二百九十四話 道中楽々
特訓を終え、とうとう俺は道の奥へと進むことにした。
俺自身の実力の向上もそうだが、配下にした多脚戦車の扱いが上手になったことで、五匹一組の区画、六匹一組の区画と、順調に進むことが出来ている。
身体の大きさから、俺自身は戦う相手として苦手に感じている、大蛇。
多脚戦車に任せれば、大蛇という長大で絞め潰す場所に困らない相手だからこそ、楽に仕留めることができてしまう。
しっかり地力をつけたことによる快進撃は続き、あっさりと七匹一組の区域に到着した。
この七匹一組の区域においても、俺と配下の多脚戦車三匹の無双状態は続いた。
「楽に倒せるようになるため訓練を頑張ったわけだけど、楽になり過ぎているな」
ゲーム的に表すなら、レベルアップし過ぎて『たたかう』コマンドだけで楽に勝ててしまうぐらいの感じだ。
もちろん、対象を抱き潰す多脚戦車の戦い方は、脚の関節に負担が多くかかるため、本来なら多用厳禁なんだろうな。
しかし、脚が壊れた多脚戦車が出てくれば、そいつを破棄して新しい多脚戦車を傀儡操術で配下にすれば良いだけ。
補充も楽なんだから、楽に勝つ方法をやらない理由がないよな。
そうして楽をしている罰なのか、一つ目の通路の終点には、宝箱がない場所だった。
終点近くにある隠しスイッチを魔力球で押すことで動かし、罠か隠し部屋かを判別していくが、結局すべてが罠だった。
残念な結果だけど、腐ることなく次の道の終わりを目指すべく、来た道を引き返していく。
その道中で、七匹一組のモンスターと会敵。内訳は、大蛇三匹、多脚戦車一匹、鳥人三匹の組み合わせ。
俺は配下の多脚戦車を大蛇に嗾け、それぞれが一匹ずつ抱きついて脚で潰すべく力を込めていく。
多脚戦車に掴まった三匹の大蛇がのたうち回る中、俺は先ず敵の多脚戦車に近づいた。
「一度避けてから、おりゃあああ!」
多脚戦車が振るってきた脚を、掠るぐらいの距離で避けつつ、俺は更に踏み込む。
俺の身体が多脚戦車の横合いに入ったところで、魔槌の打面が多脚戦車の胴体下部の真ん中に当たるよう、魔槌を振るい上げた。
この一撃で駆動部の急所が破壊され、全ての脚が力を失い、敵の多脚戦車は擱座した。
これで敵の中で無事なのは、三匹の鳥人たちだけ。
鳥人の内、二匹は慌てたように空中に飛び上がり、残り一匹が地上に残って弓矢を引く。
俺は地上の鳥人に警戒を向けつつ、飛び上がった二匹の方に片手を向ける。
「魔力弾」
宣言の後、俺の手指の先から魔力の弾が発射され、空中で弓を引こうとしていた二匹に直撃。
その二匹は、攻撃を受けたことで空中で体勢を保持することが出来なくなったようで、すぐに落下して床に着地した。
これで空中からの攻撃がなくなったうえ、あの二匹は手傷を負って即座の攻撃は出来ない状態になっている。
俺は安心して、こちらに矢を放ってきた鳥人の一匹の対処に移れる。
俺は飛んできた矢を魔槌で払い退けると、次矢を番えようとしている鳥人に駆け寄った。そして魔槌で、思いっきり頭を殴りつけた。
大きさは人間大でも姿形は鳥な頭は、魔槌によって砕かれた。
攻撃を食らった鳥人は、すぐに薄黒い煙に変わって消えた。
残り二匹も、攻撃準備を整える間を与えることなく、魔槌で殴り倒して、薄黒い煙に変えてやった。
その後、擱座している多脚戦車に止めを刺し、まだ無事な大蛇の頭を爆発四散させてやった。
こうして戦闘は容易く終了し、ドロップ品集めに入る。
すると、まるで宝箱がなかったお詫びかのように、モンスター一種につき一個ずつレアドロップ品が出ていた。
「宝箱のお詫びというより、四匹一組の区域で長らく戦っていても出てなかったレアドロップ確率の揺れ戻しかもな」
なんて予想を呟きつつ、それぞれのレアドロップ品を手に取って調べていく。
大蛇のレアドロップ品は、茶色い蛇革で作られた全身タイツ。ご丁寧に、頭まで覆えるフード付き。
蛇革のはずなのに、ラテックス素材のような伸縮性があり、身体にピッタリとくっ付くタイプのタイツだ。
「通常ドロップ品の増加装甲をくっ付ければ、大蛇が人間に化けた姿って感じになるかもな」
なんてことを考えつつ、全身タイツを次元収納の中へ。
続いては、多脚戦車のレアドロップ品。
こちらは、超絶精巧に多脚戦車を掌に載せられるほどにまでミニチュア化した、アクションフィギュア。
以前に手に入れた、メタルマネキンや樹皮人のフィギュアのように、意志を込めれば動かせるタイプ。
それでいて、エクスマキナの等身大フィギュアと同じように、内部機構まで細かに造られている。それこそ、このフィギュアを解析すれば、ダンジョンの外でも実物を作ることが出来そうに感じるほどだ。
このフィギュアも次元収納に入れて、最後の鳥人のレアドロップ品。
それは、羽毛で作られたマント。
宝塚歌劇団の締めにでてくるようなドデカいものではなく、童話の魔女が背に負ってそうな小さいものだ。
羽毛の色合いはタカの翼のようなので、暗い雰囲気はなく、むしろ勇ましさがあるように見える。
なんとなく特殊効果がありそうな気がしたので、次元収納に入れて識別を働かせてみた。
「空飛べるマント。地面から五メートルまでを上限に飛ぶことができる」
中々に夢があるドロップ品ではあるけど、地上五メートルが上限って部分が残念性能だ。
地上五メートルじゃ、二階に上るのが精々だから、現代社会だと役立つ場所が少ないだろうな。
「逆に地上五メートルで確実に浮けると考えるのなら、上空からパラシュートなしで下りるのには使えそうだけどな」
パラシュートはとても大きくて目立つが、空飛べるマントの大きさは背中から腰を覆うぐらいまでの大きさだ。
落下傘部隊のような敵地へ空から強襲する人なら、装備の大きさから敵に発見されずに済むだろうから、パラシュートよりもこのマントの方が適しているのかもしれないな。
「後は子供向けのアトラクションかだな」
五メートルぐらいの高さなら、床に高品質なマットレスを敷けば、仮に墜落しても無傷で済むだろう。
背中にマントを背負った子供が、五メートルまでの高さを飛び回る光景は、中々にファンタジーしていて面白そうだ。
「一枚ぐらいは、自分用に残しておくか?」
今の金ぴかな姿で上空から下りてきてスーパーヒーロー着地を決めるには、このマントは使えそうだしな。
ともあれ、レアドロップを含めた全てのドロップ品を回収し終えたので、俺は次の通路の終わりを目指して歩き出すことにした。




