三百二十二話 精霊のいる生活
闇と光の精霊たちを、モンスターとの戦闘で使うようにする。
そう決めてから、幾つかの戦闘を終わらせたところで、俺は闇の精の使い易さと光の精の使い難さを実感していた。
闇の精の能力は、敵の動きをワンテンポ鈍らせるという、極めて効果の弱いデバフではある。
しかし接近戦という、少しの動きの悪さが勝敗に直結する状況だと、かなり凶悪なデバフになる。
そして俺の戦い方は、基本的に姿を隠しながら接近しての不意打ちで始まり、接近戦で暴れ回って決着というもの。
その戦い方と、闇の精の能力は相性が良かった。
闇の精に黒い空間でモンスターを包んで貰い、その空間からモンスターたちが脱出するまでの間に、俺が接近を済ませておけるという、作業の連続性も上手いことハマるしな。
一方で光の精は、光による目つぶしは強力で、直撃すれば生物系モンスターは目を押さえて動けなくなる。
しかし、その効果は非生物系のモンスターには効かないし、生物系モンスターが運良く目をつぶっていた際は効果が弱まってしまうという、デメリットがあった。
この、相手の特性や状態によって効果がマチマチという点が、敵を倒す際の困難さに繋がる。
非生物系モンスターは元気に反撃してくるし、目つぶしを食らって動けないと思っていたモンスターが急に動いたりと、危険な場面が起こってきてしまうからだ。
この効果が一定でないという部分が、光の精の能力の使い難さだった。
「でも、片方を贔屓するわけにはいかないしな」
俺は、闇の精と光の精を、交互に一度ずつ使いながら戦闘すると決めている。
なぜ使い易い闇の精ばかりにしないのかというと、これはゲーム的な考え方から。
一部のギャルゲ―やモンスター育てゲーでは、一つの対象にかかりきりになると、その対象の好感度を一気に高めることが出来る代わりに、他の対象の好感度を大幅に下げるという仕組みがあったりする。
これがもし精霊契約にも適応されるとしたら、闇の精を使い続けた場合、闇の精の好感度が爆上がりする代わりに、光の精に悪感情を持たれかねない。
そして、その悪感情は精霊契約の破棄に繋がり、光の精が俺を攻撃するようになる、なんて可能性もなくはない。
そんな可能性を潰すためにも、闇の精と光の精との扱いに差を生むわけにはいかないわけだ。
「というか、最初最弱だったり使い難い能力を持つモンスターが、後々に活躍する存在になるってのは、育てゲーの定番だしな」
それに光の精の能力が全く使えないわけじゃないし、用は俺の使い方次第だしなと、これからも扱いを変えることはしないと誓った。
精霊を戦闘に使うようになって、半日が経過。
俺は発見した休憩部屋に入ると、次元収納から出したマットに座り、休憩と食事を取ることにした。
「道中食は度々口にしているけど、やっぱり腰を据えての食事が一番だよな」
俺はキャンプ飯レシピの中から、今回はワンパンのパスタを作ることにした。
カセットコンロを設置し、フライパンの中に乾燥パスタとミックスベジタブルとコンソメキューブを入れ、パスタが浸るぐらいの水を注ぎ、煮立たせていく。
適宜かき混ぜつつ、パスタの芯がなくなるまで茹でたところに、トマトベースのパスタソースと挽肉を投入する。
その後は、水気が飛ぶまでかき混ぜつつ煮て行けば、ワンパンパスタの完成だ。
「では、いただきます」
フライパンにフォークを差し入れて食事を開始し、ズボラなワンパンのパスタにしては及第点の味に、満足しながら食べ進めていく。
そしてパスタを半分ほど食べ終えたところで、俺は視線を感じた。
俺がフライパンから目を上げると、俺の前に闇と光の精霊たちが何故か出現していて、興味深そうに俺の食事風景を見つめていた。
その目は、知らないことを行っている人を見る子供のような、興味津々といった色を湛えている。
俺が食事する姿に興味がある――わけじゃないよな。
俺は少し考え、次元収納から新しい割り箸を出すと、それを割ってからパスタを二本本取り、箸に巻き付かせるように巻いていく。
そのパスタが巻かれた箸を、闇と光の精霊たちの間に差し出す。
「食べたかったりするのか?」
そう問いかけると、精霊たちは双方大きく頷き、そしてお互いに顔を向ける。
じっと見つめ合う両者。
目で意思表示が交換され、やがて光の精の方が大口を開けると、俺が差し出した箸を口に含んだ。
光の精は唇を閉じた状態で、ゆっくりと頭を後ろに引いていき、やがて箸から唇を離した。
俺が箸に巻きつけていたパスタは、ちゃんと光の精の口の中にあるようで、もぐもぐと口を動かして味わっている。
その様子を見ていると、闇の精が俺の左手を突いて、自分にもパスタを食べせろと控えめな主張を行っていた。
俺は新しい割り箸を出し、それで少量のパスタを巻いてから、差し出した。
闇の精も箸からパスタを口で抜き取り、美味しそうな顔で口をもぐもぐさせ始める。
闇と光の精霊たちは一通り味わうと、もしかしてお代わりを要求するかもという俺の予想に反し、もう満足したと言わんばかりの笑顔で両方とも消えていった。
「……腹が減って食事を求めたというより、料理の味に興味があったって感じだな」
その興味が満足したから、一口分だけパスタの摂取で去っていったんだろう。
「これから食事をする際は、精霊たちの分も用意しておかないとだな」
好感度を上げるためにも良いだろうしなと考えつつ、俺はパスタの残りを胃に収めることにした。