三百十九話 適した戦い方は
ダンジョンから帰ってきて、その翌日は一日休日にして、食料を買いがてら外食したりアニメやラノベを楽しんだりして、心の充填を行った。
そのお陰で、休日明けには、元気な調子を取り戻すことに成功した。
「十五日は潜り過ぎだったな。一週間に一度は、自宅に戻ってくるようにしよう」
幸い十九階層深層域の迷路に、いくつか寝泊まりできる部屋を見つけている。
こらから先は、その部屋を拠点にして活動して、迷路の残りを探索すればいいだけなので、長くダンジョンに泊る必要はないしな。
俺は意気揚々と東京ダンジョンにやってくると、外の出入口から十六階層に入り、十九階層深層域まで移動し、未探索の場所を探索しやすい休憩部屋を目指した。
先日に十五日間も潜り続けたことで、ここのモンスターたちを迷路状の通路で相手することが手慣れてしまった。
だから、右手に魔槌、左手に十字メイスという、二重武器状態でモンスターと戦ってみたりも出来てしまう。
「空間貫穿」
黒い杭を先に生やした状態の十字メイスを左手で突き込んで、ドラゴンゴーレムの一匹の胴体を破壊する。
その後で十字メイスを横に振って周囲を牽制しつつ、魔槌に意識を込めて爆発力を発揮させる。
魔槌の打面とは反対側にある三つの加速装置に火が入り、俺の腕力以上の力で魔槌が振り回され、竜人の一匹の頭を打撃。直後に爆発が起き、その竜人は頭を吹っ飛ばされて、薄黒い煙に変わって消えた。
こんな調子で、十字メイスの空間貫穿の杭で問答無用の破壊を突き入れつつ、魔槌の爆発で確実に一匹ずつ倒すようにしていけば、あっという間に戦闘に勝ててしまう。
「正直言うと、長柄武器を二本使った戦い方は、あまり褒められたものじゃないけどね」
突き刺せば倒せる空間貫穿の杭と、狙う場所さえ間違わなければ一撃で急所を吹っ飛ばせる魔槌の爆発頼りの戦法だ。
俺が一手戦い方を誤るだけで、一気に不利になる可能性を孕んでいる。
でも、これがモンスター相手の接近戦で、一番早く倒せる方法なんだよなあ。
「次点で早い、魔槌で戦いつつ片手の先から空間貫穿を近距離射出させる方法もあるけど、これは射出するまでの時間がいるしなあ」
俺は十字メイスを次元収納に仕舞い、口に出した戦法で次のモンスターたちを狩ることにした。
空間把握で見つけたモンスターへ、空間偽装で姿を周囲に溶け込ましつつ接近し、先に土の精たちを魔槌で殴りつけて手早く処理する。
土の精を倒したことで存在がバレたので、空間偽装を止めつつ、爆発力を発揮させた魔槌で竜人に殴り掛かる。
竜人の胸元を打撃し、爆発で胸部を吹っ飛ばして仕留める。
その爆風が晴れる前に、俺は片手をドラゴンゴーレムたちへと向ける。
「近距離速射で――空間貫穿」
目的を口に出しながら宣言すると、俺がドラゴンゴーレムに向けた手の先から、黒い杭が伸び出てくる。
太さは俺の腕ほどだけど、長さが十センチほどの、短い杭だ。
それが俺の手から出てきて一秒後に、ドラゴンゴーレムの一匹に向かって射出された。
ドラゴンゴーレムは火を吐こうとしていたが、胸元に黒い短杭を食らうと、その胸元が大きく消失したことで、即座に薄黒い煙に変わってしまった。
「同じので――空間貫穿」
他のドラゴンゴーレムに向かって、一匹一発ずつ短杭を射出する。
ドラゴンゴーレムの身動きは鈍いので、一秒の射撃時間があっても、狙いさえ定まっていれば命中させられる。
そうしてドラゴンゴーレムを全匹倒したところで、同じ手法を竜人に試す。
「空間貫穿」
俺の手の先から黒い杭が伸び、一秒待ってから射出される。
狙いは間違いなく合っていたはずだが、竜人に身躱しで杭を避けられてしまった。
「的が大きかったり、動きが鈍い相手じゃないと、空間貫穿の射出は当てられそうにないだよな」
こうした弱点があるからこそ、先ほど十字メイスの先に空間貫穿の黒い杭をくっ付けた状態で振り回すようにしていた。
ああすれば、竜人が避けても、再び十字メイスを振るえば再攻撃が手早くできるからな。
それに竜人相手の接近戦なら、空間断裂が断然使い易いしな。
竜人が殴りにきた拳を避けつつ、魔槌の先を竜人に押し当て――
「空間断裂」
――の刃を魔槌の先に展開することで真っ二つに。
そんな感じの戦い方で、俺は戦闘に勝利した。
「こっちの方が安全性は高いけど、多少時間が掛かっちゃうんだよなあ」
一長一短だなと思いつつ、先日に見つけた休憩部屋を目指して、迷路通路を進んでいった。




