三百十三話 レベルアップしたスキルたち
六匹一組の区域を抜け、七匹一組の区域へ。
ここで俺は、レベルアップした傀儡操術と空間魔法を試してみることにした。
まずは傀儡操術だが、こちらは操れる数が増えただけなので、簡単に試せる。
「傀儡操術」
傀儡操術が操れる対象は、無生物系のモンスター限定だ。
だから狙ったのは、ドラゴンゴーレム。
果たして結果はというと、多少の抵抗感があったため十秒ほど時間がかかったが、操ることに成功した。
この試みの中で分かったことだけど、空間偽装をしながらでも傀儡操術は試せたので、安全に無生物系モンスターを配下にすることができる。
俺は操り始めたドラゴンゴーレムを使って、他のモンスターを攻撃してみることにした。
最初に狙ったのは、厄介だけど耐久が低い、土の精。
ドラゴンゴーレムが石の爪で土の精の一匹を切り裂く。
味方だったはずのドラゴンゴーレムが急に暴れだしたことに、他のモンスターたちは混乱を起こしている。
その隙に、もう一匹の土の精を爪の餌食にしてやった。
ここまできて、ようやく他のモンスターたちはドラゴンゴーレムが敵になったと分かったのだろう、攻撃の体勢に入る。
それならと、俺はドラゴンゴーレムに炎の吐息を使わせ、範囲攻撃をすることにした。
吐かれた炎に、敵の竜人三匹とドラゴンゴーレム一匹が飲み込まれる。
竜人三匹は炎で喉が焼けたのか、顔を手で覆って蹲る。
しかし敵ドラゴンゴーレムは、身体が石で出来ているため炎の攻撃に耐えきり、反撃に突進してきた。
俺は、ドラゴンゴーレム同士で戦わせつつ、空間偽装を身体にかけた状態で、竜人三匹に近寄る。
その後は、竜人の頭に魔槌を振り下ろして、次々に止めを刺していった。
そんな作業の後にドラゴンゴーレムの様子をみると、同種の個体同士で拮抗しているからか、敵味方のドラゴンゴーレムの身体がボロボロになっていた。
それならと、俺は傀儡操術で指示をだし、味方のドラゴンゴーレムに敵ドラゴンゴーレムを羽交い絞めにさせた。
「標的にするのに丁度いい。空間魔法の新しい術――空間貫穿」
俺は魔槌の先を敵ドラゴンゴーレムに向け、空間貫穿を宣言して発動。
魔槌から黒い杭が伸び出てきた。
杭の大きさは、成人男性の片腕程の大きさと太さだ。
その杭が、出現してから数秒ほどの後、ドラゴンゴーレムの方へと飛んでいった。
空間貫穿の杭はドラゴンゴーレムに命中すると、なんの抵抗もなかったかのように、ドラゴンゴーレムの身体に大穴を開け、その裏にいた味方のドラゴンゴーレムの身体も貫通した。
「うおっ。すごい威力だな」
俺が驚いている間に、敵味方のドラゴンゴーレムが共に薄黒い煙に変わった。
杭一発で致命傷を与えられるうえ、その杭は遠距離攻撃だ。
これはとてもいい術が手に入った。
「でも、射出するまで数秒必要っぽいんだよなあ」
いま使った手応えと直感で、俺は空間貫穿の使い方が大分分かった気がした。
その使い方が正しいと理解するために、別のモンスターを標的にすることにした。
空間把握で周囲を確認し、モンスターの要る場所を把握し、そちらへ移動。
見つけたモンスターたちは、おあつらえ向きに、ドラゴンゴーレム七匹の編成だった。
チャイルドドラゴン五匹編成に苦戦したことを思い出しそうになり、俺は思考を戦闘に切り替えることで防いだ。
「さて、空間貫穿の使い方だけど」
俺は、魔槌を次元収納に入れ、代わりに十字メイスを取り出した。
杖から十字の先が伸びている方が、空間貫穿の狙いをつけやすいと考えてのことだ。
「では、遠くまで飛ぶように念じながら――空間貫穿」
宣言に従い、空間貫穿の黒い杭が、十字メイスの先端から出現する。
先ほど使ったときとは形が違い、太さが先ほどの半分ほどに減っていた。
射出されるまでの時間も違い、二十秒近く経ってから十字メイスから放たれた。
しかし射出されてからは、先ほどの空間貫穿の杭よりも明らかに飛翔速度が高かったし、魔力弾では届かない四十メートルほどの先にいるドラゴンゴーレムの胸部に直撃した。
「もう少し遠くてもいけそうな感覚があるな。五十メートルが射程圏ってところか」
速度と距離については満足だが、しかし射出まで時間がかかり過ぎるうえ、杭の太さが減った影響は穿たれたドラゴンゴーレムを見れば顕著だ。
胸部に大穴が空いているにも拘らず、ドラゴンゴーレムは未だに薄黒い煙に変わってはいない――致命傷を与えられなかったってことだ。
飛距離を伸ばすと、威力が下がるのが確定だ。
なら飛距離を犠牲にすれば、威力を上げられるんじゃないだろうか。
むしろ射出できないよう念じながら出現させるのが、空間貫穿の最高威力になるんじゃないだろうか。
「試してみるか」
俺は多脚戦車にタンデムすると、多脚戦車をモンスターたちに突っ込ませた。
七匹いるモンスターたちが、俺と多脚戦車狙おうと身構えたところで、俺は空間偽装で多脚戦車ともども姿を消す。
急に俺たちの姿が見えなくなったことで、モンスターたちは狼狽える。
その混乱を突く形で、一気にモンスターたちに接近した。
そして多脚戦車の足と俺の十字メイスとで、二匹いた土の精を真っ先に潰した。
これで残るは、竜人三匹とドラゴンゴーレム二匹。
俺は乗ったままの多脚戦車を操り、先ほど穴を開けた方のドラゴンゴーレムに近寄らせる。
「空間貫穿」
射出距離無しと念じながら宣言すると、空間偽装が消えて俺と多脚戦車の姿が現れ、その代わりに十字メイスの先に俺の胴体ほどの太さと身長程の長さの黒い杭が出現した。
まるで馬上槍のような姿になったのならと、その切っ先をドラゴンゴーレムに向けながら、多脚戦車を突進させる。
一方でドラゴンゴーレムは、迫る杭を両手で掴んで止めようとした。
黒い杭にドラゴンゴーレムの手が触れた瞬間、ドラゴンゴーレムの手が消し飛んだ。
そして黒い杭はドラゴンゴーレムの胴体にあたり、杭の直径の五割増しほどの範囲を抉り取る形で大穴を開けた。
あまりの高威力に俺は驚きが隠せなかったが、それよりも驚いたのが、空間貫穿の杭がドラゴンゴーレムが薄黒い煙に変わって消えた後も十字メイスの先に存在していること。
「いや、少し小さくなっているような?」
出現した最初は、人間の胴体ほど太さと慎重程の長さ――直径が一メートルで長さが二メートルほどあった。
しかし今の杭は、太さは五十センチほどで、長さも一メートル半ほどになっている。
「攻撃対象を抉る度に、杭が小さくなる仕掛けなわけか」
そして杭が小さくなる分だけ、攻撃力も下がっていくんだろうな。
空間貫穿の性能について理解したところで、もう一匹のドラゴンゴーレムに向けて、十字メイスを振るった。
十字メイスの先にある空間貫穿の杭が当たり、ドラゴンゴーレムの身体が斜めに削れた。
「切り払いにも使えるようだけど、杭の消費が激しいみたいだな」
見れば、杭の大きさは、太さも長さも人の腕ほどにまで減少していた。
明らかに、先ほど穿つために使ったときよりも、大きさの減じ方が増えている。
たぶん、空間貫穿――貫くためのものだから、それ以外の使い方をすると消費量が増えてしまうんだろう。
「斬るための別の術があるぐらいだしな――空間断裂」
俺が宣言しながら十字メイスを振るって竜人に当てると、空間貫穿の杭が消え、その代わりに空間断裂の刃が出現した。
竜人は空間断裂の刃を食らい、肩から斜めに真っ二つになり、薄黒い煙に変わった。
その後も順調にモンスターたちと戦い、順当に勝利した。
「空間貫穿は射撃と突撃に使えるが、飛翔距離を増やすと威力が減った上に射出時間がかかり、逆に射出しないようにすれば馬上槍感覚で長時間使えるわけだな。うん、使い方が工夫できそうな、いい魔法だ」
遠距離スナイプで敵の数を減らした後で馬上槍突撃という、古の鉄板戦法が一人で使えるのが楽しみでしかない。
「強力な攻撃手段が手に入ったことだし、これでより簡単に探索を続けることができそうだ」
俺は気分良くドロップ品を回収し、七匹一組の区域なのに全て通常ドロップ品だったことに肩を落としつつ、通路の奥へ向けて歩くことにした。