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三百二十四話 迷路の果て

 闇と光の精霊たちを仲間にしてから、一ヶ月が経過した。

 当初の目論見から少し外れ、未だに迷路状の通路の完全解明には至っていない。

 その理由は、迷路状の通路の奥へ行けば行くほど、曲がりくねった道が多くなるうえ、行き止まりに出くわす頻度が多くなり、休憩部屋や隠し部屋が見つからなくなったからだ。


「最後に見つけた隠し部屋から、徒歩で一日の距離には、どこにも休憩部屋や隠し部屋がなくて、寝泊まりできないんだもんなあ」


 そんなわけで、一つの行き止まりに行きついて寝泊まりできる隠し部屋に戻るだけで、一日が終わってしまうことが多くなった。

 そうした時間の浪費があり、いまは残り五分の一ほど通路が未解明のままになっていた。

 この状況はいけないと、俺は解明の仕方を変えることに決めた。


「睡眠をとるため休憩部屋に戻って来ていたけど、疲労は治癒方術で治せるんだから、眠気さえどうにかできれば、活動時間は伸ばせるよな」


 いちいち隠し部屋に戻る時間を節約するため、行き止まりに行き当たったら、そこで仮眠をとることで睡眠時間を確保する。

 いよいよ眠気が我慢ならなくなったら、隠し部屋に戻って確り睡眠をとる。

 少し危険度が上がるが、攻略を早く進めるためには、必要な危険だと割り切ることにした。

 さっそく未探索の通路へと進み、やがて行き止まりに行き当たる。

 行き止まりの場所にある罠を全解除してから、多脚戦車たちに周囲警戒を任せ、壁際に座って壁に背を預け、目を瞑って三十分を目安に仮眠を取る。

 ダンジョン内は静かで、気温も一定という、仮眠を取るのには十分に適している場所だ。

 モンスターが襲来する危険はあるが、完全に寝落ちしないよう気を付ければ、この静かさによってモンスターの足音がハッキリ聞こえるようになるため、不意打ちを食らう心配は必要ない。

 そうした考えを頭から追い出し、ひたすら身体と脳を休ませることに集中する。

 ――体感時間で三十分経過したので、目を開ける。

 治癒方術のリフレッシュを身体にかけつつ、仮眠明けの動的ストレッチを行い、肉体と思考を再覚醒させていく。


「よし、頭も身体もスッキリした。解明再開だ」


 行き止まりから道を戻り、モンスターと戦って突破し、次の未探索通路へ。

 再び行き止まりに行き当たったら、食事と仮眠含みの休憩の後、さらに次の未探索通路へ。

 そんな探索方法を丸一日続け、仮眠では眠気が取り切れなくなったところで、半日かけて隠し部屋に戻って安全に就寝することで眠気を解消させる。

 そうした行動を三回行ったところで、一日の休憩を行うことにした。

 その休日の中、俺は自分の思い違いを自覚した。


「三勤一休の体制を堅持していたつもりだけど、一日半の行動を三回やっているんだから、4.5日勤務一日休みじゃないか」


 不覚にも一日半も多く働いていたことを、俺は反省した。

 だから行動を修正し、二回行動したら一日休みにすることに決定した。

 ともあれ、こんな風に少し変えた探索方法によって、いままでよりも順調に未探索通路を解明していくことができるようになった。

 このままいけば、残り地図の五分の一ほどの範囲の迷路なら、二週間もあれば全解明できるだろう。

 そういう考えで、日々を過ごすことにした。



 一週間ダンジョンに入り、一度家に帰り、更にもう一週ダンジョンに入る。

 これで完璧に全部の迷路を解明することが出来る、そう予定していた。

 しかし二週目の半分で、唐突に迷路の通路が全解明することになった。

 それは何故かというと、五十メートル四方はありそうな大きな部屋が、迷路の通路の奥にあったからだ。


「ここが十九階層深層域の迷路のゴールってわけだ」


 俺は魔法の地図を広げて、この場所から十九階層の出入口までの道程がどの程度かを確認する。

 複雑に入り組んだ迷路の通路ではあるが、全解明出来た今なら、最適なルートが分かる。

 それでも、俺の足でなら丸二日、多脚戦車にタンデムしての高速移動なら丸一日かかる距離だという目算になった。


「途中で休憩部屋や隠し部屋で休憩を取る道順にしたら、さらに一日上乗せって感じだな」


 つまり、この場所に来るためだけなら、休憩部屋や隠し部屋に入ってしまっては時間のロスが発生してしまうよう、迷路は設計されていた。

 ダンジョンを作った者が居るとしたら、なんとも探索者に優しくない迷路に作ったもんだ。

 ともあれ、俺は迷路のゴールに辿り着いた。

 これほど大変だった迷路のゴールなのだから、宝箱の一つや二つあり、その中身はとても良いものに違いない。

 そう願いながら、大部屋の中を見渡す。

 しかし俺の良そうに反して、部屋の中央に一体の石像があるだけで、他にはなにもなかった。


「石像だけなんて」


 と残念に思いつつ、とりあえずどんな石像なのか、間近に寄って観察してみることにした。

 手が触れられる距離で見てみると、とても綺麗な女性の像であることが分かった。

 ウェーブかかった長髪を持ち、豊満な胸元とくびれた腰に丸く大きな臀部を薄布で隠した、俺と同程度の長身の女性像。

 大理石めいた乳白色の石材だからか、薄布からはみ出している胸元や太腿が人肌を持っているように錯覚してしまい、思わず撫でたくなってしまう魅力に溢れていた。

 もちろん俺は、展示フィギュアを触るノーマナーなオタクじゃないので、触れたくなる思いをグッと堪えて観察するだけに留めている。


「それでも、性欲モンスターな探索者だったら悪いことに使いそうなほどに、魅力的だよな」


 一通り観察して、ようやく石像の局部以外の部分に目を向けられるようになって、俺は遅ればせながらに気付いた。

 石像の、胸を強調するような位置に配置された腕の先、腹部の前に置かれた両手の上に小箱が乗っていることに。

 その小箱は二十センチ四方ほどの大きさの立方体で、素材は全て金で出来ているようだった。

 この全金の物体を、俺が箱だと看破したのは、上部から三分の一ぐらいの位置に横に一筋の線――蓋と本体の合わせ目があると気付いたからだ。


「もしかして、これが本当の迷路をゴールした褒美ってことか?」


 俺は疑問に思いつつ、石像の胸元に触れないよう気を付けつつ、像が持つ金の小箱を開けてみた。

 そして中を伺うように覗くと、何もなかった。

 いや、正確にいうのなら、次元収納の出入口のような、白い渦があった。


「これもミミック鞄みたいに、見た目以上に容量が入る宝箱ってことかな」


 俺は小箱の中の白い渦に手を突っ込み、中を探ってみることにした。

 そしてすぐ、この小箱の中身を取り出すことに成功した。

 二十センチ四方の小箱の中から引っ張り出せたものとは、刀身が一メートルを越える大太刀だった。


「おおおー! おお?」


 今まで見たことのない巨大な刀に、つい驚いてしまったものの、苦労して突破した迷路の報酬にしてはイマイチな宝物だった。

 もしかしたら今までにない特殊な効果があるのかと思って、俺の次元収納が持つ識別を働かせてみた。

 しかし結果は、単に大きな刀というだけで、迷路通路に配置されていた宝箱の中にあった武具よりも劣るものでしかなかった。


「散々期待させておいて、これはないんじゃないか」


 攻略難度の高い迷路のゴールにある、とても綺麗な女性像が手に持っている、黄金に輝く小箱。

 ここまで期待を膨らませる要素がテンコ盛りなのに、小箱の中身からでてきたのは、何の変哲もない大太刀一本だけ。

 正直、詐欺だと悪態を吐きたくなってしまう。


「ゲームでも、意味深な場所に置かれたアイテムなのにゴミだったってことはあったけどさあ」


 そのゴミアイテムでも、何らかの意図やバックグラウンドがあって配置されていることが多かった。

 例えば、誰かの形見だったり、元あった宝物を持ち去った人の遺留品だったりだ。

 そういうゲーム的なことを考えると、こんなに意味深な金色の小箱の中身が迷路やダンジョンと関係のない大太刀だけなんて、あり得なさすぎて笑えない。


「……いや、待て。もしかして、この大太刀って、何らかの意味を含ませて入れられているアイテムだったりするのか?」


 どうして大太刀が、攻略困難な迷路のゴールに配置されていたのか。

 それも、超美麗な女性像に持たせた、金の小箱の中という、とても意味深な場所にだ。

 俺はいままでやってきたゲームを思い返し、同じような状況が無かったかを探っていく。

 すると、全く同じというわけじゃないけど、似たような場所を思い出すことに成功した。


「何のRPGゲームだったかは失念しちゃったけど、装備品強化の泉だったよな」


 特定条件下で行くことが可能な、特殊なダンジョンの最下層。

 美しい地下湖が広がるだけの光景に、一番最初にそこへ至った際、ゲームの主人公は『美しい湖だった』と感想を呟いて帰るだけだった。

 しかし後に、その湖に伝説の武器と強化アイテムを投げ込むと、伝説の武器を一段階強化できることが判明する。

 そうして強化した武器により、今までシステム的に倒せなかったボス敵を倒すことができるようになり、ストーリが先に進むようになる。

 そんなゲームだったはずだ。


「もしかしたら、あの泉と同じ機能が、この女性像の小箱にはあるんじゃないか?」


 そう考えると、なんの効果もない大太刀が入っている事にも説明がつく。

 なんの効果もないということは、どんな効果も付与できるということ。

 つまり狙った効果を、大太刀に持たせることが可能ということだ。

 ここまで考えが至ったところで、俺は肩を落とす。


「いまさら、装備品の更新とか要らないんだよなあ」


 俺の魔槌は、空振りチャージが必要ではあるが、一撃必殺の大爆発力を持っている。

 十字メイスにしても、単なる打撃力という意味では、普通の鈍器以上の攻撃力がある。

 それに俺の今の戦い方の主軸は、空間魔法の空間断裂や空間貫穿による殲滅だ。

 武器に新たな特殊効果を持たせる意味は薄すぎる。


「でも待てよ、武器じゃなくて、他の道具ならどうだ」


 例えば、ミミック鞄。

 あの鞄のように、見た目よりも多くものが入る鞄は、いくらあっても困らない。

 俺の次元収納のように、容量上限なしの鞄が作れるのなら、金の小箱を使う意味はある。

 防具にしても、自動修復や硬化度上昇などの効果が付与できたなら、一段二段と防御力が高まることは間違いない。

 そうした思考の果てに、俺は気付いてしまった。


「俺の予想通りの機能が金箱にあるのなら、もしかしたら不老長寿の秘薬を作れるんじゃないか?」


 思い付きからの言葉だったが、実際に試してみるべきだろうと、俺は決心した。

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず不老薬ができれば…!
[気になる点] 装備品の強化なら何故大太刀には特殊効果がなかったんだろう? 強化アイテムとして魔石が必要なんじゃ?
[良い点] 不老長寿に届きそう [気になる点] 金の小箱は持って帰れないのかなあ できたら彫像も [一言] 緊張感いいですね
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