二話 ホームセンターで武器作り
東京ダンジョンとは、その名前の通りに、二年前に東京駅近くに現れたダンジョンのこと。
より詳しく何処にあるのかといえば、皇居の坂下門の直前にダンジョンの出入口がある。
そして、こんな場所――天皇の御所にダンジョンが存在し続けることは問題だからと、政府や天皇崇拝者が主導して、ダンジョンが現れて十日という猛スピードで役所の仮建物や探索者制度が整備された。
つまり東京ダンジョンは、国内で最初に整備され始めた場所である。
そのため東京ダンジョンの近くには、ダンジョン攻略に必用な建物や物資や人員が配置されていて、探索者にとっては挑戦しやすい場所となっている。
俺は役所建物の近く――かつて皇居外苑と呼ばれていた場所に作られた、ホームセンターの建物に足を向ける。
ここで武器を入手してから、東京ダンジョンに挑むのだ。
このホームセンターは、他の場所のホームセンターと品揃えが違っているのだという。
俺が中に入って確認すると、確かに並んでいる物品に差があった。
普通のホームセンターにはあるはずの、生活雑貨や園芸用品やペット用品が一切なかった。
それらの品物と引き換えのように、建材や電脳工具や薬品の取り扱い種類が豊富になっている。
俺は自身のスマホを取り出し、オリジナルチャートを再確認しながら、買う物を選んでいく。
自分の身長の半分ほどの長さの、鋼鉄の単管パイプ。径は、俺が握り切れるぐらいの、金属バットの持ち手ぐらいのもの。そのパイプの端にくっ付ける、鋼鉄のL字ジョイント。それぞれ一つずつ。
パイプとジョイントを固定するための、ボルトとナットを手に入れる。ボルトの長さはパイプの径を超えるものにしてある。
そして、このパイプとジョイントは武器にするので、パイプの先端の重さを増やすために、鉛の重りを何個か手にしておく。
そうやって品物を選んでいる間に、探索者らしき装いの客たちとすれ違うことがあった。
俺のようなツナギ姿の人もいたが、その客の多くが防具や鎧を見に纏っていた。
有り合わせの材料を組み合わせて作ったプロテクターから、革とリベットで作った革鎧や、戦国時代から持ってきたんじゃないかという武者鎧まで、色々だ。
現代の科学技術で考えれば、もっと技術的に優れた防具が作れそうなものだが、ダンジョンにある特殊な法則によって、あんな感じの防具の方がダンジョン内で通用するんだろうな。
そんな事を考えながら、俺はレジで会計しつつ、店員に声をかける。
「製作室を使いたいんですが」
「製作室の使用料の支払いですね。どんな工具を使うつもりですか?」
「パイプとジョイントに穴を空けて、ボルトとナットで固定してから、鉛を溶かしてパイプの中に入れる予定です」
「それだと、電動工具と手持ちバーナーを使うことになるでしょうから――はい、ベーシックプランのままで大丈夫です」
俺はベーシックプランの使用料を払うと、買った物と共に制作室へ。
制作室という名前ではあるが、物品を売る建物とは別棟の大がかりな建物だ。
金属製の引き戸を開けて中に入ると、様々な人が色々な音を発していた。
金属を熱して叩く音。金属板を削る音。木材や金属に穴を開ける音。曲げていた木材が折れてしまった音。必用な工具の場所を職員に尋ねる声、共に作業をしている人へ指示する声。製作に失敗して出た悪態の声。
それらの音を聞きながら、俺は据え付け式の回転ドリルがある一画へ。
既に何人かが作業していて、削れた金属が放つイオン臭い、摩擦熱で温められた潤滑油の臭いが充満していた。
俺は空いているドリルを確保すると、まずはパイプにL字ジョイントを押し込んで、仮でくっ付ける。そして作業台に備え付けの油性ペンで、パイプとジョイントの境に沿ってぐるりと書き入れる。その後で、どのあたりに穴を開けたらいいかを考えてから、ジョイントに穴を空ける予定の場所にペンで印をつけた。
パイプからジョイントを外し、ジョイントだけをドリルの台に置く。
ドリルの径が開ける予定の穴と同じことを確認してから、ドリルのスイッチを入れる。
ギュイギュイと唸りながら回転するドリルを見つつ、操作レバーを操って、ジョイントに穴を開けていく。
ジョイントに穴をあけ終えたら、再びパイプの先端に押し込んで入れる。そしてジョイントの穴から覗くパイプの表面を、油性ペンで塗りつぶす。
その油性ペンの印に合わせて、ドリルで穴を開ける。
パイプとジョイントに穴を開け終えたら、その穴にボルトを差し入れる。その際、パイプの内側にナットを配置して、固定することを忘れない。
軽く振って、ジョイントがパイプから外れないことを確認してから、ドリルの場所から移動する。
防火用と消化用の設備がある一画に行き、職員から手持ちのバーナーを貸してもらう。
パイプに繋がったジョイント部分に鉛の粒を入れて満杯にすると、バーナーで熱していく。
バーナーの熱によって、パイプが赤くなっていき、その中にある鉛も溶け始める。
そうやって完全に溶けるまで待っていると、唐突に横から声をかけられた。
「おいおい、そんな簡単に作れる武器で良いのか? 簡単に作るとしても、刃物とかにした方がいいだろ?」
声のした方を見ると、三十代後半の見た目の厳つい男性だった。
この男性は、自身の発言が正当だと示すように、大ぶりの鉈のようなものを手に持っている。
この場所でその武器ということは、恐らくこの男は探索者だ。
そして俺は、探索者とその関係者相手には、イキリ探索者を装うことを決めている。
刃物を持つ人相手にイキるのは怖いが、やるしかない。
「――うっせえなあ! 俺の勝手だろうが! 作業の邪魔すんなよ、オッサン!」
「お、おっさん!?」
男はオッサン呼ばわりに衝撃を受けた様子になっていると、また別の場所から声がきた。
「お節介はほどほどにしとけって。探索者になろうって馬鹿だと、他人の助言なんか要らねえって思っているヤツの方が多いだろうしな!」
「……そ、そうか。邪魔して、わるかった」
鉈を持ったオッサンは肩を落としすと、先ほどの声がした方へ行く。するとオッサンと同年代の男性が近寄り、オッサンを揶揄うような仕草をする。
その気安い関係を見るに、探索者仲間だろうか。
「おっと、鉛は全部溶けたな」
俺はバーナーを消すと、備え付けのドライヤーで冷風を送って冷やしていく。
その作業の間にパイプを見ると、ボルトとナットを入れた場所から、ちょっとずつ鉛が漏れていた。しかし出てきた鉛が冷えて固まって穴を塞いだようで、漏出は程なくして止まった。
そのままパイプを送風で冷やし続け、鉛が完全に固まったのを確認してから、この自作武器を手に取ってみる。
「少しバランスが悪い感じもあるけど、こんなもんだろ」
ヘッドを重くしたことで、振った際に先端に威力が乗るようになっている。
人間の頭に思いっきり振り下ろしたら、パイプとジョイントの鉄の硬さも合わさって、頭蓋骨を容易に陥没させることができることだろう。
「大部分が既製品な手作り武器でも、骨を砕ける威力があれば、ダンジョンの浅い階層のモンスターは倒せるはずだ」
俺は製作した武器――先端がL字の鉄パイプを手にし、ホームセンターから出て、早速東京ダンジョンに挑むことにした。