二百六十九話 新たな無生物系モンスター
戦ってみて、兎獣人も大鎌ガイコツも強敵だった。
なので、戦いに慣れるまでは、筒腕ロボットに援護をして欲しい気持ちがある。
しかし兎獣人を足止めするために、すでに筒腕ロボット一匹を消費してしまった。
単純に考えると、次の戦いで、次元収納に入れているもう一匹の筒腕ロボットも消費してしまうことになるはずだ。
「残り一種類のモンスターが、無生物系だったら良いんだけどな」
という俺の望みが口にでたところで、十八階層浅層域のモンスターと出くわした。
二匹いるうちの片方は、兎獣人。前の個体と同じく、左右の手に一本ずつマチェーテを持っている。
もう片方は初めて見るモンスターで、そして見るからに、機械でできた無生物系モンスターだった。
俺が望んだとおりの相手なわけだけど、問題はその無生物系モンスターの姿形だった。
「雌ライオンを模したロボットみたいだな」
俺の口からでた感想の通りに、そのモンスターは球体関節の四つ足で動く、鈍い銀色の体躯を持つ動物型のロボット。
虎よりスマートで、チーターよりかは恰幅が良い四つ足動物で、鬣がないのを見るに、やっぱり雌ライオンをロボット化したもののように見える。
どういう攻撃をしてくるのか興味が湧くけど、先ほど一度戦って勝手が分かっている兎獣人の方を、俺は先に倒すことにした。
「つーわけで、行け筒腕ロボット!」
次元収納から出した筒腕ロボットをライオンロボットに嗾けて、俺は兎獣人へと殴り掛かった。
俺と兎獣人の戦いは、俺が防御主体の戦い方をしながら、的確に兎獣人の膝を魔槌のヘッドで打ち抜くことで機動力を奪ったことで一気に優位に立った。
その優位を活かし、程なくして俺は兎獣人に勝利し、ドロップ品のマチェーテを手に入れた。
マチェーテを次元収納に入れつつ、筒腕ロボットとライオンロボットの戦いに目を向ける。
結構早く兎獣人を倒したつもりでいたのだけど、俺が戦いに使っていた時間で、筒腕ロボットは半壊の状態になっていた。
筒状の腕は、ライオンロボットに噛みつかれたんだろう、左右のどちらも歯並びに沿った穴が空き、更には大きく潰れてしまっていた。
その胴体にも、爪で切り裂かれたような傷跡が何本もある。
既に満身創痍といった感じの筒腕ロボットに、ライオンロボットが二メートルほど離れた位置で急に大口を開ける。
何をする気だと見ていると、周囲の空気が揺れる感じと『オン!』と空気が震える重く低い音が聞こえた。
ライオンロボットの遠吠えかと思ったが、それは違った。
空気を震わす異音が聞こえた直後、筒腕ロボットは見えない誰かに突き飛ばされたように、大きく後ろへと吹っ飛ばされていた。
どういうことだと混乱しかけたところで、俺はライオンロボットの口の中に大砲の筒のようなものがあるのを見つけた。
その大砲の筒と、先ほど聞こえた異音に、吹っ飛ばされた筒腕ロボットを組み合わせて考え、どんな攻撃だったのかの予想がついた。
「空気弾――いや、指向性の音波兵器だ」
スピーカーの前に砂を置くと、音による空気の振動で揺れたり移動したりを始める。
その振動を強力にすれば、砂よりも大きなもの――例えば葉や枝を揺らし、極めれば人に打撃を食らったと錯覚を起こすほどの圧力を受ける。
ライオンロボットの口の砲は、その超強力な音波による圧力で筒腕ロボットを吹っ飛ばすほどの、超高威力のスピーカーなんだろうな。
「たかが音波と侮れないのは、有名なモンスター育てゲーでも、身代わりを貫通する攻撃な点からも分かるよな」
事実、音波砲を食らった筒腕ロボットは、機械の体のどこかが壊れた様子で、吹っ飛ばされた先で藻掻くだけで起き上げない状態になっている。
きっと筒腕ロボットの体内の部品が、音波砲の圧力によって割れてしまい、機能不全を起こしてしまったんだろうな。
そんな状態の筒腕ロボットへ向けて、ライオンロボットの口が再び開かれ、また『オン!』と空気が震える重低音が放たれた。
かなりの指向性があるのか、五メートルほどは離れている距離から放たれた音波なのに、筒腕ロボットは全身を強く押されたように吹っ飛んだ。
そして吹っ飛んだ先で、体内部品に致命的な損傷が発生したのか、薄黒い煙に変わって消えていった。
筒腕ロボットの事は残念だけど、ライオンロボットの戦い方が分かったので、十二分に仕事を果たしてくれたと言える。
「このまま戦ってもいいけど――傀儡操術!」
俺が宣言を行うと、俺とライオンロボットの間に不可視の繋がりが生まれた感覚が発生した。
傀儡操術は、筒腕ロボットを始めとする無生物系モンスターを無条件で配下にするスキル。
ライオンロボットも無生物系モンスターであるからには、このスキルによって俺の手駒になる運命からは逆らえない。
そのハズだった。
「なんだ、なんか手応えが違う?」
今までの無生物系モンスターなら、傀儡操術を使えば即座に配下になっていた。
しかしライオンロボットから伝わる不可視の感触は、未だに俺の配下になっていない事実を伝えてきている。
俺は不思議に思いながら、より強く傀儡操術に意識を注入し、より強くライオンロボットを配下にするよう念を送った。
それでもすぐには配下にならず、ライオンロボットの口が俺の方へ向けて開かれる。
筒腕ロボットを倒した音波法の予感に、俺は傀儡操術に切り上げようと一瞬考え――逆に傀儡操術に注力するべきだと意見を翻した。
「さっさと、俺の配下になれよ!」
大声で苦情を言いながら、俺は目を瞑って傀儡操術に集中する。
その状態で、一秒経ち、二秒経ち、そして三秒経ったところで、ライオンロボットが俺の配下になった手応えを得た。
「ふいぃ~。これはアレだな。あのゲームみたいに、強いモンスターだと配下にできる確立が低かったり、時間が掛かったりするんだろうな」
とりあえず、俺は配下にしたライオンロボットに近寄る。
ライオンロボットは近くで見ると、かなりの大柄だった。それこそ現実のライオンよりも大きく作られていて、競走馬もかくやという体躯を持っている。
それこそ、大人でそれなりの体重がある俺が背に乗っても、余裕で走れるぐらいの力強さがあった。
俺は傀儡操術で操って動かしながら、ライオンロボットの体を詳しく調べることにした。
ライオンロボットが内蔵する攻撃方法は、三種類。
口にある杭のような太さの牙、口内の奥にある音波砲、そして両前足の指先から伸び出る金属製の鎌のような爪だ。
この牙で筒腕ロボットの筒の腕を噛み潰し、音波砲で筒腕ロボットを吹っ飛ばし、爪で筒腕ロボットの身体に深い傷を生んだ。
それを踏まえて考えると、ライオンロボットはかなりの攻撃力を持ったアタッカータイプのモンスターだと分かる。
「兎獣人も大鎌ガイコツを相手にして勝つには、このぐらいのスペックのロボットじゃないとだよな」
俺は新たな配下が強そうなことに喜んでから、ライオンロボットと共に十八階層浅層域を行くことにした。




