三百十話 近中遠で組まれると
十九階層深層域に出るモンスター三種類と戦い終え、自分の実力でも通じる相手であることは分かった。
それならと、早速三匹一組でモンスターが現れる区域へと踏み入ることにした。
竜人一匹と土精霊二匹の組み合わせ、ドラゴンゴーレム二匹と竜人一匹の組み合わせと戦い、どちらも勝利することに成功した。
どちらも多脚戦車を利用した戦いでの勝利だったので、次は自分一人の力で勝つべきだろうな。
そんな考えをしながら歩いていると、モンスターが各種一匹ずつの組み合わせと会敵した。
「あの三種で組んだ相手は強敵だろうなっていう予想が、俺の中にはあるけど」
果たして本当にそうなのかを確かめる時がきたわけだ。
どれほどの強敵かを実感で確認するため、多脚戦車たちを次元収納に入れて、一人で戦ってみることにした。
各モンスターの傾向と弱点は分かっている。
土の精は、魔法での砂による撹乱と石による射撃を行うが、耐久度が紙のように低い。
竜人は、手足と尻尾による格闘攻撃をしてくるが、遠距離攻撃に弱い上に短気な部分がある。
ドラゴンゴーレムは、口から火球と炎の吐息を放ってくるが、動きは鈍重で接近戦もさほど強くない。
以上の点から考えるに、俺が楽に勝利する道筋は、竜人との攻防は付き合わずに、土の精かドラゴンゴーレムに接近して強力な一撃で倒して数を減らし、後は流れでって感じだ。
「よし、やるか」
戦い方を定めたので、俺は魔槌を肩に乗せた格好で、三匹のモンスターへと走り出す。
モンスターたちは俺の接近に気付き、竜人が前、ドラゴンゴーレムが真ん中、土の精が後ろの隊形をとった。
ここまでは予想通りだったが、ここからは俺の予想通りじゃない行動を、モンスターたちは行ってきた。
竜人がドラゴンゴーレムの前に陣取って動かず、ドラゴンゴーレムは上体を起こして後ろ脚だけで立つような格好になり、そして土の精が俺の行く手を阻むように砂嵐を発生させる。
「砂嵐程度!」
俺は念のために魔力鎧を発生させてから、砂嵐の中へと突っ込む。
あと少しで砂嵐を抜けられるというところで、砂の幕を破るかのように、向こう側から竜人の蹴りがやってきた。
俺は咄嗟に魔槌の柄で受け止めるが、走り寄る勢いを殺されたどころか、自分の後方へと蹴り飛ばされてしまった。
砂嵐の外まで蹴り出されてしまったところで、砂嵐を突破して火球がやってきた。
火球は、頭上から床に向かう、斜めの軌道をとっている。
俺が咄嗟に横に飛んで避けると、火球は床に当たって破裂し、残り火を床に生じさせた。
ここにきて、俺はモンスターたちの隊列の意味を理解した。
「ドラゴンゴーレムの火吐きを軸に、とことん俺を接近させない戦い方をするわけか」
砂嵐による足止めを行い、竜人が砂嵐に入ってきた人物を攻撃して追い返し、ドラゴンゴーレムが高い位置に置いた頭から火を吐いて攻撃する。
なんとも安全策かつ受け身な戦い方だが、確実に探索者に勝とうという、モンスター側の気概も感じられる。
「どうしたもんかな」
俺とモンスターたちは、間にある砂嵐のベールによって薄っすらと、お互いの姿を認識できる。
俺が右に左にと火球を避けると、竜人が右に左にと動いて俺との位置を合わせてくる。
ドラゴンゴーレムは相変わらず火球を吐き続けての連続攻撃をしてくるし、土の精は砂嵐を維持するだけ。
全く変わり映えのしない攻撃に、俺はどうするべきかに悩む。
「あの砂嵐を、魔力弾は突破できないんだよな。だから接近戦を挑むしかないわけだけど」
無理に砂嵐を突破しようとしても、竜人に追い出されてしまう。
それに下手に直線的に突破しようとすれば、ドラゴンゴーレムの火球の餌食だ。
一応手詰まりではないけど、取れる手段が二つにまで限られてしまっている状況だ。
「穏便な手段か、少し過激な方法か」
穏便な方法は、次元収納から多脚戦車を出して戦うこと。
確実に砂嵐を突破したうえで、多脚戦車に竜人の戦いを任せれば、モンスター側の戦法を崩すことが可能だ。
しかしそれは、一人で突破することを諦めることを意味している。
「仕方がない。過激な方法を試してみるか」
俺は魔槌に爆発力を発揮させると、二つ三つと空振りを重ねていく。
俺が何する気か分からないのか、それとも何をしてきても変わる気がないのか、モンスターたちの行動は一貫して変化なしだ。
俺は次々と飛んでくる火球を避けつつ、五つ六つと空振りを重ねる。
そして最大まで爆発力を高めてから、俺は魔槌を砂嵐が発生している地点の床に叩きつけた。
直後、大爆発。
その爆発によって、砂嵐は吹き飛ばされ、大音声が通路に木霊する。
俺は頭防具の一つである、頭骨兜のフィルター機能のお陰で、爆発の光と音に目と耳を潰されることはなかった。
しかし、大爆発を目の前で食らった竜人は、その光と音に参ってしまったんだろう、床の上に倒れて目を回している。耳の位置から青い血が流れているのを見ると、鼓膜も破れているんだろう。
そして、最大まで高めた爆発の爆風を食らったのか、土の精はかなり遠くへと吹っ飛んでいて、慌てて味方のモンスターの元に戻ろうと空中を飛び戻ってきている。
唯一ドラゴンゴーレムは、その体が造り物だからか、爆発の爆風や爆音に怯まずに火球の連射を続けている。
だけど、こうしてモンスター側の連係が崩れた状態だと、単にドラゴンゴーレムが火球を放っている状況と変わらない。
俺はドラゴンゴーレムに近寄りつつ、その道の上に転がっている竜人の頭を魔槌で叩き壊して止めを刺した。
そしてドラゴンゴーレムに近寄り終わったところで、空間切断を胴体に食らわせて真っ二つにし、薄黒い煙に変えてやった。
こうして残るのは土の精となるわけだが、魔力弾で牽制しながら接近して、魔槌で叩いてやれば、即座に決着がついてしまった。
「はてさて、力技での突破になっちゃったけど、もっと戦い方があっただろうか」
俺はドロップ品の回収を行いながら、自分の手札とモンスター側の戦い方を思い返してみて、もっと良い戦い方はなかったかを探ることにした。