二百九十五話 変化は連鎖する
地力を育てた甲斐があり、俺の十九階層浅層域の探索は、順調に進んでいっている。
三勤一休の体制でダンジョンに入り、ダンジョンから帰る際は大量のドロップ品を携えて出ていく。
宝箱も一つ二つと順調に見つけているけど、中身は俺が求めていたものじゃないので、割愛する。
一方で十九階層の出入口にいる人たちの様子を伺うに、未だに十九階層の深層域の順路を突破できていない様子だ。
なら十九階層の中層域で実力を伸ばすべく訓練中かというと、そうでもなさそう。
俺が行き帰りの中で耳にした話によると、中層域にも深層域にも手強いモンスターがいて、それに出会うと逃げ帰るしか手がないのだそう。
でも彼らのその口で、浅層域の大蛇についても同じことを言っていたので、あまり信用できない話だよな。
なにせ俺は、普通に大蛇を倒せているんだし。
それらの話を総合して考えると、十九階層のモンスターを相手にするには、十九階層に集まっている探索者たちは火力不足なんだろうな。
なにせ火力不足の理由が、身体強化スキルのレベルの伸び悩みにあるらしい。
身体強化スキルのLv4が極少数いて、残りはLV3ばっかりで、LV3がLV4にどうやって上がったのかと質問している会話も耳にした。
その話を聴いて、俺は納得すると同時に、よく十九階層までやってこれたなという気持ちになった。
たしかに身体強化スキルは、モンスターとの攻防で役立つスキルだ。
しかし役立つにしても、俺の次元収納スキルが五階層前後という早い階層でLV3になっていたことを考えると、十九階層だとLV3の状態では力不足は否めないはずだ。
そんな出力不足のスキルを抱えて、ダンジョンの最前線に立っているわけだ。
これはスキルの力じゃなく、ここにいる探索者たちが自身の技量でここまで来たに違いない。
もしかしたら、純粋な戦いの技量で比べるのなら、スキル頼りが多い俺よりも彼らの方が上まであるかもしれないな。
そんな十九階層にいた人達に動きがあったのは、俺が浅層域を半分ほど攻略した頃だった。
俺が十七階層から十八階層に上がったところ、十九階層で見かけた顔の幾つかが十八階層の出入口付近にてテントを張り直していたのだ。
見間違いかなと思いながら十九階層にやってくると、先ほどの人のテントがあった場所がぽっかりと開いていた。
その人物たちが切っ掛けになったのか、十九階層から十八階層に戻る探索者が何組も現れた。
そんな拠点を移動した人達は、その後に役所に大量のドロップ品を持ち込むようになり、ときにはレアドロップ品も売り払うようになっていた。
役所の職員に求められて、俺の代わりに十八階層のレアドロップ品を収める仕事に就いたのだろうか。
はたまた、十九階層では実力が通用しないと判断して、十八階層に出戻っての鍛え直しをしているのだろうか。
どちらにせよ、十九階層のテント群は小さくなり、十八階層のテント群が大きくなった、俺にとってはただそれだけの違いでしかない出来事だった。
では十九階層にテントを張り続けている人は、今後どう行動していくのか。
ちょっと気になったので、少し気を配るぐらいの浅い調査をしてみた。
十九階層に住む探索者たちは、浅層域でモンスター相手に特訓を行っているようだった。
その特訓の内容は、二匹一組の区域にて、倒しにくいと彼らが感じている、大蛇を繰り返し討伐すること。
彼らにとって一番の強敵である大蛇を倒し続けることで、実力上げとレベルアップを目論んでいるみたいだ。
たぶんだけど、大蛇を倒し慣れるほどに倒せるようになった後は、三匹一組や四匹一組の区域へ行って、同じような特訓を繰り返す気なんじゃないだろうか。
そして、深層域まで行けていた探索者たち。
彼らなら、深層域ないしは中層域ぐらいで特訓するのかなと考えていたのだけど、現実は彼らも浅層域での特訓を始めていた。
どうして浅層域でと疑問に思っていたところ、どうやら俺の所為だという事が、彼らが仲間内で話している内容を盗み聞いてみて分かった。
俺の所為ではあるけど、俺が彼らに何かしたということじゃない。
俺が浅層域で大量のドロップ品を集めてくるのを見て、単独で活動している人が倒せているのだから、仲間が複数人いる彼らが倒せないはずがないという思考になったようだ。
つまり、俺という先駆者が出来ているというお墨付きがあるお陰で、『浅層域のモンスターは一人でも絶対に倒せる相手』だと安心して特訓に身を入れることが出来るという感じらしい。
あまり俺は納得できない理屈での行動だけど、彼らがそれで頑張れるというのなら、それで良いんだろうな。
そんな探索者たちの行動の変化はありつつ、俺は浅層域で宝箱を探し回る探索を続けていった。




