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三百三話 五匹で組んだチャイルドドラゴンの倒し方

 チャイルドドラゴン五匹以上が組んで現れた際の対処をどうするか。

 そのことを決めきれないまま、俺は今日も十九階層の中層域にやってきていた。もちろん、先日に失った多脚戦車の補充は完了済みの状態だ。


「まあ、チャイルドドラゴン五匹が一緒にでる確率は、そんなに高くないだろうしな」


 モンスターの種類は三種類。

 だから五匹が同じモンスターである確率は、三の五乗分の一なので、だいたい二百五十分の一で0.4パーセントぐらい。

 ソシャゲのガチャで最上位レアを出すよりも低い確率と考えたら、中々当たらない確率だと分かることだろう。

 そんな稀な確率を引くのを怖がって、中層域の攻略を断念するのは馬鹿げている。

 そうした判断の下、俺は中層域の五匹一組の区域に足を踏み入れた。

 それから何組かのモンスターと戦ってみたが、五匹全てが単一のモンスターという機会は一回もなかった。

 そして三種のモンスターが複合して組んだ状態だと、やっぱりリトルジャイアントとチャイルドドラゴンは同士討ち攻撃をしてくる。

 勝手に相手側が傷ついてくれるので、俺は楽にモンスターたちを突破して先に進むことができた。

 五匹一組の区域を突破したら、六匹一組、七匹一組の区域へと順調に移動することができた。


「このままチャイルドドラゴン五匹の組み合わせと出くわさない状態が続いたのなら、探索も楽に追えることができそうだよな」


 なんてことを、つい口に出してしまったのが、フラグになってしまったのだろう。

 七匹一組の区域にて、チャイルドドラゴン五匹と獣人暗殺者二匹の組み合わせと出くわしてしまった。

 チャイルドドラゴン五匹は、先日に見たとおりに、前列三匹後列二匹の隊列を組み、順番に竜の吐息を吐き出す体勢に。

 あの体勢を取られてしまったら、距離を取るしかない。

 俺は竜の吐息が掛からない場所まで、配下の多脚戦車と共に下がる事にした。

 そしてチャイルドドラゴン五匹が、間断なく竜の吐息を使う状態が再演された。


「ソシャゲガチャの方は沼ることが多いのに、どうしてこういう嫌な低確率は引けちゃうかなあ」


 俺は愚痴りつつ、空間魔法スキルの空間把握を使用する。

 竜の吐息で吐き出される炎に遮られて、俺の目からじゃ、炎の向こうの様子は見通せない。

 しかし、チャイルドドラゴン五匹と共にいたのは、獣人暗殺者二匹。

 獣人暗殺者は、姿を消した状態に移行した後、なぜか移動した素振りもないのに俺の背後にいるという不思議現象を起こしてくる。

 それがスキルなのか何なのかは分からないが、警戒するべき凶悪な能力だ。


「っと、早速背後に来たな。しかも二匹ともか」


 俺は空間把握で見えない獣人暗殺者の位置を把握すると、その二つの場所に向かって魔槌を繰り出した。

 振るわれた魔槌は、次々に獣人暗殺者の頭部を破壊した。

 獣人暗殺者は致命傷を受けて、即座に薄黒い煙に変わって消え、ドロップ品を残した。


「おっ。片方はレアドロップ品だな」


 獣人暗殺者のレアドロップ品は、身につけていた黒い装束。

 ニンジャを思わせる姿形の黒い衣服を、俺は次元収納に入れて識別を働かせてみた。

 

「空間魔法の空間偽装と同じで、光学迷彩を張る能力があるのか」


 獣人暗殺者が姿を消せるのは、この装束のお陰のようだ。

 となると、獣人暗殺者が獲物の背後に突如として現れるのは、獣人暗殺者特有の能力ってことになるな。


「この装束の能力が、空間転移系だったら、あのチャイルドドラゴン五匹の戦いも楽になったのに」 


 竜の吐息は、チャイルドドラゴンの顔の前に吐き出されている。

 つまりチャイルドドラゴンたちの後方は、竜の吐息が来ない安全地帯。

 空間転移能力で、その安全地帯へ一瞬にして移動できたのなら、チャイルドドラゴン五匹を背後から襲うことは簡単だろう。

 しかし生憎と、獣人暗殺者のレアドロップ品は、空間転移の力を持っていない。

 つまり、そう上手いことは行かないということだ。


「いや、ちょっと待てよ。獣人暗殺者の仕草を真似るのはアリかもしれないな」


 チャイルドドラゴン五匹が竜の吐息を交代で使い続けているのは、攻撃対象である俺が要るからだ。

 だから仮に俺がこの場から立ち去れば、チャイルドドラゴンたちは竜の吐息を使うことを止めることだろう。

 なにせ竜の吐息は、一度使うと再使用までのクールタイムが必要な大技だ。

 攻撃対象が居ないのに延々と無駄に使って疲れるような真似は、流石のチャイルドドラゴンでもしないだろう。

 ということはだ――


「――ちょっと試してみるぐらいはいいよな」


 俺は獣人暗殺者のドロップ品と共に多脚戦車を次元収納に入れると、自分の身体を空間偽装で覆い、姿を隠すことにした。

 果たして、俺が姿を隠したとき、チャイルドドラゴンたちはどう行動するのか。

 見守っていると、チャイルドドラゴンが吐き出し続けていた竜の吐息の終わりがやってきた。

 しかし、別のチャイルドドラゴンが予定していた通りに、竜の吐息を吐き出し始めた。

 もしかして、俺の予想は外れたのだろうか。

 そう結論をだそうとしたところで、念のため、この竜の吐息が終わるまで待ってみることにした。

 やがて竜の吐息の使用時間が終わり、チャイルドドラゴンの口から出ていた炎が止まる。

 俺の姿があったときは、ここから更に別のチャイルドドラゴンが竜の吐息を吐く役割を交代していた。

 しかしいま、チャイルドドラゴンたちは竜の吐息を吐き出すことを止めて、それぞれが周囲に視線を向けている。

 その様子は、近くに敵がいないかを探す動きで――つまりは俺を見失っているということだ。

 そして敵の姿がないときは、竜の吐息を交代で吐き出し続けるなんて真似はしないことも分かった。

 先ほど、俺の姿がないのに竜の吐息を交代したのは、きっと俺の姿が消えるタイミングが竜の吐息を交代するための準備を整え終わった後だったため、途中キャンセルが出来なかったせいだろう。

 実際、いまのチャイルドドラゴン五匹の様子を観察すると、四匹は周囲に視線を絶えず向けているが、一匹だけは軽く胸元を膨らませているのが分かる。

 あの一匹は、もし近くに敵が隠れていたのを察知したら、即座に竜の吐息を吐く準備に入れるよう備えている個体なんだろうな、きっと。

 つまり、あの一匹を先に倒してしまえば、チャイルドドラゴンたちが竜の吐息を使う順番に混乱を起こさせることが出来ると言うことでだ。

 俺は空間偽装で姿を隠したまま、目を付けた一匹のチャイルドドラゴンに静かに近寄っていく。

 そして攻撃可能な範囲に辿り着いたところで、空間偽装を解いて、狙いのチャイルドドラゴンに魔槌を振るい当てた。


「空間断裂!」


 俺が宣言した直後、チャイルドドラゴンに当てていた魔槌の先から、空間を切り裂く刃が生じた。

 その不可視の刃は、チャイルドドラゴンの首を両断して薄黒い煙に変える結果をもたらした。


「ははあ! 狙った通りだな!」


 竜の吐息を準備していた個体が消え去ったことで、チャイルドドラゴンたちは次に竜の吐息を使う個体を選定できずに混乱している様子だ。

 その隙を逃すまいと、俺は手早く次々とチャイルドドラゴンを空間断裂の刃の餌食にしていく。

 二匹目三匹目と屠ったところで、生き残りの二匹が同時に胸を大きく膨らませた。

 どうやら順番どうこうと考えている暇はないと悟って、同時の竜の吐息で俺を焼こうとしているようだ。

 しかし、胸を膨らませてから吐息を吐くまでには、若干の時間が必要だ。

 その少しの時間があれば、片方の首を空間断裂で斬り飛ばすことは難しくなかった。


「これで、残り一匹!」


 俺が威嚇するように言葉を吐くと、その御返しのように、最後のチャイルドドラゴンの口から竜の吐息の炎が吐き出された。

 俺は即座に魔力鎧を展開すると、自分から竜の吐息の炎の中へと突っ込み、更に前へと進んだ。

 俺の視界が炎の赤に染まったものの、二秒後には、竜の吐息の中を突破してチャイルドドラゴンの胴体横に走り出ていた。


「止め! 空間断裂!」


 俺は間近にまで接近していたチャイルドドラゴンの身体に振れた状態で、空間断裂を発動。

 俺の手の先から不可視の刃が放たれ、チャイルドドラゴンの胴体が両断された。

 こうして、五匹で連係してきたチャイルドドラゴンたちとの戦闘に、俺は勝利した。


「攻略が難しい戦法を突破したご褒美なのか、七匹一組の区域だったことも手伝ってか、チャイルドドラゴンのレアドロップが二個も出てる!」


 俺が喜び勇んで、チャイルドドラゴンのレアドロップ品を手に取る。

 それは、抱き枕ほどの大きさと長さを誇る、肉の塊だった。

 ダンジョンのドロップ品の肉らしく、材料不明な薄い膜で覆われている。


「ベビードラゴンに続き、チャイルドドラゴンのレアドロップ品も、竜の肉なんだな」


 俺は二個ある肉のうち、一つを次元収納に入れて識別を働かせてみた。

 しかし分かったのは、チャイルドドラゴンの肉であることと、食用可能である点だけだ。

 それならと、手元に残した方の肉を、謎の薄膜越しに感触と観察とで確かめる。

 持った感触は、むっちりと繊維が詰まった肉の手応えがある。

 肉には脂のサシが少しだけ入っているが、総じて赤味が強い肉質をしている。

 触って見ての感想は、牛肉のサーロインないしはランプ肉に近いという結論だった。

 

「この肉は、ステーキだ。厚切りにして、弱火でじっくり焼くと美味しいタイプだ」


 このドラゴン肉を得るためなら、五匹どころか、六匹や七匹でチャイルドドラゴンが組んで出てきてくれても良いと思ってしまうほど、俺はこの肉の魅力に参ってしまっていた。

 こんな肉を手に入れてしまったからには、今日はもう探索どろこじゃないという気持ちになってしまう。

 しかし俺は自分の目的を思い出し、肉を食べたい欲をぐっと抑え込む。


「不老長寿の秘薬の発見が俺の目的だ。そのために七匹一組でモンスターが出てくる場所を巡って確かめないといけない」


 行動予定を口に出すことで目的意識をハッキリさせ、食欲を抑えることに成功する。

 俺は、惜しむ気持ちを抑えて、手にあるドラゴン肉の塊を次元収納に入れた。


「……この区域を巡れば、チャイルドドラゴンと戦う機会は幾らでも手に入る。その戦う機会の分だけ、レアドロップ品の肉を手にする可能性も高くなるんだ。在庫を集めるには丁度いいよな」


 俺はある程度の在庫が溜まるまで、役所にドラゴン肉の塊を売らないことに決め、ダンジョン探索に戻ることにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] レアドロ品がいいヒントになってくれましたねえ この戦法、今回だけじゃなくとも使っていけそうですし魔法ひとつで状況を結構変えられるんだなあ
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