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二百七十八話 早々と完了

 十八階層中層域へ行き、未探索の場所を突き進み、時折宝箱を見つけて中身を回収し、ダンジョンから出て役所でドロップ品だけを売却し、帰宅する。

 そんな日々が二週間ほど続いたところで、あっさりと中層域の探索は終わってしまった。


「俺の戦法と相性が良い場所だったとはいえ、拍子抜けするほどの簡単さだったな」


 なんて愚痴りつつ、俺は十八階層の出入口に戻ってきた。

 そして、出入口付近で寝泊まりしている探索者の視線を感じながら、俺はリアカーを次元収納から出す。

 そのリアカーの荷台に、今日のドロップ品を積み込んでいった。

 この中層域の通常ドロップ品は、どれも大きくないので、沢山リアカーに載せられるのが助かる。

 そうして通常ドロップ品を載せた後で、レアドロップ品も積んでいく。シーシャセットも香水瓶もガラス製なので、割れたりしないよう気を付けて積む。

 その後で、俺は宝箱から回収した中身を積んでいく。

 十八階層中層域で見つけた宝箱の数は、休憩部屋と隠し部屋一つずつの中にあったものも含めて、全部で十個。

 ちなみに内訳は見つけた順で、瞳くらいの大きの宝石が一つと小さな宝石が無数に付いたサークレット、ヘッドに拳大の透明な宝石がついた短杖、良く効く方のポーションが三十本、赤んぼうの拳ぐらいの大きさと厚みのある宝石が三つあるネックレス、絹のような手触りながら宝石のような煌めきのある糸で作られた女性用のドレス、金のインゴット二十本、手の甲から肘までを飾る宝石がちりばめられた金の腕輪、剣帯や鞘が金糸や宝石で飾られた儀礼剣、先のドレスと同じ感触の糸束が十個、そして以前にも手に入れていた銀色の延命薬。

 なぜか装飾品ばっかり宝箱から出てきたし、その装飾品たちも見た目が良いだけの特殊能力のない装備ばっかり。

 そんなダンジョン探索に使えない物を持っていても仕方がないので、延命薬以外の物は全て売却してしまうことに決めて、リアカーの上に積んでく。

 その作業の中、どの装飾品も目を引く煌びやかさがあるからか、十八階層の出入口に住んでいる探索者たちが羨ましそうな目を向けている。

 見ている連中は男ばっかりなので、きっと自分で使うためではなく、恋人や恋人未満の相手に送って好感度を稼ぎたいと考えての視線なんだろうけどな。

 俺は、その視線に気付かないふりをしながら、リアカーの積み込み作業を終わらせる。そして、さっさとダンジョンの外へと出て、役所へと向かった。

 役所の買い取り窓口で、リアカーに積んだものを売り払っていくが、窓口職員が女性だったこともあって、宝箱から出てきた装飾品やドレスに見惚れて売却作業が滞ることになった。


「うわー、このネックレス、宝石で重い。はぁ~……。あ、こちら、海外の方も参加できるオークション行きですよね」

「ああ、そうしてくれや」

「こんなに綺麗なドレス、もう二度と目にできないかも……。こちらもオークション行きですね。寸法は、こちらで計っておきますね」

「……そうしてくれ」


 一つ装飾品を手に取る度に感嘆の声を出しながら、窓口職員は作業を続けている。

 その作業の中で装飾品を手放す際には、まるで長年の恋人と別れる場面かのように、名残惜しそうな手つきと目つきで品物を見送っている。

 そんな調子で、ちょっと時間はかかりながらも、リアカーに積んだ全てのドロップ品と宝箱の中身を売却することができた。

 用は済んだからと窓口から離れようとしたところで、件の窓口職員に呼び止められた。


「あの、少々お尋ねしたいことがありまして」

「んだよ。こっちはさっさと帰りたいんだが?」


 イキリ探索者らしく荒っぽい口調で問い返すと、職員は少し気後れした様子になりながらも質問してきた。


「小田原様は、明日以降は東京ダンジョンの別の場所で活動なさるのですよね?」


 質問された内容が予想外だったので、俺は面食らって咄嗟に言葉が返せなかった。


「……そうしようとしていたが、何か問題があるってのか?」

「いえ、問題はありません。ですが、今回納入してもらった中にもあった、あの香水。あれを今後納入してくれるご予定はありますか?」


 これから先、俺は十八階層の深層域に活動場所を移すことになる。

 なので深層域へ行くまでの道中、中層域を通る際に、寄生花を倒す機会は何度もあることだろう。

 しかし寄生花の香水は、レアドロップ品。

 七匹一組でモンスターがでてくる区域だとレアドロップ率が上がっているので一日一個は手に入ったが、二匹一組でモンスターが出るダンジョンの順路上ではレアドロップ率が渋いので手に入る確率は極めて低くなる。

 その事実を鑑みて、俺は職員に否定の返答をする。


「納入予定はねえよ。今回ので、俺からは最後だろうな」

「そう、ですよね……」


 俺の言葉を聞いて、職員は残念そうな、それでいて何かを決意したような顔になる。そして、なぜか俺に対して、決意を語り始めた。


「あの香水の香り、私、結構好きなんですよ。だからどうしても手に入れたくて、でも高くて。だけど、貯金を使い果たしてでも、落札することに決めました。小田原様が数多く出品してくださったので、オークションでの値上がりもさほどじゃないので、どうにか落札できそうな価格ですし!」

「お、おう。頑張れや」


 香水一つに大枚叩くだなんて、俺はゴメンだが、この女性職員が貯めた給料から出すのなら好きにすればいいことだしな。

 俺は心の中で、オークションで落札できればいいなと願っておくことにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 窓口さんがヒロインに!?w 落札できなかった彼女に、あとでプレゼントとかあるのかしらん?
[一言] イキリムーブが鳴りを潜める位には強烈な気迫だったんだろうな…
[一言] こういう所に勤めてると目が肥えちゃいそうだなあ 知らなければ貯金オールインで香水落札とかせずに済んだろうに
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