三百二十九話 精霊たちは魔石が欲しい
精霊たちを連れてのダンジョン行を続けていると、モンスタードロップ品に魔石が出た。
何時もの調子で魔槌で砕いて進化の足しにしたのだけど、その後の精霊たちの様子が気になった。
なんというか、残念がっている感じで、魔槌に砕かれて消えていった魔石を見ている。
「もしかして、魔石が欲しかったのか?」
俺の質問に、精霊たちは同時に頷いた。
精霊たちが魔石を欲しているのは分かるけど、なんのために必要なんだろうか。
「道具と同じように進化のために必要なのか、それともダンジョン外でスキルを使うときみたいに魔力源として欲しているのか」
どっちが正解かを確かめるのに、良いものがある。
俺は次元収納の中から、ドラゴンゴーレムのレアドロップ品である宝石心臓を出した。
握って意識を込めれば魔力を生産する、この宝石。
これなら、精霊たちが進化のためにか魔力源のために魔石を欲しているかがわかる。
試しに宝石心臓に意識を込めて魔力を生産させてから、精霊たちの方へ差し出してみる。
すると精霊たちは、宝石心臓に寄って手をかざし始めた。頬が緩んだ表情と合わせて、真冬にストーブの前にいるかのような光景だ。
「うーん。魔力を欲してはいるようだけど、魔石を砕いた際に見せた執着とは違う感じだな」
となると、進化方向で欲していると考えた方がよさそうだ。
「でも、精霊って進化するのか?」
ゲーム的に考えると、より上位の精霊に進化するのが常道だろう。
「配下にしたモンスターに魔石を与えると上位に進化するとしたら、他のモンスターにも適応されるのか?」
そこまで考えて、果たしてそうなのかという疑問が湧いた。
現代ダンジョンにいるモンスターは、ラノベでは良くある展開の、その階層に出ないはずのモンスターが現れるという事象が報告された例がない。
もし魔石を得たモンスターが上位種に進化するとしたら、殺された探索者が持っていた魔石を吸収して進化した個体が発見されても良いはずだ。
しかしそうなっていないことを考えると、モンスターが進化するとは考えにくいんじゃないだろうか。
「配下になったモンスター限定か、はたまた精霊系のモンスター限定か。それとも、この精霊たちが魔石を欲しているのは、別の理由からか」
果たしてどれが正解なのかを知るためには、新たな魔石を入手することが必要になるだろう。
幸いにして、俺がいる場所は十九階層深層域の迷路――つまり七匹一組でモンスターが現れる場所であり、モンスターからのレアドロップ品が出やすい場所だ。
二十階層への階段を目指して進んでいれば、一つぐらい魔石を手にすることはできるだろう。
楽観的に構えて、ダンジョンの通路を移動することにした。
あと少しで迷路部分から脱出できるという地点で、倒した竜人から魔石がドロップした。
一日に二度魔石が出るとは、運がいい。
俺の顔ぐらいある魔石を拾い上げると、さっそく精霊たちが寄ってきた。
ここで俺は遅まきながら、精霊二匹に対して魔石が一つなのを理解した。
どっちが使うか争うかもしれないなと危惧していると、精霊たちは同時に魔石に抱き着いた。
争う様子もなく抱き着いているのを見るに、所有権を主張するための行動ではないようだ。
「でも抱き着いているだけなら、宝石心臓と同じで魔力を感じるためか?」
と疑問に思っていると、突然魔石が割れた。
なんというか、もともとヒビが入っていたかのように、綺麗に真っ二つに割れている。
俺が驚いている間に、割れた魔石から光が現れ、精霊二匹に等量ずつ分かれて入っていった。
その直後、精霊たちの姿がピカッと光った。
しかし光輝いていたのはほんの一瞬程度で、すぐに消えてしまった。
武器が進化する際は、姿形が変化するぐらいには長く光っていた。
それを考えると、精霊たちが光輝いたのは進化とは違うんだろうな。
そんな俺の予想の通り、精霊たちの姿形に変化はなかった。
「いや。少しだけ衣服が変わっているか?」
よくよく見てみると、闇の精の袖の端と、光の精の裾の端に、小さな柄の刺繍が入っている。
ちょっとだけ衣服が豪華になった感じだけど、でも変化はそれだけだった。
「強くなったりとか、新しい攻撃方法を身につけたとか、そういうのは無いのか?」
その質問に、精霊たちは『なに言っているのか分からない』と言いたげに首を傾げる。
いやまあ、見目麗しい精霊たちにとってみれば、身につける一張羅の見目が良くなるために魔石を使うのは良い使い方なんだろうけどさ。
期待していた変化とは違ったので、俺は肩を落とした。