二百七十話 ヌルゲー
ライオンロボットを傀儡操術で配下にし、ダンジョンの通路を行く。
そしてライオンロボットと協力して、敵モンスターを倒す。
その戦いの中で気付いたが――
「――ライオンロボットが、他二種より圧倒的に強いな」
そう、ライオンロボットに大鎌ガイコツや兎獣人と戦わせてみると、両者を圧倒してみせたのだ。
ライオンロボットは爪や牙の一撃で相手に大怪我を与えられるのに対し、大鎌ガイコツや兎獣人の刃物による攻撃はライオンロボットに通用し難い。
その武器防具の差によって、ライオンロボットは圧倒的なアドバンテージを他二種に対して誇っていた。
では対ライオンロボット戦では、どうなるのか。
何度か試してみたところ、猛獣の喧嘩と同じような光景が繰り広げられて、両者がボロボロになり、勝ち負けは運といった感じだった。
一戦でボロボロになってしまうので、その都度次に出会った新しいライオンロボットを配下にし直しているのだけど、手間なのでライオンロボット同士を戦わせることは止めることに決めた。
とまあ、十八階層浅層域にでる三種のモンスターの戦力を把握したので、浅層域の宝箱を見つけるために道の奥へと向かうことにした。
二匹一組から三匹一組の区域へ。そこから更に四匹一組の区域へと入っていく。
「ライオンロボット二匹を配下にして通路を進むのは、ヌルゲーに過ぎるな」
配下のライオンロボットを、ライオンロボット以外の敵モンスターに嗾ければ、圧倒的に優位に立ったまま勝利してくれる。
その間に、俺は敵ライオンロボットだけを狙って戦うだけで良いので、戦闘が楽で仕方がない。
ちなみにライオンロボットの通常ドロップ品は、黄色タイツのミュータントが手から伸ばすような鉤爪――アレと同じものが三本くっ付いた籠手一組だった。
使い勝手が難しそうな武器だから、需要があるとは思えない。
爪の部分を分解して三本の短剣にし、籠手は籠手として使うほうが現実的かもしれないな。
そんな判断を下して、鉤爪付きの籠手は次元収納に入れてしまう。
その後も順調に区域を移動していき、とうとう七匹一組でモンスターが出る区域に入った。
と、ここで急に試練がやってきた。
七匹全てがライオンロボットな敵が、俺の前に出てきたからだ。
「うへぇ。面倒くさい相手だ」
俺は嫌がりつつ、頭の中では戦い方を模索していた。
そして作戦を決めると、配下のライオンロボット二匹を特攻させた。
こちらがライオンロボット二匹を消費する代わりに、相手側も二匹戦闘不能に使用という魂胆だった。
しかし相手側も、同スペックのライオンロボット同士では、相打ちにしか持ち込めないとわかっているんだろうな。
こちらが差し向けた二匹に対して、四匹で対応する動きを見せる。
数の差で、こちら側のライオンロボットを一方的に壊そうという腹積もりだろうな。
だがそうなると、俺が意図した二対二の被害交換は出来そうにない。
では、プランBに移行だ。
こちらのライオンロボット二匹に対し、あちら側が四匹かかりきりになっている。
その間に、俺が他三匹を倒してしまおう。
幸い、ライオンロボットを配下にした際に詳しく体の作りを調べたことで、ライオンロボットの弱点や攻撃が通り易そうな場所は把握してある。
「行くぞお!」
俺は気合の声を上げると、三匹のライオンロボットへと襲い掛かった。
ライオンロボットの弱点、その一。
全身を金属の装甲で覆われているライオンロボットだけど、ロボットアニメのお約束と同じように、関節部の耐久性が他より低い。
だから関節部を狙って魔槌を当てれば、叩いた衝撃で破損を引き起こすことが可能だ。
弱点その二。
牙も爪も大変に危険な武器ではある。だが、牙は口を開いてから噛みつくという二動作が必要なので、見てから避けることは無難しくない。爪の方は、出したままだと移動がし辛いのだろう、攻撃するとき以外は手の内に引っ込んでいるので常時危険ではない。
そして口の開閉、爪の出し入れというギミックがある分、顎関節や前足の先は他の関節よりも繊細で弱い造りになっているため、魔槌を当てさえすれば一撃で壊せる。
顎や足先を壊してしまえば、ライオンロボットの攻撃力は半減してしまうので、戦うのが楽になる。
弱点その三。
この弱点は、俺が突くことができるのなら、一撃でライオンロボットを破壊することが可能である。
その弱点とは――
「――口の中にある、音波兵器!」
ライオンロボットが口を開いて身構えた。
それを見て、俺は次元収納の中からライオンロボットのドロップ品である鉤爪付き籠手を出し、鉤爪の先をライオンロボットの口の中へと叩き込んだ。
口の中に隠してある兵器だけあり、耐久力は皆無だ。
魔槌だとヘッドの形状から突っ込むのが難しいけど、籠手についている鉤爪の太さと大きさなら突き込むのは容易い。
鉤爪を押し込まれたことで、ライオンロボットの口の中の音波兵器は破損。その上、口内はロボットであっても急所のようで、音波兵器ごと口内を鉤爪が破壊したことで、そのライオンロボットは薄黒い煙に変わって消えた。
他のライオンロボットも、関節を狙って殴り壊しているので、機動力は半減している。
動きの鈍い相手に遅れを取るはずもなく、さほど時間をかけずに、俺が相対していたライオンロボットたちは薄黒い煙に変わって消えていった。
さて、こちらが終わったけど、俺の配下二匹が戦っているライオンロボット四匹の方はどうだろうか。
視線を向けてみると、まだ取っ組み合いの最中だった。
でも、やはり二対四では分が悪いようで、俺の配下二匹の方が体の損傷具合は高いように見える。
「それじゃあ」
俺は敵の中で一番損傷が低いライオンロボットに対して、魔槌で殴りつけた。
突如俺が参戦したことで、敵側のライオンロボットの連係に乱れが生まれた。
その乱れた隙を突き、俺の配下の方が勢いを盛り返した。
一方で敵四匹は、俺が殴りつけた一匹が俺の方へと攻撃目標を変え、他三匹が俺の配下との戦闘を継続するようだ。
だが、さきほど俺は三匹のライオンロボットを倒したんだ。
たった一匹で俺の行動が阻めると思っているのだろうか。
サクッと相対した一匹を倒したところで、他三匹を俺は配下と強力して戦うことにした。
そうして程なくして、七匹いたライオンロボットたちを打ち倒すことに成功した。
俺の配下の二匹はかなりボロボロになってしまったが、あと一、二戦ぐらいは出来るだろう。壊れた後で、新しいライオンロボットを配下にし直せばいいよな。
なんて考えながら一息ついていると、久々な脳内アナウンスが聞こえてきた。
『新たな空間魔法を覚えた』『傀儡操術の対象数が増加した』
なるほどとスキルに対して意識を集中することで、どう変化したかを確認する。
新しい空間魔法は、空間断裂。俺の身体近くに、斬撃を出すことができる魔法のようだ。
そして傀儡操術の対象数は、二匹から三匹に増加したようだ。
「傀儡操術は対象数が増えただけだけど、空間断裂は使い道が多々ありそうだな」
俺はスキルのレベルアップに嬉しさを感じつつ、さらに通路の奥へと進んでいくことにした。