三十六話 久々のレベルアップ
第二階層の深層域を歩き、モンスターを倒し続ける。
戦闘を続けるうちに、グール、スライム、角兎の楽な倒し方が分かってきた。
グールは近寄ってきたところで、頭を粉砕する。
スライムは、あえてメイスのヘッドで身体を削り取るように振るうと、直撃させるよりも少ない回数で倒せる。
角兎は、タイミングを合わせて横振りを直撃させるか、角の一撃を身躱しながらコンパクトにメイスを振るうカウンターで仕留めることができる。
そうして戦い慣れた頃、モンスターが二匹ずつ現れるようになった。
二匹ずつ戦う際、厄介な組み合わせは、グールと角兎、そして角兎二匹だ。
走り寄ってくる見た目が恐ろしいグールと、恐ろしくない兎の見た目にも関わらず角の一撃が凶悪な組み合わせは、咄嗟の判断での優先順位を誤りそうになる。
脅威度から判断すると、角兎を倒してからグールを相手にするべき。
そう頭で分かっていても、人間大のグールに走って近寄られると、その腐った見た目と体格の大きさから本能が勝手に脅威に感じて、優先的に戦おうとしてしまう。
角兎二匹の場合も、兎が弱い動物だと人間の遺伝子にでも刷り込まれているのか、角という脅威があるにもかかわらず、つい侮る心持ちが生まれてしまう。
こういう心理的な障害は、戦い続ければ慣れていくんだろうが、現段階では命を脅かす要素でしかない。
そのため俺は、今までより一層、戦いに気を配りながらモンスターを倒していった。
そしてグール二匹という、一番楽な組み合わせのモンスターを倒し終え、次元収納にドロップ品を入れたところで、久々に脳内にアナウンスが流れた。
『次元収納の容量が上がった』
端的なアナウンスの直後、俺は直感的に次元収納の容量がどれぐらい増えたかを理解した。
先ほどまでより八倍の容量――つまりダンジョンに入って最初に得た容量と比べると、六十四倍の容量に増えたということ。
実に登山リュック六十四個分という容量は、およそで千~千五百リットル――小型トラックの荷台並みとなる。
これは個人で用いるには十二分といえる容量だろう。
「この調子で容量が上がるなら、次は元の五百十二倍か」
もしそうなったら、一万リットル越え――大型タンクローリーの容量に匹敵する。
ここまでくると、ダンジョン探索で必要だろうかと疑問に感じる容量だな。
ともあれ、千リットルを越える容量に次元収納が進化したことは嬉しい限り。
これで前みたいな、モンスターを倒し過ぎて、ドロップ品が入れられなくなるということは滅多になくなるだろう。
むしろ、次元収納に入っているドロップ品を、役所の売却窓口まで持っていくく方が大変になる。
「リアカーを買うべきだろうか」
小型トラックの荷台並みの容量なら、リアカーも入るだろうし、役所への運搬も楽になる。
そんなことを考えながら、今度はスライム二匹の組み合わせと戦う。
メイスを何度となく振るって、ようやくスライム二匹を倒し終え、溶解液を二本入手。
ここまでの戦闘で疲れが溜まってきた感じがあるので、治癒方術のリフレッシュを自分にかけておくことにした。
その直後、また脳内にアナウンスが聞こえた。
『治癒方術の新術を身につけた』
アナウンスの直後、俺は直感的にどんな治癒方術が出来るようになったかが分かった。
新術は二つ。
一つは、徐々に怪我と体力を回復させる、リジェネレイト。
もう一つは、手の届く範囲より外にいる人の怪我を治せる、フォースヒール。
二つともパーティーの回復役として役立つ治癒方術だが、俺にとって実質的な新術はリジェネレイトだけだった。
「遠くにいる人にヒールをかけられるようになってもなあ……」
俺は単独だから、ヒールがあれば怪我の治療は事足りる。
それに他の探索者には、俺が治癒方術を使えることは隠す気でいるから、辻ヒールで使用するわけにもいかない。
使いようがないなと諦めかけて、ふと閃いた。
ゲームだと、ヒール系ってアンデッドに特攻だったよなと。
「このダンジョンにもアンデッド系のモンスターはいるな」
第二階層の深層域では、グールが該当する。
それならと、次にグールに出くわした際に、試しに出会い頭に使ってみることにした。
もし東京ダンジョンのグールに効かなくても、初っ端であれば、敵を回復することにはならないし。
俺はグールを探して、通路を進む。
角兎の二匹組み、スライムと角兎の組みを倒し、次に角兎とグールの組みと会敵した。
「では――治癒方術、フォースヒール」
グールに手を向けて、フォースヒールを発動。走って近寄ってきていたグールの身体がキラリと光り、そしてバタリと倒れて薄黒い煙と変わった。
行き成りのことに驚いたが、とりあえず跳びかかってきた角兎をメイスで始末しておくことにした。
もう一度検証のため、グールを探して歩き、今度はグール二匹の組みと出くわした。
グールが走り出してくる前に、俺はフォースヒールを発動する。
「治癒方術、フォースヒール。フォースヒール」
フォースヒールをそれぞれに当てると、グールたちは頽れてから薄黒い煙に変わった。
これで治癒方術は、アンデッド系のモンスターに特攻があるとわかった。
ちなみに、怪我をさせたスライムと角兎で試してみたところ、その怪我が治ってしまった。どうやらアンデッド以外だと、モンスターでも回復してしまうようだ。
「特定のモンスターだけにしか効かない点は残念だけど、攻撃手段が増えたことは喜ぶべきだな」
しかしグール相手なら、メイスの一撃で倒せるので、フォースヒールを打つ必要はあまりない。
倒したグールから出てきた、錆びついた武器二つを次元収納に入れて、第三階層へ上がるための階段に向けて歩くことにした。