二百六十四話 銃と鞄
筒腕ロボットをもう一匹配下にしたところ、中々に安定した戦い方ができるようになった。
二匹の筒腕ロボットに牽制射撃をやらせると、モンスター側の対応は、筒腕ロボットと装甲鴉は反撃射撃を行い、鞄ミミックだけが接近戦を仕掛けてくる。
なので俺は、先ず近づいてくる鞄ミミックを倒し、その後で他のモンスターを倒す。
ミミックがいない組み合わせの場合でも、反撃射撃に躍起になっているモンスターに接近して横から殴りつければ、簡単に倒せることが分かった。
こうして楽に勝つ戦い方を見つけたことで、十七階層深層域の探索はぐっと楽になった。
その楽になったぶん、深層域の奥へと向かう歩みも順調で、既に五匹一組の区域にまで進出することができていた。
「お、早々とレアが出た」
十七階層深層域最初のレアドロップ品は、装甲鴉からドロップした謎の薄いフィルムに包まれた丸鶏だった。
「コレ、色が黒いな。鶏じゃなくて、カラスの肉なのか?」
拾って掴んでみると、ずっしりとした重さがあった。
フィルム越しに軽く腹部を押してみると、内臓肉が入っている感触がした。
次元収納に入れて確認すると、カラスの肉で内臓付きであることが証明された。
「内臓付きの丸鶏か。たぶん胃や腸や膀胱には内容物が入っていないんだろうけど……」
正直、丸鶏だけでも食品としては持て余すのに、内臓付きだと更に困る。
カラスの肉って食べたことがないから、一匹分だけは頑張って切り分けて、食事に使ってみるかな。これ以外の丸鶏ならぬ丸鴉が出たら、それは全部売却しよう。
個人的には残念レアだけど、カラスの肉なんて普段口にする機会がないし、ダンジョン産の肉は生でも食べられるから、需要はあるんだろうな。
丸鴉のことに関する思考は切り上げて、探索の続きに戻る。
五匹一組の場所を突っ切り、六匹一組の場所へ。
あと少しで七匹一組のモンスターの場所に入りそうというところで、他二種のモンスターのレアドロップが手に入った。
「筒腕ロボットからは、フリントロック銃みたいな単発銃。鞄ミミックからは、鞄ミミックそのままな黒革のビジネスバッグか」
単発銃の方は、以前に俺が宝箱から見つけたものと同じ種類だけど、古いタイプの銃っぽい。戦う意思を込めて引き金を引けば、基礎魔法の魔力弾が出てくるのも一緒だ。
以前の銃と同じく、こちらもオークションに出品しよう。
鞄ミミックのビジネスバッグは、幅に厚みがあるのでロイヤーズバッグって感じの黒革鞄。留め金は金で出来ていて、つまみを捻って開錠するタイプだ。
容量が十分ありそうなので、普段使いにもできそうなバッグだなと思いつつ、次元収納の中へ。
その際に頭に入ってきた黒革鞄の情報に、俺は呆気にとられた。
「おいおい。ファンタジー作品でお馴染みの、容量増加バッグかよ」
俺が持つ次元収納スキルと同じで、鞄の中を通して別次元にものを仕舞える鞄のようだ。
ただし、別次元に入れるためには、鞄の蓋を閉じて金具も留める必要があるようで、実質的に鞄の見た目より大きなものは入れられないようだ。
容量に関しても、鞄数個分という次元収納Lv2ぐらいしかない。
次元収納LvMAXな俺としては物足りない容量でしかないけど、次元収納持ちがいない探索者パーティーなら喉から手がでるほど欲しい一品だろうな。
「この鞄の大きさなら、ポーションを始めとする医薬品や短剣や脇差ぐらいの長さの武器に、食料品や小鍋や調理器具あたりなら、別次元に収容できるだろうしな」
しかしこの鞄の存在が周知されると、再び次元収納スキル不要論が盛り返すだろうな。
魔法スキルを得るには次元収納スキルが必須という定評が定着しつつあるけど、その場合でもダンジョンでの序盤の不利は否めない状態だしな。
厄介な点は、他にもある。
「スキルと違って、これは道具だ。ダンジョンの外でも次元収納と同じ機能が使えるはずだ」
その点においては、この鞄は次元収納スキルより優れていると言える。
そんな鞄だからこそ――
「――オークションに出品したらしたで、どれぐらいの値段がつくことやら」
機能はもとより、次元収納スキルと同じ力を持つこの鞄は、スキルを物に添加したものと言えるもので、スキルの力を解明するためのヒントになり得る存在だ。
そんな研究対象としても重要な物品であることと、欠損回復や病気治しのポーションですら数十億という値段がついた点を考えると、百億以上の値段がついても不思議じゃない。
「自分用に一つは持っておきたいところだけど、幾つか出品した後じゃないと、各国諜報機関が盗みに来そうだよなぁ……」
その危険を減じさせるためにも、鞄ミミックを積極的に倒してレアドロップの数を稼ぐ必要がありそうだ。
ダンジョン探索以外に気にするべきことが増えた点に、俺は溜息を吐きたい気持ちになりつつ、七匹一組でモンスターが出てくる区域を目指して歩き出した。