の中へと入れてしまう。

 これであの一団から、俺は他人の成果でも遠慮なく拾うっていう悪評が他の探索者へと流れることだろう。

 また一歩、オリジナルチャート完成への道が進めたと、俺は喜んだのだった。

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― 新着の感想 ―
パーティで行動することを考えればどう考えても次元収納は1人は必要だから何度想像してもハズレスキルなりえないんだけど 強化 気配 次元 7   2  1 くらいの割合が現実的か?
[一言] イキリとクズは意味が違うぞ
[一言] この反感を買うムーヴで何のスキルが生えると確信してるんだか ただソロしたいだけでこれだとガッカリなんだよな ちゃんと理由があると信じたいわ
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