二百九十七話 売却と譲渡
役所の買い取り窓口へ、俺は宝箱から回収した中の本物のリボルバー以外の物品とドロップ品を載せたリアカーと共にやってきた。
窓口の職員も、俺が大量のドロップ品と宝箱からの回収品と共にやってくることに慣れた様子で、買い取りとオークションへの出品作業をしてくれる。
「それにしても、今回の宝箱から得た戦利品も、もの凄い高値がつきそうなものばかりですね」
買い取り作業の中の雑談って感じで職員が口を開いてくれたので、俺はイキリ探索者を装って乗っかることにした。
「ほほう。どれが高値が付きそうか、予想してみてくれや」
「そうですねえ」
職員は、オークション行きが決定した品々を眺めてから、一つを指した。
「確実に大金で競り落とされるのは、病気治しポーションでしょう。病気に苦しむ金持ちは多いと聞きますし」
「そいつは前に大金で売れたって実績があるから却下だ。他は?」
「他だと、身体の不調を癒すってお茶と、あの黄金の果実からできているっていう果実酒ですね。どちらも、小田原様の説明が本当ならの話ですけど」
「おいおい、俺が嘘を言っているってのか。失礼だぞ、そいつは」
「申し訳ございませんが、現時点では効果が未確定な逸品であるという評価しかできないものでして」
そういうことならと、俺は隠し玉として全身ジャケットの内に隠しておいた、矢筒の機能で複製した例のリボルバーを二丁提出した。
唐突な銃器の登場に、窓口職員はギョッとした顔になる。
「ちょっ、なにを出して!?」
まるで俺のことを銀行強盗かのように見てくる職員と、俺の手元に拳銃があることを見て近づいてくる警官三人に、落ち着けと身振りを返してやる。
「これもダンジョンの宝箱から出てきた武器だぜ。以前に納入した、フリントロック式の単発銃のようにな。これも弾丸を一から自作する必要はあるようだが、モンスターに通用する武器だぜ」
俺が説明してやると、窓口職員と警官たちは落ち着きを取り戻したようだ。
「こちらも、オークションに出品を?」
という職員の問いかけに、俺は首を横に振った。
「いんや。これは他に売却不可という条件をつけて、日本政府に渡してやるよ。どう使うかは、そっちに任せる」
「えっ!? タダで譲渡なさるんですか!?」
「タダじゃねえよ。他には売るなっつう条件を出しただろうが!」
俺が言い返すと、職員は混乱した顔になる。
「条件はつけても、金銭の授受はなしってことですね。本気ですか?」
「本当に失礼なヤツだな、テメエは」
そう苦情を言ってから、もっともらしい説明をする。
「変に他の国に売ってみろ。どんな使い方をされるか分かったもんじゃねえ。身元不確かなヤツの手に渡っても同様だからな。そんな嫌なことに使われる未来を消すためにも、日本政府に渡しちまった方がいいってもんだろ」
「単発銃はオークションに出品したのにですか?」
「単発と五連射とじゃ、脅威度が段違いだろうがよ。一発だけなら避けられても、五回立て続けに避けるのなんて難しいに決まってんだろうが」
俺が身の安全のためだと語ると、職員は納得した様子になった。
「では、こちらの二丁の銃は、日本政府の預かりということで」
「そうしてくれ。今後、紛失したり、悪用されても、日本政府の責任だからな。俺は知らないからな」
俺は念押しの言葉を告げてから、リボルバーを譲り渡した。
その後、俺は役所を出て、ダンジョン内でリアカーを次元収納にしまってから、自宅への帰路につく。
道すがら考えるのは、政府に渡したリボルバー二丁のこと。
「合衆国にいい顔をするために、一丁は譲り渡すかもしれないな」
そんな予想をしたものの、俺には関係のない話だからと、今日の夕飯に何を食べるかに意識を向け直すことにした。
次元収納の中にある食材の在庫を思い返してみて、ふと気づいたことがあった。
「ここ最近の階層では、食料関係のドロップがないからな。十九階層の中層域では、また肉が出てきてほしいもんだ」
とりあえず今日は、スーパーマーケットで野菜を買い、次元収納の中にある肉の在庫とで、肉野菜炒めにでもしようかなと決めたのだった。




