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三百八話 竜人

 深層域で最初のモンスターを倒した。

 しかし、俺の気持ちは、どこか消化不良を抱えていた。


「土の精はいいとして、竜人とはちゃんと戦っておきたいな」


 竜人にも勝ったとはいえ、それは多脚戦車に任せた勝利だ。

 自分自身が相手にしたわけじゃないから、自分の手で一度は戦っておきたい。

 そんな気持ちが呼び寄せたのか、次に出会ったモンスターたちは、竜人二匹だった。


「おあつらえ向きだけど、恣意的な感じもあるなあ」


 まさかダンジョンに神がいて、俺の願いが通じた、ってことはないだろうけどさ。

 俺は、イマイチ晴れない気分を抱えたまま、竜人と戦うことにした。

 竜人の一匹には多脚戦車を放って足止めしてもらい、俺はもう一匹と対峙する。


「改めて対面すると、微妙にデカイな」


 俺の身長をやや超す背丈――百九十センチメートルぐらいで、腰の位置が俺の腹の真ん中ぐらいという、足長な体型。

 これで肌に鱗がなくて、顔の作りが人間的でハンサムなら、モデルになれそうな高身長足長体型だ。

 俺が遠巻きに観察していると、竜人の方が近寄ってきた。

 どうやら観察の時間は終わりらしい。

 俺は魔槌を構え、接近する竜人との戦闘に備える。

 今回は竜人との戦闘を体験することが目的なので、ファーストアタックは譲る気でいる。

 では、接近してきた竜人の最初の攻撃は、その長い脚を目一杯伸ばしての中段回し蹴り――に見せかけての、足より長い尻尾での引っ叩きだった。

 俺は、蹴りにしては少し間合いが遠いと予想していたため、魔槌の柄で尻尾での殴打を受け止めることに成功。

 しかし受け止めたはいいものの、その膂力の差を思い知ることになった。

 俺は受け止めたはずの尻尾の勢いを殺しきれず、大きく横に吹っ飛ばされてしまった。


「ぐあっ」


 まるで自動車の衝突を魔槌で止めたかのような衝撃に、俺は小さく悲鳴を上げて床に転がってしまう。

 転がった後で慌てて身体を起こしたが、立ち上がろうとする俺へ、竜人の踵落としが迫っていた。


「舐めるなよ!」


 踵落としを魔槌の柄で受け止めたが、再び強い衝撃。

 俺は、竜人の足が発揮する押し潰してくる衝撃に耐える。 

 その蹴りの威力の発揮が終わり、魔槌にかかる圧力が消えた。

 攻撃を受け止めきったとホッとするのも束の間に、今度は竜神がサマーソルトキックを放ってきた。

 俺の顎を狙った攻撃を、仰け反るようにして避けきる。

 しかし脚に続いた尻尾による振り上げ攻撃は、避けられる体勢じゃなかった。

 俺は咄嗟に頭を傾けたが、尻尾が頭防具の側面を叩くのを防ぐことはできなかった。

 尻尾の攻撃はカス当たりのようなものだったが、それによって与えられた衝撃は、まるでバットで頭を殴られたかのような強いものだった。


「くううぅ……」


 少し当たっただけだし、頭防具二重にしているのに、これだけの衝撃が来るのか。

 俺はふらつきそうになる頭を片手で支えながら、必死に立ち上がる。

 竜人もサマーソルトキックを終えた片膝立ちの状態から、両足で立つ状態へ。そして手を開いたカンフーのようか構えになる。

 その身構え方に、俺は嫌な予感が湧いてきた。

 嫌な予感の通りに、竜人は鋭い爪のある手足による連続攻撃を放ってきた。


「クソ。大技を止めて、小技での連続攻撃かよ」


 一発一発は大した強さのない攻撃だ。魔槌で防ごうと思えば防げる。

 しかし攻撃の回転速度が早過ぎる。

 両手両足だけでなく尻尾まで使った連続攻撃を、俺は完全に防ぐことはできない。

 いや、完全どころか、三発に一回は食らってしまう羽目に陥っている。


「だが、本命の攻撃は通してないぞ!」


 竜人が狙っているのは、連続攻撃の中に混ぜた、手足の爪による引き裂き攻撃だ。

 だから俺は、攻撃のいくつかを体に食らうことを前提にして、その爪の攻撃だけ的確に魔槌で受けることにした。

 身体にリジェネレイトはかけてある。多少の打撲なら、時間と共に治るしな。

 そうして本命の攻撃を潜り抜けつつ、こちらが攻撃するチャンスを見極める。

 俺が防御して粘りに粘るものだから、竜人の方も焦ったのだろう。

 竜人は横蹴りで俺の腹を打った直後、大きく踏み込みながらの貫手を放ってきた。

 決着を焦ったその一手を見て、とうとう反撃のチャンスが来たと悟った。


「魔力盾!」


 俺は宣言しながら、自分の方も踏み込んで魔槌を振るう体勢へ。

 俺の前に魔力で出来た盾が出現し、竜人の貫手は盾の表面を削りながら逸れていった。

 一方で俺の魔槌での攻撃は、貫手を放ち終えた無防備な体勢の竜人の頭に直撃した。

 もちろん魔槌の爆発力は発現させていて、打撃した直後に竜人の頭に爆発を叩き込んだ。

 空振りチャージなしの一撃なので威力が心配だったが、竜人は頭の三分の一を吹き飛ばすことに成功。爆発で散った頭の断面から、青い血が吹き出ている。


「頭を吹っ飛ばしたのに、すぐに消えるほどの致命傷じゃないのか」


 人間なら間違いなく致命傷なはずだが、竜人の場合は頭の一部がなくなった程度じゃ即死判定にはならないタフさがあるらしい。

 俺は念のため距離を取り、頭に大怪我を負った竜人の動向を確認する。

 その竜人は、頭の怪我は致命傷ではないとしても大怪我には変わらないわけで、寿命が近いと悟ったのだろう。

 頭の治療をするのではなく、死の道ずれに俺を引きずり込もうと、接近しての激しい連続攻撃を開始する。

 死を覚悟しての攻撃だからか、防御をかなぐり捨てた連続攻撃だ。

 そのうえ、残り少ない命を燃やし尽くそうとするような、身体のことなどお構いなしの無理矢理に素早く動く身体の操作までしている。


「ふざ、けん、なよな!」


 俺は必死に攻撃を耐えながら、腹にきた蹴りに合わせて、どうにか魔槌の一撃を竜人の大怪我した場所とは反対側の頭に叩き込んだ。

 魔槌に爆発力を発揮させる余裕のない一撃だったので、純粋な魔槌の重さによる攻撃になってしまった。

 これでは攻撃が通らないなと自嘲していたのだけど、どうしてか竜人はこの一撃で膝を折った。

 予想外に効いた様子に訝しんだが、竜人の様子を見て、理由が分かった。

 竜人が失った頭の端から、白いプリンのようなもの―ー脳が漏れ出ている。

 どうやら俺の咄嗟の一撃による衝撃が、竜人の脳を横へと押して、頭の欠損部から外に出てしまったんだろう。

 流石の竜人といえど、思考と動作を司る脳が漏れてしまっては、動けなくなるらしい。


「ふう。じゃあ止めの一撃といこう」


 俺はもう一度魔槌を振るい、先ほど殴ったのと同じ場所を殴った。

 竜人の頭の欠損部から脳の大部分が飛び出し、その直後に、竜人は薄黒い煙に変わって消えた。


「こりゃあ、真面目に戦う相手じゃないな」


 竜人は身体操作を学ぶ相手としては上々だけど、ダンジョン攻略という面では厄介でしかない。

 通路の探索を重視するのなら、もっと手軽に倒せる方法を確立するべきだな。


「試す相手はもう一匹いるしな」


 俺は三匹の多脚戦車を下がらせると、もう一匹の竜人と対峙する。

 先ほどとは違い、今度は俺から仕掛ける。


「魔力弾」


 俺が指先から魔力弾を放つと、竜人は身体の前に腕をクロスさせて魔力弾を受け止めた。


「魔力弾、魔力弾」


 俺は左手で連続して魔力弾を放ちながら、右手一本で爆発力を発揮させた魔槌を空振りさせつつ、歩いて接近していく。

 竜人は、俺が何をしようとしているのか予想がついたのか、今度は移動しながら手で魔力弾を叩き落とし始める。

 そんな状況が続き、いよいよ魔槌で殴れる間合いまで、お互いが接近し終えた。

 俺が片手で魔槌を振り下ろすと、竜人は片腕を伸ばして魔槌のヘッドを握る素振りを見せた。

 魔槌のヘッドと竜人の手が合わさり、そして爆発。

 竜人は片腕の肘から先を失いつつも、俺の魔槌での攻撃を防ぎきった。

 しかし竜人は、俺のもう片方の手の動きを見落としていた。

 そう、俺が伸ばして竜人の胸に振れている、左手をだ。


「空間断裂」


 俺の短い宣言の直後、空間断裂の威力によって、竜人の身体が胸から上下に分断された。

 竜人の表情は『そんな攻撃は聞いてない』と言いたげな、文句を言おうとしようとしているようなものだった。


「悪いな。隙を生じぬ二段構え、ってやつで」


 接近しての空間断裂が決まる相手なので、これからは積極的に使っていこう。


「というか、今まで空間断裂なんていう超威力の魔法攻撃を使ってこなかったのが問題なんだよな」


 俺は第一階層から常に打撃武器と共に歩んできたから、攻撃の組み立ては打撃武器主体になりがちだ。

 これからは、もっとスキルを使いこなす戦い方を学んだ方が良いよな。

 そんな反省をしつつ、俺は竜人がドロップした瓢箪に入ったエナジードリンクを回収し、次の場所へ向けて歩くことにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] しっかり能力発揮 [気になる点] エナジードリンクの味 [一言] 出し惜しみなしで
[一言] 断裂してくる敵がでてくるのはいつか。
[一言] 竜人との訓練は防御が心許ないなぁ。 魔力鎧で防いだらどうなったんだろうか?
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