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二百六十八話 大鎌とマチェーテ

 十八階層に入り、浅層域へと踏み入る。

 多くのテントが張られていたように、多数の探索者が十八階層には入っているはず。

 しかし、その探索者の人数に対し、十八階層は十分な広さがあるのか、俺が歩いている道中で他の探索者に出くわさない。

 そして誰とも会わないまま、モンスターの方と会敵した。


「十八階層でも最低数は二匹か。三匹じゃなくて良かった」


 俺はモンスターの数が二匹なことに安堵しつつ、モンスターの姿を確認する。

 その二匹のモンスターは、それぞれ別種だった。

 片方は、真っ黒なローブに全身を包んだガイコツで、手に大鎌を持っている。

 もう片方は、筋骨隆々なボディービルダーに、フワフワな白毛が全面についた全身タイツを着せて頭に兎のお面をつけさせたような、兎の獣人。こちらは両手に一本ずつ、マチェーテのようなものを持っている。


「ガイコツの方は死神に、筋肉な兎獣人の方はヴォーパルバニーがモチーフっぽいな」


 俺が思った感想を呟いた直後、ローブガイコツは滑るような滑らかさで移動を始め、兎獣人はそれぞれの手にあるマチェーテを振り上げながら勢いよく走ってきた。

 その姿はまるで、ガイコツは幽霊系、兎獣人はモンスター系のホラーのようだ。


「怖ッ!」


 あまりの迫力にそう口では言ったものの、戦う覚悟を決めてしまえば、見た目の怖さは何処かに行ってしまった。

 俺は先に襲い掛かってきた兎獣人に対し、左右のマチェーテによる攻撃を、魔槌の柄で連続して防ぐ。

 筋骨隆々な体躯から放たれる斬撃は重たくて、一撃防ぐたびに後ろにタタラを踏みそうになる。

 そうして兎獣人に掛かりきりになっている間に、俺の横に黒いローブが見えた。

 兎獣人が俺の上半身を攻撃しているからか、大鎌を構えたガイコツは俺の足を狙って斬りつけてきた。

 足首の位置を進んでくる鎌の刃に対して、俺は大縄跳びをする要領でジャンプして刃を避けた。

 ここで俺が空中に飛んだことで足の踏ん張りがなくなってしまったため、兎獣人のマチェーテの攻撃で後ろに吹っ飛ばされてしまう。


「チッ。手段を選んでいられる相手じゃないな」


 俺は意地を捨てて、安全策を取ることに決めた。

 次元収納の中から筒腕ロボットを一匹出す。そして、すぐに傀儡操術で操り、兎獣人の方に嗾けた。

 兎獣人の刃と筒腕ロボットの射撃が交錯を開始し、俺は大鎌ガイコツに相対し直す。

 大鎌ガイコツの方も、俺と一対一は望むところなのか、筒腕ロボットを無視して俺と対峙している。

 一秒ほど見合った後、先に大鎌ガイコツが動きだした。

 相変わらず足音がしない、床面を滑るような歩法でもって、大鎌ガイコツは鎌を振るってきた。

 最初、俺は魔槌で受け止めようとしたが、鎌の刃を受け止めるのが難しいと判断し、身躱しで避けることに行動を変えた。

 俺の前を通過した鎌の刃は、通り過ぎた直後に翻って戻ってきた。

 俺が再び避ければ、再び鎌の刃がやってきて、その攻防が連続する。

 俺は鎌の連続攻撃を避けつつ、大鎌にどうやって対処すればいいかを、脳内で構築してく。

 その構築が粗方の形になったところで、反撃に移った。


「長柄の武器は、先を叩かれるのが弱いんだよ!」


 俺は言葉を吐きながら、魔槌で大鎌の刃を力一杯に叩いた。大鎌の刃は横に広い形状を取っているので、当てることは簡単だった。

 俺が魔槌で鎌の刃を叩いたことで、その衝撃は刃から柄を伝って、大鎌ガイコツの手元へと襲い掛かった。

 大鎌ガイコツは、ローブを着ているといっても、その手は骨でしかない。

 武器よ壊れろとばかりに渾身の力で叩いた衝撃が、長柄に働くテコの原理によって増幅されれば、単なる骨の手などは砕いてしまう威力が発生する。

 大鎌ガイコツの手の片方が、その衝撃によって破断した。

 そうして片腕を失ったことで、的確に大鎌を保持することが難しくなったようで、大鎌ガイコツが構える大鎌の位置が床近くにまで下がった。

 これは攻撃のチャンスだと近づこうとしたが、嫌な予感がして、俺は大きく後ろに下がった。

 直後、大鎌ガイコツはその場で体を横回転させると、大鎌を骨の腕一本で振り回した。

 かなりの勢いで俺の前を通り過ぎた鎌の刃を見るに、もしも踏み込んでいたら胴体を真っ二つにされた可能性があった。

 しかし、この大振り攻撃は大鎌ガイコツの苦肉の策だったようで、一度攻撃し終わると、振り回した大鎌の慣性に負けて体勢を大きく崩していた。

 今度こそ確実な隙だと見破り、俺は大鎌ガイコツの胸部を魔槌で力強く叩いた。

 俺の魔槌は直撃したが、その手ごたえはイマイチな感じだった。

 なにせ大鎌ガイコツが着ているローブを打った感触が、まるで分厚いゴムを叩いたようなものだったからだ。


「チッ。あのローブは、ダンジョンの特殊な物理法則に適う、列記とした防具だったわけか」


 そうと分かっていれば、もう片方の腕を魔槌で砕いて、大鎌を降れないようにしたのに。

 俺はそう反省したものの、攻撃を食らった大鎌ガイコツは無傷ではなかったらしい。

 黒いローブの裾から、砕けた骨の欠片が床に落ち、その欠片が薄黒い煙に変わって消えた。

 恐らく肋骨のどこかが折れて脱落したんだろう。

 そして肋骨が少量失われたことによって、大鎌ガイコツの動きは更に悪くなった。

 再び大鎌を振り回してきたが、その動きは先ほどに比べると精彩を欠いていた。

 それこそ、俺が寸前を見極めて避けられる程度まで、大鎌が振るわれる速度が落ちていたんだからな。

 俺は大鎌をギリギリで避けると、即座に反撃を入れた。今度はローブの防御力を加味して、ローブの頬かむりから覗いている顔面に目掛けて、魔槌を振るった。

 ローブの布地がない場所を通り、魔槌のヘッドが大鎌ガイコツの頭部を粉砕した。

 頭部を失った大鎌ガイコツは、大鎌とローブも共に薄黒い煙に変わって消えてしまった。


「これで片方が片付いた」


 と安堵したのもつかの間、俺は目の端で筒腕ロボットの頭部が胴体から斬り飛ばされる光景を捉えていた。

 慌てて見やると、兎獣人が十字斬を終えたようなポーズをしていて、頭部を失った筒腕ロボットが薄黒い煙に変わって消えるところだった。

 まだ安堵するのは早かったなと、俺は兎獣人と戦う決意を新たにする。

 兎獣人は、筒腕ロボットが変わった薄黒い煙の中を突っ切り、俺に走り寄ってくる。

 俺は魔槌を構え、兎獣人との戦闘を開始する。

 兎獣人は左右の手に一本ずつ持つマチェーテを交互に振るい、こちらに攻撃させないまま押しきる姿勢で戦いを運ぶ。

 俺は魔槌の柄で的確に攻撃を防御しつつ、兎獣人の攻撃と攻撃の間に反撃を挟む隙を探す。

 そのまま一分ほど攻防が続いたところで、兎獣人の構えが変わった。

 今までは左右交互に振るために、両腕を広げるような構えをとっていた。

 しかしいま、兎獣人は自身の頭の横にマチェーテを移動し、十字斬を放つ準備に入っている。

 筒腕ロボットの頭部を斬り飛ばした必殺技の予感に、俺は迷いなく距離を取ることを選択して大きく後ろへ跳んだ。

 直後、兎獣人がもの凄い速さで突進してきて、俺の首を目掛けた左右同時の斬撃を放ってきた。

 しかし俺が直前に大きく後ろに飛んで下がったことが幸いし、俺の頭防具の顎先をマチェーテが掠るぐらいの被害で済んだ。

 そして俺の頭防具は、頭骨兜の上に物理攻撃に強いエクスマキナの頭部装甲をつけたもの。

 兎獣人の十字斬りが例え必殺でも、一撃で頭部装甲を突破することは無理だ。


「通所攻撃と必殺攻撃は見させて貰った。そして突ける隙も見つけた」


 俺は下がった場所で再び構えると、今度は俺の方から兎獣人へと駆け寄った。

 兎獣人は迎撃するために、再び左右のマチェーテによる連続攻撃を放ってくる。

 俺は魔槌の柄で防御しながら、ここで新たな試みを行った。

 その試みとは、マチェーテの攻撃を防ぐ際に、魔槌の柄を少し動かすことで、攻撃が防がれた後でマチェーテが進む軌道を本来よりズラすこと。

 軌道のズレは、兎獣人の発達した筋肉の保持力によって、ほんの小さな違いにしかならない。

 しかし、兎獣人の攻撃は連続攻撃だ。

 少しのズレでも、それが攻撃の度に積み重なっていけば、何回目かの攻撃の後には大きな隙を生むことに繋がる。

 俺が十回ほど攻撃を防いだところで、兎獣人が振るう軌道が修正必須なズレにまで至り、ここで次の動きのために体勢を整えるための時間が生まれた。

 連続攻撃の中に生まれた、攻撃のこない空白の時間。

 俺はその時間を活かすため、こちらから魔槌による渾身の殴打を繰り出した。


「うりゃあああああああああ!」


 気合一発入れた打撃は、残念なことに兎獣人のマチェーテによって防がれてしまう。

 しかし攻撃を防いだことで、兎獣人は再び攻撃する機会を逸してしまっていた。

 俺はここが勝負の決めどころだと感じて、魔槌による連続攻撃を行うことに決めた。


「うおおおおおおおおおお!」


 雄叫びを上げながら、魔槌で連打、連打、連打。

 兎獣人はマチェーテで防いでいくが、打撃武器を防御するには刃物は適していない。

 十度を超えた攻防の中で、とうとう兎獣人のマチェーテの片方が根本から砕けた。

 自分の武器が砕けた事実を認識するのに時間が必要だったのか、兎獣人の動きが数瞬だけ止まった。

 その短い間の隙にねじ込むように、俺は魔槌で兎獣人の頭を殴打した。

 確実に頭蓋骨を粉砕した手応えがあった直後、兎獣人は薄黒い煙に変わって消えていった。


「ふいぃぃ~。なんとか勝てたな」


 筒腕ロボットを使って、一対一で二回戦うように仕向けたのに、結構苦戦した感じだ。


「気を抜けば殺されてしまいそうなほどにモンスターが強いから、十八階層を突破できない探索者が多いんだろうな」


 感想を言いつつ一息入れると、俺は大鎌ガイコツと兎獣人のドロップ品を回収することにした。

 大鎌ガイコツからは、人の手から上腕までの骨を漆黒に塗ったような、黒い人骨。

 兎獣人からは、兎獣人が戦闘に使っていたものと同じデザインの、マチェーテが一本。

 どちらもあまり嬉しいドロップ品じゃないなと思いつつ、俺は二つを次元収納に入れると、十八階層の通路の先へと進むことにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 新階層では、 ロボットを突っ込ませて 新モンスターの戦い方を看取りしてから チャレンジしてほしいなぁ。
[一言] 筒腕ロボットなしだったらヤバかったろうなあ ストック補充しておかないとですね
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