三百二話 チャイルドドラゴン
五匹一組の区域から、俺は逃げ帰って来た。
三匹いた多脚戦車を全て失った状態の、完全な敗走だった。
「ふざけんな!」
四匹一組の区域に入った安心感から、俺は思わず毒づく。
しかし、ここはダンジョンだからと、努めて冷静さを取り戻すことに注力する。
「ふぅ。まったく。チャイルドドラゴンも同種なら連係してくるだろうと予想はしていたけど、あそこまでとは」
俺は周囲に罠がないことを確かめ、空間把握で常に近くの存在を感知しつつ、休憩することにした。
次元収納から食べ物と飲み物を出し、それを口にしながら、先ほど出くわしてしまった悪運――チャイルドドラゴンのみ五匹との戦いを思い返す。
俺が五匹一組の区域に入って、少し先に進んだところで、件のチャイルドドラゴン六匹と出くわした。
当初俺は、配下の多脚戦車をチャイルドドラゴン一匹に嗾け、その間に他のチャイルドドラゴンを俺が担当する予定にしていた。
しかしチャイルドドラゴンたちは、前に三列で後ろに二列の隊列を組みだした。
そして前列左のチャイルドドラゴンが、近寄ろうとしていた多脚戦車に対して、竜の吐息を吐き出した。
その一撃で、多脚戦車は全滅。
しかしチャイルドドラゴンは、一度竜の吐息を使うと、再使用するまで時間がかかることが分かっている。
だから俺は、竜の吐息が終わった直後に接近し、一匹ずつ倒すつもりで、実際にそう動いた。
だが俺は、チャイルドドラゴンに接近することが出来なかった。
それがなぜかというと、前列左のチャイルドドラゴンの竜の吐息が終わった直後に、前列中央のチャイルドドラゴンが竜の吐息を吐き出したからだ。
それなら、二匹目の竜の吐息が終わればと待ったところで、前列の三匹目から竜の吐息が吐き出された。
じゃあそれが終わったらと待ったら、今度は後列の個体が竜の吐息を吐き出す。
その後列も吐き出し終わったと思ったら、今度は最初に竜の吐息を吐き出した個体が復活していて、再び竜の吐息を吐き出してきた。
そうして絶えず竜の吐息が繰り出されてしまい、俺は接近することが出来なくなっていた。
逆にチャイルドドラゴンの方は、竜の吐息を協力して継続しながら、一歩ずつ前に前にと動いてくる。
俺は竜の吐息に巻き込まれないよう、範囲の外にいるしかないため、一歩ずつ後ろに下がるしかない。
そうした状態が続き、これでは戦うどころじゃないと、俺は戦闘継続を諦めて引き下がるしかなく、四匹一組の区域にまで戻ってくる羽目になった。
そんな、いまさっき食らったばかりの理不尽な戦法を思い出し、腹立たしい気持ちになってしまう。
「チャイルドドラゴンが五匹いないとできない方法とはいえ、竜の吐息の連続使用なんて、どうやって攻略すりゃいいんだよ」
腹立ちまぎれの愚痴を出しつつ、休憩を終えることにした。
とりあえず今日は、チャイルドドラゴン五匹にしてやられたと納得することにして、引き上げることにし決める。
「あのチャイルドドラゴンの連続打ちの対応は、どうするべきか」
俺は帰路につきつつ、あの面食らう戦法を、どう突破するかを考えていく。
五匹未満の状態なら、連続使用の切れ目に近づき、可能な限り素早く倒せば勝てる。
俺には空間魔法の空間断裂がある。間合いにさえ入ってしまえば、チャイルドドラゴンの首を切断して落とすことは可能だろう。
問題は五匹以上で出くわして、間断なく竜の吐息を吐き出されるときだ。
魔力鎧なら、一度きりで消失してしまうものの、耐えることはできる。
だから魔力鎧を展開したまま突撃し、チャイルドドラゴン五匹の近くまで接近することが、戦術の骨子になるだろう。
しかし忘れては行けないのは、チャイルドドラゴンは他のモンスターを巻き込んで竜の吐息を使うことのあるモンスターだという点。
チャイルドドラゴン同士で連係を取ってくるとはいえ、この特徴がなくなっていると考えるべきじゃないだろう。
俺が五匹のチャイルドドラゴンに接近した後、他のチャイルドドラゴンごと俺に対して至近距離で竜の吐息を使ってくる可能性は捨てきれない。
「近距離が駄目なら遠距離ってことになるけど」
俺の遠距離攻撃手段は、基礎魔法の魔力球ないしは魔力弾。
しかし魔力球や魔力弾が、チャイルドドラゴンの竜の吐息を突破できるだろうか。
竜の吐息は、一撃で多脚戦車を薄黒い煙に変えるほどの威力がある。
多脚戦車にロクな傷を負わせることが出来ない魔力球や魔力弾では、竜の吐息に消し済みにされるのがオチだ。
「考えれば考えるほど、手詰まり感が酷いな」
一番楽な解決法は、チャイルドドラゴンが五匹一緒に現れないようにと、祈る事だろうな。
どう倒したものか考えつつの帰路は、そうして解決法が見いだせないまま、十九階層の出入口に辿り着くことで終わりとなった。




