三十八話 実戦で実践
本格的にダンジョン探索が始まるとされる、第三階層。
浅層域のモンスターかつ単独の相手だというのに、俺は手強さを感じてしまっていた。
突進ボアの突進は殺人的で、グリーンラヴァの糸吐きは面倒だし、コボルドアーチャーの弓矢は厄介だ。
これらのモンスターと戦い慣れるまでは、三階層の奥に行くことは控えるべきだと、俺は判断した。
「地道が一番だ。地道が」
探索を足踏みしなければいけないことに焦る気持ちを抑え、俺は改めて自分の手札を確認する。
武器は魔具のメイス。防具はドグウ手甲と手製の防具ツナギに鉢金。スキルは次元収納と治癒方術。
これらの手札の懸念は、武器がメイス一本であることと、防具の防御力が第三層のモンスター相手だと不確かなことと、攻撃専用のスキルがないこと。
「スキルは仕方がないし、防具の更新も難しいけれど、武器の予備はすぐにでも確保した方がいいな」
不意にメイスを手放すことになった際に、代わりの武器を次元収納から取り出せば、継戦できるしな。
しかしオリジナルチャートの関係から、予備の武器もメイスのような打撃武器にしたい。
そして第三層から先の魔物に通用する武器となると、鍛冶師に依頼しての総手製か、ダンジョンで入手する魔具か、モンスタードロップ品で作る手製かになる。
鍛冶師に依頼だと、注文してから届くまで、かなりの時間が必要になる。
なにせ日本中の鍛冶師は、総手製から機械打ちまで、日本刀作りに明け暮れている。その日本刀の注文の中に、鈍器製作を割り込ませようというのだ。忙しい鍛冶師は注文を拒否するだろうし、作ってくれると約束してくれても特別料金が発生しそうだ。
ダンジョンで入手するには、第二階層の迷路状の通路にある宝箱を開けるか、グールのドロップ品である錆びた武器を整備するかになる。
情報が拡散されたこともあって、いま迷路状の通路は銀貨金貨を探す探索者で溢れているはずだから、宝箱から鈍器を得ることは難しい。それに宝箱は一週間に一度の頻度でしか復活しない。予備の武器を得るには、時間がかかり過ぎる。
グールのドロップ品は、予備の武器という使い方を考えると、多少錆びていても使えるのなら問題ないように思える。ただドロップ品で出てくる武器はランダムらしいので、目当ての鈍器が出るまで、延々とグールを狩り続ける必要がある。
モンスタードロップ品での自作は、手軽に武器を作れそうではある。しかし、どんな素材を使うかが問題だ。生憎、三階層までのモンスタードロップ品で、鈍器に使えそうな素材は思い当たらない。
この中で実現可能なのは、グールのドロップ品だろうな。
グールのドロップ品では、鉄製の武器を落とすことが多い。良い鈍器が出てこなくても、鉄製の武器を溶かして棍棒を自作するぐらいは出来るかもしれないし。
「でも、せっかく三階層にきているんだしなぁ……」
予備の武器は必要だと感じるが、第三階層のモンスターと戦い慣れることも必要だ。
幸いなことに、一匹ずつ相手にするのなら、少し危険はあるが、倒しきれる。
予備武器を得るためにグールを倒し回ることは明日にして、今日のところは三階層のモンスターと戦って慣れる時間に当てた方がいいはずだ。
「よし、そうと決めたのなら、うだうだと立ち止まってないで行動するべきだな」
俺はメイスを持ち直すと、モンスターを探して通路を進む。
歩く速度はゆっくりめにして、モンスターとの不意の遭遇や不意打ちを警戒しながら、確実に一匹ずつ相手にすることを心掛ける。
そうして着実に一匹ずつモンスターを倒していって、それぞれの攻略の仕方が分かってきた。
突進ボアは、突進してきたのに合わせて横っ飛びで躱しつつ、メイスの先を突進ボアの足に当てる。すると突進ボアは、走っていた勢いのままに転んで、しばらくの間目を回す。その自失している間に、メイスを叩き込んで倒す。
グリーンラヴァは、わざと糸を吐き出させる。射出された糸は、次元収納にある適当な物体――コボルドの矢などを投げつけることで、その投げたものに絡んで無効化できる。糸を吐いたグリーンラヴァは糸を再充填するために動きが止まるので、そこをメイスで叩き潰す。
コボルドアーチャーは、矢の速度がさほどじゃないので、飛んできた矢を手甲で払いのけつつ接近できる。そして接近しきってしまえば、あとは普通のコボルドと同じように倒せる。
そうした対処法の確立により、俺は一匹ずつなら楽にモンスターを倒せるようになった。
「ここで調子に乗って、二匹出る場所に行く――っていうのは、死亡フラグだよな」
パッと考えるだけで、ここにでるモンスターの嫌な組み合わせが思い浮かぶ。
まずは、突進ボアとグリーンラヴァの組み合わせ。
俺は突進ボアの突撃を躱す際は、その場で動かずに避けるタイミングを図っている。
このとき、もしグリーンラヴァの糸が体にかかってしまって動けなくなったら、突進ボアの攻撃をまともに食らう羽目になるだろう。
そしてコボルドアーチャー二匹組も脅威だ。
射出された矢がゆっくり飛んでくるとしても、一度に二本同時に来たり、絶え間なく矢を浴びせかけられたら、手甲で矢で払い退けることが間に合わなくなる。
他の組み合わせでも、考え付かなかった脅威があるかもしれない。
一匹ずつならどうにか勝てるだけの俺が、二匹同時に相手にして勝てるとは、どうしても思えない。
「着実に行こう。着実に」
今後一人で二匹のモンスターを相手にすることを考えるなら、いまの安全に倒す方法だけでなく、多少の危険があっても素早く倒す方法も確立するべきだろう。
そしてその方法を考えつくには、まだまだ戦闘経験が足りない。
俺はやるぞという気持ちを固めて、自身に治癒方術のリジェネレイトをかけると、再びモンスターを探して通路を進むことにした。




