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二十八話 東京ダンジョン周りの宿泊事情

 バックラーを二つ確保するため、かなり長い間、モンスターたちと戦ってしまった。

 少し急いで第二階層から東京ダンジョンの外に出てみると、すっかり日が落ちてしまっていた。

 ツナギからスマホを出して時間を確認すると、時刻は夜の九時になろうとしていた。


「長居し過ぎた」


 いまから役所でドロップ品を換金し、夕食を食べ、自宅に帰って就寝じゃ、夜の十一時に布団に入れるかどうかだ。

 これはもう、東京ダンジョン近くで宿を取った方が、明日ダンジョンに入るには楽かもしれない。


「ドロップ品を売れば、宿代と飯代は確保できるだろうし」


 東京ダンジョンから出てくる際に、次元収納に入れていた売却予定のドロップ品は、持ち込んでいたリュックに入れてある。ゾンビ犬から出る腐肉と毒の犬歯は、リュックが汚れそうなので、次元収納に入れたままにしてあるけどな。職員に売れるか聞いて、売れそうなら明日以降に持ち込むことに決めている。

 俺は役所に入ると、探索者のうちライト層は陽のある内に帰ったようで、人口密度は疎らな感じだった。

 買い取り窓口へ行き、カウンターに売却予定品を並べていく。

 ゴブリンミサンガとミニゴーレムの石板が大量にあり、ゴブリン短剣が六本あるのを見て、職員が目を丸くする。


「これ全て、買い取りでいいんですね?」


 その問いかけに、俺はイキリ探索者を装って答える。


「そりゃそうだ。じゃなきゃ、こうして出しちゃいないっての。ちゃっちゃと買い取ってくれよ」


 少し自慢げな態度で言うと、職員は表情を正して提出したドロップ品を引き取り、お返しに整理券を渡してくれた。

 その整理券を受け取りつつ、職員に声を掛け直す。


「なあ。ゾンビ犬のドロップ品の腐肉とレアドロップの毒がある犬歯。あれも買い取ってくれんのか?」

「はい。貴重なモンスタードロップ品ですので、買い取りはしております。ただし腐肉は肥料用として活用するため低価格での取引になっています。毒の牙の方は、含まれている毒物に新たな科学物質があるんじゃないかと研究中の素材になっていますので、それなりの価格で買い取っておりますね」

「そうかそうか。じゃあ次からは持ち込むとすっかな」

「出来ればで良いのですが、腐肉と牙は他のドロップ品とは別の袋に入れて持ち込んでくださると助かります。特に腐肉の方は、臭いがありますから」

「覚えていたら、従ってやんよ。まあ、覚えていたらだけどなあ!」


 俺は無意味に自信満々な態度を保って職員から離れると、役所にある一人がけソファーに座る。そして時間つぶしに、スマホでネット小説を読む。

 連載ものの二話分を読み終えたところで、俺の整理券番号が呼び出された。

 窓口へ行って報酬を受け取ると、およそ二十万円の手取りとなった。内訳を確認すると、ゴブリンミサンガは一個百円程度の捨て値だが、ミニゴーレムの石板は材質によって五百円から一万円の幅で値がついていて、ゴブリン短剣に至っては一本三万円だった。

 ゴブリンミサンガはもとより、ミニゴーレム石板も値付けに幅があり過ぎるので、売却用のドロップ品として考えると旨味は少ない。

 しかしゴブリン短剣が三万円はお得感があるな。


「よしよし、儲けた儲けた♪」


 金を手に入れて浮かれる演技をしつつ、俺はスマホで東京ダンジョン近くで宿泊と食事が可能な場所を調べる。

 資金は二十万円。これだけあれば、東京のホテルのスイートは無理でも、シングルぐらいは借りれるだろう。


 宿泊場所を調べていると、探索者用のカプセルホテルが近くにあることを見つける。

 どこにあるかというと、東京駅近くの高層ビル。それが丸ごと一棟、カプセルホテルなのだという。

 なんで高層ビルがカプセルホテルなのかと調べると、発端は二年前に東京ダンジョンが出来たからだという。

 東京ダンジョンは、モンスターが出てくる危ない場所だ。そこに入る探索者も、特例で刃がある武器を携帯している、出生不明の危険な輩だ。

 その二重に危険な存在が集まったことで、当該のビルを所有して全ての階を使っていた外資系の企業が、場所の危険性を理由に移転してしまった。

 そうして空いたビルに、政府が目を付けた。

 当時、東京駅近くには、高級なホテルはあっても安い宿泊所は少し離れた場所にしかなかった。

 しかしダンジョンに入る探索者たちは、ダンジョンに稼ぎにきているため、その日の寝床はダンジョン近くで安い方が有難い。

 そして政府は、皇居の近くにある東京ダンジョンを少しでも早く底まで攻略させて、東京ダンジョンが安全である事実を解明しておきたい。 

 そんな両者の思惑が合致して、その空いた高層ビルがカプセルホテルに改装となった。

 ちなみにビルの所有名義は、探索者を援助する政府機関となっているらしい。

 そんな公共の宿泊所だからか、カプセルホテルにしても、一泊二千円と破格の安さだ。

 もちろん、その値段で泊まれるのは、役所で探索者登録をした者だけ。探索者じゃない人も泊まれるが、そっちの場合だと近所のカプセルホテルと価格を寄せるために、一泊八千円かかる。

 その六千円の差額を節約するため、役所で探索者登録をしてからホテルを利用する人が大半だ。

 しかし、それが出来るのは日本国民や、長期滞在ビザを持つ人だけ。海外旅行者が安く宿泊することを目的に利用することはできない。


 そんなカプセルホテルには、宿泊だけのプランしかないので、食事はついていない。

 ではどこで食べるのかというと、お金に余裕がある人は、高級ホテルのレストランで食事する。ホテルのドレスコードを守りつつ探索者に利用してもらうため、ホテル側が有料でスーツやドレスの貸し出しまでやっているようだ。

 そして食事を安く済ませたい人は、コンビニや東京駅前広場の夜に出る屋台、もしくは少し足を延ばした新橋の店で食べるようだ。

 俺はどうしようかと考えて、屋台で食事することにした。

 東京駅前の広場までやってくると、色々な屋台が並んでいた。

 日本の料理から外国の料理まで、様々な選択肢がある。

 今日はよく戦ったので、とても腹が減っている。そして筋肉を使ったので、タンパク質の補給がしたい。

 どうするかと考えて、台湾料理の屋台に腰を下ろすことにした。

 頼んだのは、巨大唐揚げと角煮丼のセットに、追加で揚げ肉まんと台湾式牛スジ煮込み。そして飲み物は、黒烏龍茶。

 頼んだ料理を広場に並んだ机に広げると、俺の顔程もある巨大な唐揚げに齧りつき、角煮丼を使い捨てのレンゲで頬張り、噛んで味を堪能し終えたら、黒烏龍茶で流し込む。

 口の中が開いたら、肉まんを頬張ってから、牛スジ煮込み。

 後はもう、腹が満足するまで、無節操に貪り食った。


「ふう。まだ少し、デザートが欲しい感じだな」 


 使い捨ての容器を広場に備え付けられたゴミ箱に捨てつつ、もう一度台湾料理の屋台へ。

 デザートが何種類かあったが、水分補給も兼ねて、懐かしの黒蜜タピオカ入りのミルクティーを注文した。

 それを飲みつつ、調べてあったカプセルホテルへ。探索者登録証を提示し、二千円を支払う。宿泊階に希望はないので、ランダム選出で部屋を選んで、カードキーを受け取る。俺が泊まる部屋は、三十一階になった。

 どうやら男性階と女性階が交互に来るように分かれているようで、奇数階が男性、偶数階が女性用ということらしい。

 ミルクティーの中にあるタピオカをストローで吸い込みつつ、カードキーをかざしてエレベーターを呼ぶと、乗り込んで三十一階へ。所持するカードキーでエレベーターの移動先を操作しているらしく、試しにボタンを押してみたが、女性階どころか三十一階以外には止まれないようになっていた。

 三十一階に到着すると、トイレとシャワーがある一画以外は、ズラっと宿泊カプセルが並んでいた。

 カプセルは上下二段の作りになっていて、案内板を見てカプセル番号を把握すぐ限り、一階につき百人は泊まれるようになっていた。

 俺は自分のカプセルに行く前に、シャワーへ。良く運動したので、先に汗を流したくなったからだ。

 シャワーのある区画へ行くと、自動販売機もこの場所に集約されていた。定番の飲み物から、お菓子、スマホ用の充電器、下着、歯ブラシセットを売っているものまである。

 俺は下着を自動販売機で購入し、シャワーへ。備え付けのソープボトルに入っていたのは、シャンプーとボディーソープ一体型。経費削減のためだろうか。

 ともあれ、シャワーでさっぱりしてから、俺の宿泊するカプセルへ。

 珍しいことに、このホテルの宿泊カプセルは、カーテンやブラインド式ではなく、ハッチ式を採用していた。

 内開きのハッチを閉めてみると、周囲からの音が一気に遠くなった。


「これは寝やすいな」


 俺はもぞもぞと防具ツナギを脱ぐと、畳んでから、ハッチ近くに置く。その際、腹部に接着剤でつけた二つのミニゴーレムのバックラーが当たって鳴ったが、きっとカプセルの外には聞こえなかったはずだ。


「さて。アニメを見てから、寝ようっと」


 俺はスマホでアニメを視聴する。もっとも、明日のために充電を多く残す必用があるので、一話か二話分が限界だろうけどな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろい [気になる点] 治癒スキル取得の陰に隠れた?とはいえ (話で)10話も経って尚 収納2⇒3の検証がされていない(描写が見当たらない)点 1⇒2は1の8倍(各辺2倍だから?)と…
[一言] これが飯テロ。。。
[一言] へー、低価格とはいえ腐肉まで買い取ってくれるんだ 次元収納なら臭いとかも気にせずに持って帰れますし美味しいなあ
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