三百三十九話 地竜討伐・中編
魔槌の爆発と光の精の光輪の攻撃で、地竜の鱗にダメージを与える。そして地竜が割れた鱗を飛ばして攻撃する。
地竜の鱗飛ばしを合計三回やり過ごした結果、俺が受けた被害は配下の多脚戦車二匹が薄黒い煙に変わって消えただけで済んだ。
最初の鱗飛ばしで多脚戦車が一匹倒されたのに、後二回をもう一匹の多脚戦車で耐えられた理由は、防御の仕方を変えたため。
「また鱗飛ばしだ! 耐えるぞ!」
俺は、多脚戦車に前面を跪かせる体勢を取らせ、俺自身はその身体の内に隠れる。そして、多脚戦車に魔力鎧を発動させて、防御力を底上げする。
ここまでは最初の鱗飛ばしでやった防御法と同じだが、ここからが違う。
「空間貫穿!」
俺が宣言した直後、多脚戦車の斜めになっている上面装甲に、空間貫穿の黒い杭が出現する。
黒い杭は、上面装甲一面を覆うほどの直径で、しかし突出部は十数センチしかない、そんな歪な杭。
見た目だけで言えば、多脚戦車の頭に黒いとんがり帽子を載せたような感じになっている。
この新たな防御法がどれほどの守備力を誇っているのかは、地竜は放ってきた鱗の破片で証明される。
飛んできた鱗の破片が多脚戦車に襲い掛かるが、最初はとんがり帽子の黒杭によって防がれた。
空間貫穿の黒杭は、対象物を消滅させるたびに小さくなる特徴がある。そのため、鱗の破片を消せば消すほど小さくなり、やがて消えてしまう。
消えた黒杭の次に、魔力鎧が鱗の破片を受け止め、そして消失する。
魔力鎧が消えれば、多脚戦車の装甲で受け止める番になるが、空間貫穿の黒杭と魔力鎧によって既に大半の鱗の破片はやり過ごせている。
少量の鱗の破片なら、多少の破損程度は受けるものの、多脚戦車の装甲で十分防御が可能だ。
こうして鱗の破片を防御しきれば、再び地竜を攻撃するターンだ。
「地竜の鱗の三分の一ぐらいが無くなっている。ここからは、鱗狙いじゃなくて、直接肉体を攻撃するぞ!」
あえて言葉にすることで、俺自身に目的を自覚させる。
光と闇の精たちを呼び出し、光の精には地竜の地肌が見えている場所へ光輪で攻撃を、闇の精には闇のフィールドや闇の球でデバフを地竜に与えることを命じる。
そして俺は、少し装甲が壊れている多脚戦車と共に、地竜へと突っ込んでいく。
「ここからが本番だ!」
俺は地竜の首元の鱗がない場所に目掛けて突き進みつつ、魔槌に爆発力を発揮させてから空振りを重ねることで爆発の威力をチャージする。
近づく俺に対して、地竜は前脚の片方を大きく振り上げ、そして振り下ろしてきた。
踏み付け、ないしは爪での攻撃。それらが外れても、床を叩くことで小さな地揺れを発生させる。それが地竜の目論見だろう。
そうと分かっていれば、対処の仕方はある。
「跳べ、多脚戦車!」
俺の号令に従い、多脚戦車は少し身を沈めさせた後に跳び上がった。
地竜の振るう前脚の横を通り過ぎ、そして地竜の地肌が見える首元の近くへ。
「食らえ!」
俺は魔槌を振るい、地竜の首に叩きつけた。派手な爆発が起こり、地竜の首が大きく傷ついた。
しかし俺はその傷の具合を確かめる前に、多脚戦車に傀儡操術で命じて、地竜の体を蹴って再跳躍させた。
その直後、地竜が大きく身震いを始めた。
あのまま地竜の近くに居たら、生え残っている鱗ですり下ろされてしまうところだったな。
無事に地竜の攻撃をやり過ごした後は、もう一度地竜へ攻撃する体勢に入る。
多脚戦車の高速移動で接近し、爆発力を発揮させた魔槌で叩く。ダメージを与えたら、地竜の攻撃範囲から即座に離脱し、再びこちらが攻撃する体勢へ。それを繰り返す。
魔槌で狙う場所は、生き物なら急所になる太い血管が通っている、首や四肢の付け根を集中的に。
光の精の光輪の乱射で地竜の肉体に薄いながらも広範囲に傷がつき、闇の精のデバフで地竜の動きが鈍い状態が保たれる。
そんな行動を十回ほど繰り返したところ、地竜の身体はいたるところから出血している状態になった。
ここで地竜が、再び割れた鱗を射出しようと体を膨らませる。
しかし俺たちは鱗の無い部分を攻撃していたため、地竜は割れた鱗を飛び散らせる攻撃が不発に終わる。
この段階になって、俺たちが最初はあえて広範囲に鱗を傷つけることで、地竜が鱗飛ばしをした際に必要以上の鱗を使うように仕向け、後々に鱗を傷つけないでも地竜の身体にダメージを与えられるように画策したことを、地竜は悟ったようだ。
そして鱗飛ばしによる範囲攻撃ができないのならと、別の範囲攻撃を選択したようだ。
「土の吐息だ! 全速力で駆け抜けろ!」
地竜の土の吐息は、山津波のような土石流を口から吐く、竜の吐息の一種だ。
口から吐くという特性から、吐息の攻撃範囲は顔から正面にかけてにしか及ばない。
だから地竜の口から土石流が吐かれる前に、地竜の側面への移動ないしは体の内側に潜り込めば、土の吐息は無力化できる。
その俺の思惑の通り、地竜の側面へ移動したところ、地竜の口から大量の土石が吐き出されたものの、無傷でやり過ごすことに成功した。
しかし気は抜けない。
地竜の方も、俺が避けると確信していたのだろう、長い尻尾を振るって一撃を見舞おうとしてきた。
「っ跳べ!」
慌てて命じたものの、回避行動が少しだけ遅かった。
空中へ跳び上がった多脚戦車だが、後ろ脚の一本が地竜の尻尾に当たり、もげ取れてしまった。
被害はそれだけに留まらず、尻尾に当たった衝撃で、俺と多脚戦車は共に空中を錐揉みすることになった。
俺は回転する視界の中、急いで対策を講じることにした。
「次元収納! 魔力鎧!」
脚一本を失った多脚戦車を次元収納に入れ、そして自分の身体に魔力鎧を纏う。
その対策をした一秒後、俺は回転する体が床に落ちた衝撃を感じた。
しかし事前に纏っていた魔力鎧のお陰で、落下したダメージは一切ない。
だけど、空中で錐揉みした所為で、視界がぐるぐる回り続けている。
この状態だと、地竜の攻撃を回避することは難しい。
「自分で回避できなくても」
俺は次元収納から、新しい多脚戦車を出し、それに捕まってその場から退避する。
その直後、俺がいた場所に、地竜の踏みつけが降ってきた。
踏み付けが床を叩いた際に弱い地揺れが起こったが、多脚戦車はよろめくことなく退避を完了させる。
しかし俺が不調なことを悟られたのか、地竜が四つ足を急いで動かして迫ってきた。
地竜の目的は、あの巨体を活かした体当たりを食らわせることだろうな。
俺は未だに回転したままな目に映る景色の中、必死に多脚戦車によじ登る。
そして体が固定できる場所に移動し終わったところで、地竜の突進から全速力で逃げ始める。
「流石は中ボス。ままならない!」
魔槌と光輪で削りきれれば、それが一番だった。
しかし、当初の予定以上に多脚戦車の消耗が激しい。
このまま状況が推移すれば、こちらの移動の足が無くなって攻略が詰んでしまう。
「無事な多脚戦車は、これで最後だしな。仕方ない、切り札を切っていくしかないな」
戦果は期待できても危険な戦い方になるので、あまりやりたくはないんだけどな。
そう思いつつ、俺は視界の回転が収まったのを確認して腹を括ることにした。




