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最終話 オリジナルチャート完遂

 東京ダンジョンから出た俺は、その足で役所までやってきた。

 そして手ぶらのまま、買い取り窓口に並んだ。

 俺の今までの行動を知る職員や探索者たちからは、なぜリアカーを牽いていないんだという疑問の視線がきている。

 上手い感じに注目が集まっていることを確認している間に、俺の買い取りの番になった。


「えー、小田原様。買い取るものはどちらに?」


 職員の疑問の声に、俺はイキリ探索者の演技を全開で返答する。


「そう気忙しくいうなってんだよ。ちゃーんと、売り物は用意しているんだからよお」


 俺は大仰な身振りをしながら、首から下げた宝石心臓を、全身ジャケットの革越しに手で包む。そして宝石心臓に意識を注入し、魔力を生産させる。

 宝石心臓から出てきた魔力を使い、俺は次元収納スキルを発動させる。

 ダンジョン内ではないのに、次元収納の出入口である白い渦が出現した。

 そのことに、役所内で俺の様子を見ていた誰もが、驚きの声を上げる。


「スキルって、ダンジョン内でしか使えないはずだろ」

「でも、あれは列記とした、次元収納スキルだぞ」


 混乱する人達を尻目に、俺は次元収納の出入口から、十九階層深層域で集めたドロップ品に加えて、二十階層の宝箱から収集した武器と金銀宝石を買い取り窓口に提出する。

 そうやって山盛りで渡した後で、俺はイキリ探索者らしく胸を大仰に張ってみせる。


「どうよ。これだけありゃ、文句ねえだろう?」

「え、いや、その、どうしてスキルが使えるんです?」

「おやぁ~? 知らねえのかよ。次元収納に魔石を入れておくとな、ダンジョンの外でも次元収納スキルが使えんだよ。まあ、一度使うと魔石が一個消費するから、コスパは最悪なんだけどなあ!」


 俺は演技で、無知な他者を見下すように、ゲラゲラと笑った。

 俺の発言を受けて、役所の中にいた探索者の何人かが魔石を取り出している。

 たぶん次元収納以外のスキルでも、魔石を消費すればダンジョン外でもスキルが使えるかの検証をする気なんだろうな。

 では、ここで更に、爆弾情報を投下だ。

 俺は次元収納から、地竜のドロップ品である地竜鱗の鎧を出して、買い取りカウンターに載せる。


「こいつは売る気はねえけど、二十階層の竜を倒した証拠だからな。一度ぐらいは見せておかないとだろ?」


 偉そうな態度で俺が言うと、職員だけでなく探索者たちも更に驚いた表情になる。

 そして俺に対面している職員が、この場の全員の代表のように、俺の質問してきた。


「ほ、本当にグランドドラゴンを倒したんですか!? 小田原様はお一人ですよね!?」

「俺に探索者の仲間が居ないってのは知っての通りだ。つまりは、そーいうこった」


 ここで俺は、周囲にいる探索者に振り向く。


「そういやあ、二十人ぐらいで竜に挑んだ奴らがいたが、あいつらの結果はどうだったんだろうなあ?」


 人をムカつかせる言い方をすると、あのレイドパーティーと面識がある探索者がいたのか、数人が色めき立った。


「お前一人で、グランドドラゴンを倒せるはずがない!」

「そうだそうだ! その鎧も、コスプレ衣装を製作する会社で、作ってもらったもんだろ!」

「あのアニメの鎧に似てるしな!」


 非難だらけの言葉に、俺は大声で言い返す。


「うるせえ、間抜け共が! あの竜を倒すにはな、専用の装備が必要なんだよ! 十九階層深層域の奥にある像に、武器と竜に関する素材を捧げることで、竜討伐用の武器が手に入んだよ! それを持ってねえのに、あの竜が倒せるか、馬鹿が!」


 俺が倒した方法じゃないけど、一応の真実を告げてみた。

 すると、俺の言い放った情報を疑う目がやってきた。

 まあ信じるも信じないのも、彼ら彼女らの自由だ。

 俺の目的は、俺が地竜を討伐したことを信じてもらうのではなく、地竜を討伐した報酬を見せびらかしているこの状況だからだ。

 俺は次元収納に地竜鱗の鎧を仕舞うのと引き換えに、虹色に光る包装紙に包まれた飴を取り出す。

 その後で、俺はこの飴を高々と掲げる。


「俺が竜を倒したことが信じられねえって言うのなら、もっと確かな証拠を出してやろうじゃねえか! 見ろ、これは竜を倒して手に入れた、『常春とこはるの飴』っていう不老長寿の秘薬だ! いまここで俺が食べて、効果を実証してやる!」


 そう言い放ってから、俺は頭防具の口元の装甲を展開し、虹色の包装紙を向き、真珠のような光沢の白い飴を取り出す。

 常春の飴の効果は、鑑定LV3の説明によると、食べた人を幼少期まで若返らせたうえで、老いと寿命をなくすというもの。

 若返りのデメリットは、男性なら精通前、女性なら初潮前の身体に永遠に留まるため、子供を作ることが出来ないこと。

 もっとも俺は、子供を作る気も結婚する気もないので、このデメリットはデメリット足りえない。

 だから遠慮なく、常春の飴を口に含み、ガリガリと噛み砕いて、飲み込むことが出来る。

 俺が飴を飲み下した直後に俺の身体は、魔石を得た武器が進化する際と同じように、光輝き始める。

 このとき、俺が身体に感じるのは、涼やかで爽やかな春の風が、俺の体内を駆け巡っているような、そんな感覚だった。

 やがて、その風の感覚が治まるに従い、俺の身体の輝きも静まっていく。

 輝きが終わった俺の身体は、鑑定で分かっていたように、幼少の姿――小学校五年生ぐらいの姿に変貌していた。

 大人から子供の身体に変わったことで、全身ジャケットはブカブカになり、手と腕が縮んだことで手袋が脱げ、足が小さくなってブーツが長靴のような有様になる。

 ここで俺は、この効能が予想外だったと周囲に思わせるよう、大きな叫び声を上げることにした。


「な、なんじゃーこりゃああああああ!」


 子供特有の甲高い声を放つと、俺の変化が信じられないと、周囲から探索者や役所の職員が集まってきた。


「うわ、マジで縮んでる! いや子供の姿になってるぞ、これ!」

「不老長寿じゃなくて、子供に若返る薬だったわけか! 天罰だな、ざまあ!」

「今の飴、二十階層の竜を倒した報酬なんですよね、そうなんですよね!」

「小田原様! 若返った身体に不調がないか検査しますので、政府が提携している病院で診察を受けてください!」


 若返った体を揉みくちゃにされつつも、俺は自分の目的の達成を感じていた。

 子供の姿にはなったものの、寿命のない不老長寿の肉体を得た。

 そして、大人から子供の姿になったことでダンジョンに入ることは難しくなったと、そう言い訳して探索者を止めることができる。

 つまりこれで、俺が東京ダンジョンで不老長寿になるためのオリジナルチャートは完遂だ。

 でもだ――


「――いい加減にしろ! 俺は玩具じゃねえんだぞ!」


 最後の最後まで、イキリ探索者の演技は忘れずにやっておくことにしたのだった。




以上で、本編は終了となります。

以後、エピローグ的な話を、週一程度の頻度で何度か投稿してから、物語を締めくくらせていただきます。


そして、

当作品『オリジナルチャート発動! 俺が現代ダンジョンで求めるは不老長寿の薬!!』は、

書籍化の打診を受け、書籍にするべく進行中です。

いつ書籍になるかは未定ではありますが、書籍となった際にはお手に取ってくださいますよう、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
打ち切りみたいな終わりなら子供になる必要なくないか?なぜ不老不死になりたいかフラグ回収して終わり、なら納得できるんだが、、、 サイキックランナーから読み続けてきたけど残念感強すぎる
おつ! 矛盾点の洗い出しや重複部分の削除等々で時間かかりそうなのを入れても、書籍化おめでとうござんす!
[一言] 何が楽しい老後?なんだか解らん結果に成ってしまったな。
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