二百八十五話 順調に奥へ
十八階層深層域の奥を探索していく。
七匹一組でモンスターが現れる区域で活動するので、必然的にドロップ品の回収量も多くなる。
そしてこの区域は、他の区域に比べて明らかにレアドロップ品の出現率が高い。
加えて、ハーフボーンドラゴンという強敵がいるからか、同じ十八階層の奥の区域でも浅層域や中層域に比べて、レアドロップ品の出現率が高いように感じられる。
「おっ、魔石が出たよ。やっぱり出現率が高い気がするな」
なんて感想を呟きつつ、魔槌の更なる進化のために、魔石を叩き壊して出てきた光を魔槌に吸収させておくことにした。
この七匹一組でモンスターが現れる区域に入ってきて、もう十戦ぐらいしているけど、七匹全てが一種類のモンスターだけという事態には出くわしていない。
つまりは、満遍なく三種類のモンスターと戦う羽目になっているわけだったりする。
でも正直言って、戦い方が確立できていることもあって、苦戦らしい苦戦はない。
空間断裂を食らわせることができれば、もしくは魔槌に爆発力を発揮させれば、黒スケルトンも死霊術師も一発で倒せる。
ハーフボーンドラゴンの音圧の吐息を誤射させても、黒スケルトンと死霊術師は倒せてしまう。
死霊術師は敵の隊列の奥に留まる傾向はあるので、早々に攻撃や誤射を狙うことは難しいけど、黒スケルトンさえ処理してしまえば、ハーフボーンドラゴンの攻撃を掻い潜って接近することは難しくない。
そうして黒スケルトンと死霊術師を倒せてしまえば、ハーフボーンドラゴンもハイヒールないしは空間断裂の餌食にして倒すことが可能になる。
「やっぱり攻略法は大事だよな」
なんて感想を零しつつ、次に出くわしたモンスターたちを倒し、ドロップ品を回収していく。
「死霊術師のレアドロップ品は初か?」
俺が手に取って拾い上げたのは、手に持つ柄がついた鈴だった。
試しに鳴らしてみたところ、見た目が似通っているからか、仏具の御鈴と同じような音がした。
耳に残る涼やかな音で、心が穏やかになっていく感じがある。
しかしレアドロップ品ということは、単に音が良いだけの鈴じゃないだろうと、次元収納の識別を働かせてみた。
すると、この死霊術師の鈴は、音を鳴らすとアンデッド系モンスターの動きを鈍らせる働きがあると分かった。
「アンデッド系モンスター限定の、行動阻害アイテムか。使用回数に制限がないってのは、いい点だな」
そう評価はするものの、俺の先頭スタイルに合わないなとも分かった。
この鈴で片手を塞いでしまうより、その片手で魔力弾を売ったり空間断裂を使ったり、もしくは魔槌の柄を両手持ちにして殴りつけたりした方が、戦いが楽だからだ。
「黒スケルトンのレアドロップ品の、黒スケルトンの骨を削って作ったような黒い骨剣も、俺にとっては使い道がないものだったしな」
正直言って、十八階層深層域のドロップ品とレアドロップ品は、俺にとって微妙なものしかない。
ハーフボーンドラゴンの骨も牙も、黒スケルトンの骨の形をした炭と黒い骨剣も、死霊術師のケモ耳付きローブも鈴も、売却するしか利用法がないものばかり。
既に使い道に困るほどの預金額がある俺からすると、売るしかないものよりも、自分の生活に利用できるドロップ品の方が嬉しいからな。
肉とかの食料品とか、包丁などの日用品とか、服や指輪のような服飾品関係とかな。
「ハーフボーンドラゴンの骨は骨髄が食えそうではあるけど」
骨を割って焼いてなんて手間をかけられる、そんな調理器具は俺の家にはない。
つまるところ、十八階層深層域は宝箱を目的に探索するしか楽しみがないということだ。
「これで宝箱の中身がしょうもないものばっかりだったら、骨折り損のくたびれ儲けだよな」
なんて愚痴を呟きつつ、通路の奥を目指して進むことにした。
そうして辿り着いた通路の奥には、幸運なことに宝箱が一つ置いてあった。
早速開けようとして、無生物系モンスターの配下が払底していることを思い出した。
「仕方がない。魔槌の先で開けつつ、身体は魔力鎧で守ることにしよう」
俺は準備を整えると、宝箱から少し距離をとりつつ、魔槌の先で宝箱の蓋を押し上げた。
そう用心した割に、この宝箱には罠はなかった。
罠がなかったことに安堵しつつ、俺は宝箱の中身を確かめることにした。
そして、中身を目にして、驚きの声を上げてしまう。
「おお! これはもしかして!」
宝箱の中身としては初めて見る、扁平な円筒形をした缶。
缶詰ではない、手で蓋を開けられるタイプの金属缶で、ドラッグストアで薬物とかが入れられているものに似ている気がする。
もしかしてと、ウキウキとした気分で缶を手にとり、缶の蓋を外し――中を見てガッカリした。
缶の中に詰まっていたのは、真っ白な粉だった。
見るからに白粉とかベビーパウダーの類だ。
「いやいや。もしかしたら粉薬の可能性はあるから」
と言いつつ、個包装もされていなければ、計量スプーンもないのを見ると、期待薄だというのも分かっている。
それでも一縷の望みをかけて、この缶を次元収納の識別で調べてみた。
「……やっぱり、ベビーパウダーかよ」
一応、ダンジョンの十八階層の宝箱から出た物だけあって、ベビーパウダーとしては従来品に望むべくもない高品質な逸品ではある。
全ての肌の病気に効くうえ、肌理を整えて見た目の若々しさを保つ働きがあるようだからな。
女性や赤ん坊には、とても有用なベビーパウダーだということは分かる。
「でも、俺が欲しいのは、不老長寿の秘薬なんだよ」
同じ薬品なら、以前に手に入れている五年命を長らえる延命薬の方が、グレードが上なんじゃないか。
あまりの残念な結果に、俺は肩を落とさずにはいられなかった。




