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三百七話 十九階層深層域にて

 いよいよ十九階層の深層域に踏み入る。

 そう覚悟を決めて、深層域に入る手前で、ちゃんと準備が整っているかを確かめる。

 自分の身体に治癒方術のリジェネレイトはかけているし、リフレッシュで疲労を取り払った。

 多脚戦車を三匹配下にして、手駒は十分。

 装備品に不備はなく、身体の動きや魔槌を振るう手と腕に問題はない。


「よし、行くか」


 俺は改めて覚悟を決めて、十九階層の深層域へと踏み入った。

 果てさて、最初に出会うモンスターは、どんなやつらなのか。

 期待と不安が入り交じった気持ちで、俺は多脚戦車三匹と共に、深層域の中を進んでいく。

 程なくして、最初のモンスターたちを遠目で発見した。

 順路上だったため、二匹一組で会敵したモンスターは、それぞれ別の種類だった。 


「片方は黄色い精霊で、もう片方はリザードマンか?」


 精霊の方は、今までに出てきていない精霊で考えるなら、土の精霊だな。

 もう一方も、第七階層で見たリザードマンっぽい、全身に鱗がビッシリと生えた人型。

 しかしリザードマンとは少し違う感じがある。


「鱗が赤いし、体つきも二足歩行のトカゲっていうより、人間の身体にビッシリ鱗が生えたって感じだな」


 精悍な体つきの成人の肌を、赤色のトカゲに置換したと言った方が、見た目的には正しいだろうな。

 リザードマンに近いけど、より人間に近い見た目。

 ラノベには、そういう種類の人種がいたなと思い出す。


恐竜人レプテリアンか? それとも竜人ドラゴニュートの方か?」


 恐らく竜人の方だろうとあたりを付けて、竜人らしきモンスターを詳しく観察する。

 人間っぽいしっかりとした二足歩行なのに、尻から先にかけて第三の足ともいえる太い尻尾がついている。手に武器はなく、身体にはトーガに似た布を一枚巻きつけているだけ。背中にドラゴンっぽい翼はないが、手の肘から先と足の膝から先がトカゲの足を大型化したようなものになっている。


「手に武器はなし。だけどあの手と足にある爪は、見るからに、並の剣より切れ味が鋭そうだ」


 竜人は、どれぐらいの戦闘力があるのか。

 そして土の精は、直接攻撃型なのか仲間援護型なのか。

 それらの特徴を調べるために、俺は傀儡操術で多脚戦車を動かし、あの二匹にぶつけてみることにした。

 俺の命令に従い、四つの足の先にある車輪を最大回転させて、多脚戦車三匹が土の精と竜人に突っ込んでいく。

 すると最初に土の精が動きを見せた。

 土の精が小さな手を振るうと、突っ込んでいく多脚戦車の前に、突如として砂嵐が出現した。

 サンドブラストを金属にかけたときのような、ビシビシとう音を立てて、多脚戦車の装甲が砂で削られる。

 どうやら土の精は、直接攻撃型のモンスターのようだ。


「いや、使用しているのが砂嵐な点を考えると、もしかしたら複合型かもしれないな」


 味方を直接的に強化するのではなく、敵の行動を阻害する方向で援護する、そんなタイプなのかもしれない。

 土の精の判断を保留にしている間に、多脚戦車が砂嵐を突破した。砂に装甲表面が薄く削られたようだが、大したダメージじゃない。

 このまま多脚戦車たちが、竜人へと突っ込んでいく。

 ここで俺は、竜人の姿がさっき見たときと少し違っていることに気付く。

 竜人の頭が、先ほどは人間的だったのに、いまは口元だけが恐竜や爬虫類のような目の位置より前に突き出た口――いわゆる、ワニの顎に変わっていた。


「ラノベにも、竜祭司っていう竜を奉じる信徒がいて、その信徒は竜に変化できるっていうのがあったけど」


 もしかして、この竜人は身体の一部を竜に変えられる類のモンスターなのかもしれない。

 そう考察している、多脚戦車三匹が竜人に襲い掛かった。

 一度に三方向からの、鋼鉄の脚部を叩きつける攻撃。

 並のモンスターじゃ大怪我は免れない連係攻撃を、竜人は両手と腹部で一発ずつ受け止めた。

 果たして結果は、竜人が腕を大きく振るって多脚戦車を追い返した姿を見れば、無事であることが分かる。


「肉体のスペックが高いな――って、うおッ!?」


 竜人と多脚戦車の戦闘を観察している間に、俺に土の精が近寄って来ていて、空中に生じさせた石槍をこっちに放ってきていた。

 俺は慌てて石槍を避け、土の精と対峙する。

 俺が魔槌で攻撃しようとすると、土の精は砂嵐を発生させて近づかせまいとする。

 ではと、俺が基礎魔法の魔力弾で攻撃すると、土の精は空中を泳いで避けつつ石の礫を生じさせて放ってくる。

 どうやら土の精は、遠距離攻撃を得意としているようだ。


「遠距離戦だと分が悪いか。なら仕方がない」


 俺は意を決し、魔槌を大上段に振り上げながら、土の精に吶喊した。

 土の精は、先ほどと同じように、砂嵐で俺の進出を阻もうとする。

 しかし俺は、自分からその砂嵐に突っ込み、そして走り抜けた。

 まさか俺が強行突破してくると思っていなかったのか、それとも砂嵐中は動けないのか、土の精はその場に留まっていた。


「うおおおおらあああああああ!」


 俺が渾身の力を込めて、魔槌の一撃を食らわせた。

 土の精は、今までの精霊たちの中でも防御が弱い部類だったのか、この一撃で薄黒い煙に変わって消えてしまった。

 早々に一匹を倒せたが、ほっと一息ついてはいられない。

 なぜなら、多脚戦車たちと竜人たちがいる場所から、硬い煎餅を噛み砕いたかのような音が響いてきたからだ。

 慌ててそちらに目を向ければ、竜人がワニの顎に変化した口で、多脚戦車の一匹の足を噛み砕いた瞬間が見えた。


「う、嘘ぉ~」


 多脚戦車の装甲は、生半な硬さじゃない。

 それを噛み砕いたとなると、俺の全身ジャケットじゃ防げない威力ということになる。

 竜人の恐ろしさは顎だけじゃない。

 多脚戦車の装甲に多数刻まれた擦過傷を見れば、竜人の手や足の爪で傷つけられたことは容易に想像がつく。

 あの爪もまた、全身ジャケットでは耐えきれない攻撃力を持っていることが伺える。


「近づくのか危険なら」


 と、俺は魔力弾による攻撃を実行してみることにした。

 すると意外なことに、竜人は遠距離攻撃に弱いのか、面白いように魔力弾が良く当たった。

 竜人が魔力弾の威力によろめいたところに、多脚戦車が足で殴りつけた。

 今度は身構えて受け止めたわけじゃないからか、竜人は盛大に吹っ飛び床に転がった。

 その様子を見て、俺はある予想を立てた。


「口が変化した姿から察するに、竜変化みたいなスキルを持っているんだろうな。そしてそれは身体強化スキルみたいに、意識して膂力を上げるスキル。だから魔力弾を打たれて意識を散らされたことでスキルの強化を失い、結果多脚戦車の一撃で大ダメージを受けたって感じか?」


 俺は予想を呟きつつも、魔力弾を放つ手は止めない。

 竜人は三匹の多脚戦車の足に滅多撃ちされながらも、床から立ち上がった。

 そしてその顎を大きく開けた。

 その姿は、チャイルドドラゴンが竜の吐息を放つ素振りにそっくりで―― 


「――いや、接近戦しているときに、それはやらせねえぞ?」


 俺は多脚戦車を操って足を振り上げさせ、その足の攻撃でもって竜人の顎を強制的に閉じさせて上向かせた。

 直後、竜人の口元から炎が細く立ち上った。

 しかし閉じられた口では炎の大部分が行き場を失っていたのか、竜人の口が数秒後に爆発した。

 その爆発は、魔槌の空振りなしの爆発力をやや越えるぐらいあった。

 そんな爆発を口の中で起こせば、竜人といえど一たまりもない。

 竜人は画面の鼻から下を爆発で全て失い、そして薄黒い煙に変わって消えた。

 こうして自滅に近い形で竜人を倒したことに、俺は自力で倒したという実感が湧かなかった。


「まあ倒せんだから良しとして、ドロップ品だな」


 土の精のドロップ品は、他の精霊と同じように、宝玉。色は茶色なので、土の宝玉だな。

 竜人のドロップ品は、瓢箪だった。拾い上げてみると、口に封がされていて、中身があるのかチャプチャプと音がなった。

 試しに封を開けて、中身を手に受け止めてみる。


「濃厚な緑色の液体。臭いは」


 頭防具をずらして、手の液体の臭いを嗅いでみると、強烈な青臭さが鼻の奥を突き刺しにきた。


「ぐえっ。なんだこれ」


 俺は頭防具を元に戻すと、瓢箪を次元収納の中に入れて識別を働かせる。

 名前の部分こそ瓢箪だけど、中身が栄養満点かつ滋養強壮なドリンクだと分かった。


「竜人特性のエナジードリンクってわけか」


 効果の具合がきになるが、どうも嗅いだ青臭さのせいで、俺は飲もうという気が湧かなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 敵の素の肉体性能もガッツリ上がってきた感じしますねー こいつらが複数来ると思うと恐ろしいなあ
[良い点] そろそろ防具更新タイムか…。こういう破壊力満点な敵も出て来ましたし、最低でも攻撃をする時や防御をする時に絶対必要な腕部は金属製に更新するのも考慮すべきじゃないかな?
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