二百七十三話 ジャケットが進化したものの
いつも通り、俺は日数をかけてダンジョンの通路を一つずつ奥まで調べていくことにした。
七匹一組でモンスターが現れる区域を中心に活動するため、ドロップ品は大量に、レアドロップ品や魔石も少量、毎日手に入る。
魔石については、以前からそうしているように、金色の全身ジャケットを進化させるために使っている。
十八階層で手に入る魔石は大きいので、すぐに金色ジャケットが進化するだろうと思っていたのだけど、なかなかそう上手くはいかないみたいだ。
でも、魔石を使い初めてから、このジャケットの調子が良くなった感じはある。
もともと動きやすくはあったのだけど、より関節部の皮の動き滑らかになって、行動に追従しやすくなっている。
整備の面でも、ブラシで汚れを落とすのも、受け取った当初は念入りにしなきゃいけなかったのに、いまでは一度撫でればサッと綺麗になるような感じに変わっている。
こういう微妙な変化について、魔石を得た武器に自動修復的な力が働いているのと同じだと、俺は予想している。
つまるところ、関節部の動きの鈍さやジャケットに付いた汚れとかの修正を、魔石から得た力に使っているんだろうな。
逆に、そうした部分に力を使ってしまっているため、魔石を多く与えている印象があるのに、未だに進化しないんだろう。
そんなことを考えながら、新たに見つけた宝箱の中にあった魔石を、ジャケットに使用する。
ジャケットに押し付けた状態で魔石を割って、割れた魔石から出てきた光がジャケットに吸い込まれる。
何時もはそれで終わりだったが、今回はジャケットが光輝き始めるという、進化の兆候を見せた。
「おおッ! ついに!」
ジャケットが進化するんだと喜びながら、進化が終わるのを待った。
やがて進化の光が消えたのだけど、俺は自分の身体を見下ろして首を傾げる。
「なんか変わったか?」
所々に黒い装甲がついた、金色の全身ジャケット。
その装甲部分もジャケットの革の具合も、真価を果たしたはずなのに、岩珍工房から送られてきたときと同じ見た目にしか思えない。
どういうことだろうと手で触れたり、前合わせのチャックを下げて内側を見たりしたが、特に変化があったようには見えない。
「鉄パイプを始め、武器が進化したときを考えたら、結構大がかりに代わると思ったんだけど?」
見た目は変わっていないことは理解した。
では性能はどう変わったんだろうか。
その場で腰を捻ってみたり、大きく腕を回してみたり、ラジオ体操第一をやってみたりして、ジャケットの具合を確かめる。
進化前はほんの少しだけ革が突っ張る感じがあったが、進化した後にはそれが全くない。
そして黒い装甲や金色の革の部分を軽めに殴ってみると、進化前は少しは感じていた衝撃が、いまでは全くと言って良いほど感じない。
かなり強く叩いてみたけど、俺の素手の力ではジャケットの防御力を貫通することはできないみたいだ。
「見た目じゃなくて、防御性能が向上したってことか」
改めて考えてみると、武器の進化で見た目が変わったのも、攻撃力を上げるために必要な変化だったと考えられる。
鉄パイプからメイスに進化した際、ヘッド部分が大きく重くなったことで、打撃力が向上した。
魔槌の進化も、ジェットバーナーの数が増えたり、空振りしなくてもすぐに爆発力を発現できるようになったりと、攻撃力や使い勝手の良さが上がることが主体で、構造上の変化はそれに付随している感じだ。
つまるところ、岩珍工房製の全身ジャケットは、魔石の進化で変化する必要がないほど、防具としての形が最善に整えられていたってわけだ。
革の突っ張りや防御能力関係について改善があったのは、人間の手仕事じゃ限界があった部分を、人間技以上に押し上げたってことなんだろう。
「進化したら、もっとカッコイイ見た目になるんじゃないかって期待したんだけどなあ……」
その点だけは期待ハズレだった。
一度進化したことだし、ジャケットを今以上に進化させなくて良いかもしれないな。
これから魔石の使い道は、魔槌の更なる進化を目指すってことでいいだろう。
「ともあれ、未探索の通路を調べに戻らないとな」
俺は一息入れると、ライオンロボットと共に探索を再開した。
そうして歩き動いてみると、やっぱりジャケットの身体への追従性が上がっていて、それこそ自分の皮膚の延長かのように感じられた。




