三百一話 リトルジャイアント
俺は十九階層中層域の三匹一組の区域を越えて、四匹一組の区域へと進入していた。
一足飛びのように区域を移動したのは、ドロップ品が二割増しで売れるから――という理由じゃない。
試しに俺一人で三匹のモンスターと何度か戦ってみたのだけど、危なげが一切ないまま勝ててしまったため、順当に四匹一組の区域へと進んだだけだ。
「まさか、リトルジャイアントとチャイルドドラゴンが連係を取ろうとしないことが、俺に有利に働くとはな」
リトルジャイアントとチャイルドドラゴンは、味方の被害に関係なく、手前勝手な攻撃をしがちだ。
それこそ、リトルジャイアントが振り回す手や足がモンスターに当たることは当然で、チャイルドドラゴンの竜の吐息に巻き込まれてモンスターが薄黒い煙に変わることもよくある。
その特性を把握すれば、俺が立ち回りを工夫するだけで、モンスターの同士討ちを誘うことができてしまう。
そうして同士討ちをさせることを重視した結果、俺は三匹一組の区域での楽勝に繋がったわけだ。
「四匹一組の区域でも、同じか否か」
以前の階層では、モンスターの数が多くなればなるほど、連係を取ってくる傾向があった。
果たして十九階層では、どうなのか。
早速四匹一組のモンスターと戦ってみたところ、やっぱりリトルジャイアントとチャイルドドラゴンは連係のレの字もない動きに終始していた。
なので三匹一組を相手にしたときと同じく、連中の同士討ちを狙った動きで撹乱し、適度に怪我をモンスターが負ったところで、止めを刺して回る。
獣人暗殺者だけは、味方モンスターの動きに合わせて、どうにか俺を倒そうとしていた。
だけど俺には空間把握があるため、獣人暗殺者が姿を消そうと、その位置は丸わかり。
そうして居場所さえ分かってしまえば、獣人暗殺者の戦闘力も防御力も高くないため、あっさりと勝ててしまう。
「つまるところ、四匹一組の場所も楽勝だったな」
ドロップ品を回収する間、どうしてリトルジャイアントとチャイルドドラゴンは連係を取らないのかと考えてみる。
巨人もドラゴンも、ファンタジー作品では、プライドが高い種族の代表だ。
巨人もドラゴンも種族的な強者であるため、自然と他種族を見下す傾向がある。
そのため、巨人同士やドラゴン同士なら強力できても、他種族と肩を並べて戦うなんて発想はない。
むしろ、他種族という雑魚と一緒に戦うことは屈辱だと感じることが多い。
もちろん、ここまでの事は、ラノベなどのファンタジー作品による、いわば空想の話。
しかし、リトルジャイアントとチャイルドドラゴンの協調性のなさについて、この空想の話を元に考えるとしっくり来てしまう。
「巨人もドラゴンも、自分本位な戦い方しかできないってことだな」
以前に戦ったベビードラゴンが他種族と共闘していたのは、赤ん坊という他種族に匹敵するほどに弱い存在であるという自覚があったからだろうな、きっと。
赤ん坊から成長して子供になったことで、他種族と種族的な力量の差を自覚したため、チャイルドドラゴンは連係するという発想を失ってしまった。
リトルジャイアントについても、腰ミノ一丁の徒手空拳な姿を見れば、その肉体を誇りに思っていることが伺える。
それこそ、武器や防具で身を固めることは恥だとでも思ってそうだよな。
「なににせよ、楽に勝てるのなら、俺としては嬉しいから良いんだけどな」
四匹一組の区域を進み、五匹一組の場所を目指して歩く。
一度に四匹と戦うため、二匹一組の順路上に比べて、二倍の速さでドロップ品が溜まっていく。
これが五匹一組、六匹一組、七匹一組の場所に行けば、より多くドロップ品が集まることになるだろう。
「もう金が腐るほどある俺としてみれば、リトルジャイアントの腰ミノ集めの方が嬉しいんだけどな」
いま俺が着ている金ぴかな全身ジャケットを作ってくれた、岩珍工房。
そこの新たな目玉商品にしてもらうのに、リトルジャイアントの腰ミノに使われている革は、とても良い材料だ。
役所に売った際の値段が十五階層未満のドロップ品と大差ないので、岩珍工房が後々に俺以外から安値で購入できそうな点も、防具の材料として嬉しい点だろう。
そういう思惑があり、俺はリトルジャイアントが出ろ出ろと念じながら、通路を進んでいく。
そうしてあと少しで五匹一組の区域に入りそうだなというところで、また新たなモンスターたちと会敵した。
今回のモンスターは、いままでで初めてとなる組み合わせだった。
「リトルジャイアント三匹に、獣人暗殺者が一匹か」
三匹一組の区域からは、常にリトルジャイアントとチャイルドドラゴンが一匹ずつは必ずいた。
ここにきて、チャイルドドラゴンが居ない組み合わせの登場だ。
ちょっと作為的な感じを受ける。
「さっき考えていたように、リトルジャイアントとチャイルドドラゴンが、同種族同士なら連係する頭があるとしたら」
そう俺が言葉を口にしたところで、リトルジャイアントたちが動きだした。
チャイルドドラゴンがいるときは、自分勝手に暴れていただけのリトルジャイアント。
しかしチャイルドドラゴンがいない今、リトルジャイアントたちは他のリトルジャイアントと足並みを揃えて俺に近づいてくる。
その進み方は、明らかに連携を意識したものだった。
「チッ。これで、少なくともリトルジャイアントは、同種族同士なら連係することが確定だな」
面倒くさいことになったと感じつつ、俺は背後に姿を隠して来ていた獣人暗殺者を魔槌で殴り殺した。
これで敵は、リトルジャイアント三匹だけとなった。
ここで俺は、配下の多脚戦車三匹にリトルジャイアント一匹を襲わせた。
三匹の多脚戦車が、リトルジャイアントに集り、機械の足で四肢を圧し折りにいく。
しかしここで、他のリトルジャイアントたちが救援に乗り出した。
集っている多脚戦車を掴み、仲間のリトルジャイアントから引きはがそうとし始めた。
「仲間を助けたりもするのか」
その事実に驚きつつ、俺は魔槌に爆発力を発揮させた状態で空振りを重ね、爆発力を増強させていく。
リトルジャイアントたちの手によって、多脚戦車たちが全て引きはがされてしまたところで、俺はリトルジャイアントの一人の胴体へと魔槌を叩きつけた。
増強された爆発力によって、リトルジャイアントは胴体の大半が吹き飛ばされ、薄黒い煙に変わって消えた。
これでリトルジャイアントの数は二匹。
こうなれば、連係もなにもない。
俺は順とにリトルジャイアントと戦って勝った。
「おっ。三匹倒したからか、十九階層の四匹一組の区域にしては、珍しくレアドロップ品が出たな」
リトルジャイアントのレアドロップ品は、指二本分の長さと太さがある紙に包まれたナニカだった。
拾って匂いを嗅いでみると、食べ物っぽい匂いがする。
まったく中身が分からないものを口にする勇気はないので、次元収納の識別で調べてみることにした。
「なるほど。これは、栄養バー。効果は、食べると筋肉が付くのか」
俺は自分の手足を揉んでみて、筋肉が必要かどうかを考える。
「うーん。促成培養はしない方が良いよな。食べて、変にムキムキになんてなりたくないし」
俺は栄養バーを食べることは止めることに決めたものの、この一つは次元収納の中に収めて置くことにした。
将来ムキムキになりたいと思った際に、一つ食べてみて、どれぐらい筋肉が付くのかを確かめるための保険にだ。
「将来、この栄養バーが一般流通するようになった際、どれほどのトレーニーが食べることになるんだかな」
そんな未来が来たとしたら、ボディービル界隈は、いま以上に筋肉ダルマの見本市みたいになりそうだな。
俺は妄想をとりやめ、リトルジャイアントに引きはがされた多脚戦車の損傷具合を確かめてから、五匹一組の区域へと入っていった。