三十四話 帯一つ
次元収納から出した台車とリュックと共に、東京ダンジョンの外へ。そして台車の車輪をガラガラと鳴らしながら、役所の中へ。
この一ヶ月、常にガラガラ鳴らしてきたからか、役所の中にいた人たちから『またお前か』と言いたげな目で見られる。
だが俺が装うイキリ探索者は。その程度の視線に狼狽えたりしない。むしろ、無意味かつ自慢げに胸を張って見せるべきだろう。
そんな自信溢れるように見える態度で、俺は買い取り窓口へモンスタードロップ品を持ち込んだ。
ミニゴーレムの石板、ゴブリンのミサンガを大量に。ゾンビ犬の腐肉と毒牙は、持ち込んだ閉じ口付のビニール袋の分だけ。ゴブリンの短剣とミニゴーレムのバックラーは各五個ずつ。
そして宝箱から出てきた銀貨、片手剣、そして金貨も渡す。
窓口職員から整理券を貰い、少し待ってから番号を呼ばれて、売却代金を受け取りに行く。
すると一万円の束に帯がついた状態で出てきた。端数に数枚の一万札と千円札、硬貨も数枚ある。
思わぬ高額買い取りに、代金についてくる買い取りの内訳表を手に取ってみてみる。
金貨一枚につき十万円で、五枚で計五十万円。片手剣は二十万円。その他のモンスタードロップ品が合計で、およそ三十万円。
そうした内訳で、百万円をやや越える収入となったようだ。
俺は納得し、人生で初めて現ナマで百万円の束を手にする。
しかし改めて百万円を手にして思うのは、意外と薄くて軽いなという感想だった。
急速に感動が薄れてきて、あまり喜べもせずに札束をリュックの中に。後で銀行のATMで口座に入金しよう。
そんな冷静な考えが浮かんだ反面、イキリ探索者の演技を忘れていることに気付いた。
いまさら大金に浮かれるのは説得力がないから、不平不満をいう方向に演技しよう。
「……ちぇー。予想よりも安かったぜ。珍しいもんを持ち込んだってのになー」
評価に不満があるような呟きを漏らしながら、役所の外へ行こうとして、一ヶ月前に銀貨を持ち込んだ時のように他の探索者に行き道を邪魔された。
「チッ。なんか用かよ、あああッ?!」
俺がガラ悪く凄むが、今度の探索者は尻込みしなかった。
「君は第二階層を中心に活動していたよな?」
「それがどうしたってんだ。なんか文句でもあんのかあああ?!」
「第二階層のどこで活動すれば、それだけ稼げるんだ?」
「大事な飯のタネを言うわけねえだろうがよ! 舐めてんのか!?」
「……いや。第二階層で稼げることが分かっただけで十分だ。どこで稼いだかは、およそ見当がついたしな」
「情報のタダ取りしておいて、なにクールぶった発言してんだ、タコ!」
俺がガラ悪い口調を続けていると、役所に常駐している警察官が二名、慌てた様子で近づいてくる。そして警察官は、俺の姿を見ると、またお前かと言いたげな顔になる。
「言い争いはよしなさい! 特に君は、他の人と協調することを覚えた方がいい」
「はああああ?! 俺の方が被害者なんですがあねええ? このタコ野郎が立ち塞がったうえに変なことを言ってこなきゃ、気分良く外にでられたんですけどおお?」
「分かっている。君の方から絡んではいないことは、良く分かっているからね」
警察官は俺に落ち着くように身振りすると、探索者の方におざなりな注意をする。
こうして注意したから矛を収めてくれというポーズであることは重々承知しつつ、あえて警察官からの提案に乗る。
「チッ。だから他の探索者と話すのは嫌なんだよ。こっちを食いものにしようってクズしかいねえからなああ!」
探索者がクズなら、探索者である俺もクズっていう論調が成立する主張をあえてしながら、苛立った様子を装って役所の外へ。
そして銀行のATMのある場所へ歩きつつ、溜息を一つ。
「迷路の区域を探索し終えた後で良かった。もうあそこには、用がないしな」
先ほど俺に絡んできた探索者があの場所を根城にしようと、俺の目的である不老長寿の秘薬がないと判明しているので、気楽に別の場所で活動できるしな。
そして、他の探索者と組むべきじゃないという気持ちが、確固たるものになる。
金貨を売った金を見て、マナー違反をするような奴らがいる界隈だ。
仮に俺が不老長寿の秘薬を手にしたら、売却して得られる金に目がくらんだ奴に殺されそうだし。
「金のためじゃなく、違う目的でダンジョンに入っている人となら組めるかもしれないって、淡い期待はあったけど」
その期待が成就することはないかもしれない。
俺は、仲間を得た場合のチャートは封印するべきかもしれないと思いつつ、ATMを操作して自分の口座に役所で得た金を入金したのだった。




