エピローグ3 取材
子供用紳士服に身を包んだ俺は、江古田記者と合うならと定番化している、東京駅近くにある老舗喫茶店にやってきた。
頼んだナポリタンとメロンジュースを頂きながら待っていると、喫茶店に入ってきた江古田記者の姿が見えた。
江古田記者は店員に俺の居場所を聞いたんだろう。すぐに近寄ってきた。
俺は、テーブルに備え付けて置いてある紙ナプキンでナポリタンで赤くなっていた口元を拭うと、顔隠し用のキツネ面を顔に被った。
江古田記者は、俺の姿――子供用紳士服を来たキツネ面の子供を見て、驚いた様子だ。
「えーっと、金ぴか仮面さんですか?」
「今は見ての通り、子狐だけどな」
「声は変声前のものですけど、その口調は間違いなく金ぴか仮面さんですね」
江古田記者は写真撮影を要求してきたので、キツネ面のまま撮影を受けた。
一通りの写真が撮り終わったようで、江古田記者は俺の対面の席に座り、店員に茸クリームパスタとコーヒーを頼んだ。
それらの料理が来る前の雑談といった感じで、江古田記者は早速質問してきた。
それに対して俺は、今まで培ってきたイキリ探索者のイメージを壊さない程度ながらも、子供化したことは不本意な感じを演じていく。
「本当に子供の姿になっちゃったんですね。探索者は引退ですか?」
「さてな。今まで使ってきた武器も防具も、この体じゃ使えないってことは分かっているけどな」
「では、続ける気でいると?」
「さあな。続けるにしても、階層の低い場所を行き来するぐらいになるんじゃないか」
「体が子供になって、攻撃力不足を実感しているというわけですね」
「子供の身体に合う武器だからな。大人が使う武器と比べれば、攻撃力の不足は仕方がない」
なんて口では言っているが、俺には空間魔法と傀儡操術と精霊召喚のスキルがある。
空間魔法の空間断裂と空間貫穿、傀儡操術で操るモンスター、光と闇の精たちの助けがあれば、十字メイスや魔槌が使えなくなった今でも、ダンジョンの最前線で活躍することは難しくないだろう。
でも俺は目的を果たしたから、東京ダンジョンに入る必要性がないので、やらないけどな。
江古田記者の質問は続き、子供の身体になった際の不便な点や、本当に不老長寿になったのかという点や、その他細々としたことを聞かれた。
俺は全ての質問に、失意の中にいるイキリ探索者風の答えを返していった。
一通りの質問が終わったようなので、今度は俺から江古田記者に質問することにした。
「それで、俺が地竜を倒して一ヶ月以上が経過したよな。他に倒したヤツはいるんだろ?」
「それがですよ、未だに一人も出ていないんです」
江古田記者の返答に、俺は一瞬絶句してしまった。
「……おい。倒し方は教えたよな? 十九階層深層域の奥にある女性像で、ドラゴンスレイヤーを合成すればいいって」
「それが。その奥の場所まで行ける探索者が極少数なことと、合成した竜討伐の武器もアースドラゴンを傷つけはできても、大した威力がないみたいで」
「大した威力がない?」
俺の考えに反する答えに、キツネ面で隠した顔を顰めてしまう。
なにせ、さまざまな魔法薬を突っ込んで、若返りというデメリットつきではあったものの、不老長寿の秘薬を合成できてしまう女性像の金小箱だ。
武器と大量の竜の素材を突っ込めば、一撃で地竜を倒せる武器が手に入ってしかるべきのはずだ。
「そんなはずないだろ。ドラゴスレイヤーは竜を倒せる武器になっているはずだ」
「どんな武器も通用しなかったアースドラゴンの鱗を斬り避けるんですから、ちゃんと竜討伐の武器にはなっているそうですよ。でも、殺せるほどの威力はないそうです。だから数を揃えて、戦っているみたいですよ、いまは」
「まさか、小刀に竜の肉の欠片を合成したんじゃないだろうな。それなら理由はわかるが」
「そんなわけないじゃないですか。ちゃんと新品の大打刀を用意し、それとドラゴンの鱗で合成させたそうですよ」
江古田記者の言葉に、俺は疑問を感じた。
「刀はいいとしてだ。合成材料は、ドラゴンの鱗だけか?」
「そう聞いてますよ。あ、もしかして、鱗じゃなくて肉の方が良かったとかですか?」
「そうじゃねーよ。鱗の量だよ、量。どれぐらいの量を入れたんだ」
「話を聞いた分じゃ、一つ入れたぐらいじゃないですか」
江古田記者は言いながら、俺の言いたいことに気付いたようだった。
「もしかして、合成材料って、沢山入れた方が良いんですか?」
「入れれば入れるほど、強い武器になるだろうな。ただし、入れた数が多ければ多いほど、合成に時間がかかるみたいだけどな」
「はー、なるほど。ちょっと入れただけじゃ駄目だったわけですね」
「つーか、どうせ合成するなら、素材は大量に入れるもんだろ。艦船の建築でも、建材ケチったら、駆逐艦しか出てこないだろうが」
「えーっと、なんの話ですか、ソレ?」
江古田記者は、オタク文化に詳しい人ではなかったらしい。
俺は誤魔化すように「とにかくだ」と口にして、無理矢理話を続けることにした。
「ケチらずに、ドラゴン関係の素材をどっさり入れれば、ちゃんとしたドラゴンスレイヤーが出来るってこった」
「なるほど! 良い情報です!」
江古田記者は目を輝かせて特ダネを喜んでいる。
その一方で俺は、もしかしたら『ドラゴン関係の素材をどっさり』って、他の探索者には荷が重いんじゃないかと考え直していた。
なにせ他の探索者たちは、俺みたいに高レベルの次元収納スキルを持っていない。
だからドラゴン関係の素材を大量に持ち運ぼうとすると、必然的に背負って運ぶしかないわけだ。
そんな大量の荷物を抱えた状態で、あの十九階層深層域の奥へ行くのは、かなりの苦行だと想像がつく。
しかも十九階層深層域にでるモンスターたちは、一切ドラゴン関係の素材をドロップしない。宝石心臓はドラゴン関係の可能性もなくはないが、仮にそうだとしても、あれはレアドロップ品なので大量に入手することは難しいからな。
つまり、普通の探索者たちがドラゴンスレイヤーを手にしようとするのなら、十九階層の他の場所でドラゴン関係の素材を大量に集めてから、その大荷物と共に十九階層深層域の奥にあるあの女性像の元まで行き、持ってきた武器と素材を金小箱に投入して、合成が終わるまでの時間を待つ必要がある。
仮に今日の今にその行動を始めたとして、ドラゴンスレイヤーができるまでの時間を考えると、やっぱり一ヶ月ぐらいはかかるんじゃないだろうか。
そんな考察をしていると、江古田記者はまた自分の質問のターンだとばかりに質問をしてくる。
どうやら、二十階層の地竜を攻略できる情報を渡したことで、他のモンスターも楽に倒す方法を教えてくれるんじゃないかという希望を持たせてしまったらしい。
それなら俺は、イキリ探索者っぽく、そんな事も知らないのかという態度と口が滑ったっていう雰囲気で、色々なモンスターの情報を渡してしまうことにしよう。
どうせ俺は、探索者は辞める気でいるんだし、情報を渡してしまっても問題ないだろうからな。




