二百六十三話 怪しい鞄
十七階層深層域を、配下にした筒腕ロボットと共に歩いていく。
筒腕ロボットを配下にして良かった点は、同行者が増えたことと、罠の解除に役立つところだ
「射撃」
と俺が狙いを指で示しながら命じると、筒腕ロボットの筒状の腕から魔力弾を発射され、罠の発動スイッチが押されて罠が誤作動を起こす。
今回の罠は、床から天井に向けて勢い用k立ち上った炎だった。
約二秒ほどの後に炎の柱は消失し、熱気だけが残った。その熱気も、ダンジョンの壁に吸い込まれていったかのように、すぐに元の気温に戻ってしまう。
「射撃」
と命じて射撃させ、誤作動させた次の罠は、円形の金属板が左右の壁から飛んでくるものだった。意地悪いことに、左側の壁からは人の胸の位置、右の壁からは太腿の位置と別々の場所を狙っていて、しかも左側の方が右側の方より射出される時間が一秒早いという時間差もつけていた。
顔目掛けて飛んできた円盤をしゃがんで避けてしまうと、太腿狙いで射出された円盤が当たる位置が太腿から胸や顔に狙いが変わる感じになっているんだろうな。
射出され、壁に当たって床に落ちた円盤二枚。拾い上げてみると、丸鋸の刃のようにギザギザの刃が付いていた。これが当たったら、傷口がぐちゃぐちゃになって、縫合じゃ治らないだろうな。
まあ、俺には治癒方術だけでなくポーションの在庫もあるわけなので、仮にこの罠を食らっても問題はないだろうけどね。
と、こんな感じで罠の解除を筒腕ロボットに任せつつ、深層域の奥を目指して進んでいく。
そうしてモンスターと会敵した。
しかし不思議なことに、装甲鴉だけしか見当たらない。
「二匹一組でモンスターは出るはずだが?」
と疑問に思いかけて、装甲鴉が先ほど見た個体と違っていることに気付く。
視界の先にいる装甲鴉は、なぜか飛翔する体の足に、黒革のビジネスバックのような細身の鞄を持っている。
なんでそんなものを持っているのかと疑問に思い、装甲鴉以外にモンスターが一匹いるはずと考えれば、自ずと答えは導ける。
「あの鞄が、モンスターってわけか」
その俺の言葉が引き金になったかのように、装甲鴉の足に掴まれた鞄の留め具が独りでに開き、鞄の蓋が大開になる。
ぐばっと開けられた鞄の口は、大型サメの口を思わせる、乱杭歯が並んだ口腔になっていた。
その口をあけた鞄――恐らくは鞄型のミミックは、装甲鴉の足から脱すると、床の上を跳ねまわりながらこちらに近づいてくる。
装甲鴉も、足にあった邪魔な重りを外したことで、軽やかに空中を跳び回りつつ攻撃態勢に移っている。
「遠距離攻撃には遠距離攻撃をぶつけるとするか。筒腕ロボット、鴉を攻撃して、近づけさせるな」
俺が命じると、筒腕ロボットは空中にいる装甲鴉へ向かって、左右の腕から交互に魔力弾を放って攻撃を始めた。
一方で俺は、跳ねまわりながら近づいてくる鞄ミミックに対応するため、魔槌を構え直した。
こちらの準備が整うのと同時に、鞄ミミックは大口で食らいつこうとしてきた。
俺は咄嗟に魔槌を横振りして、鞄ミミックを殴った。
そして殴った瞬間に、俺と相性が悪い相手だと悟る。鞄ミミックの重量が軽すぎて、魔槌の打撃力の大半が破壊力ではなく吹っ飛ばす力に変換されてしまったからだ。
殴られた鞄ミミックは、吹っ飛ばされた先で着地すると、まるで痛痒を感じていないかの様子で元気に跳ねまわりながら最接近してくる。
打撃が通用し難いのならと、俺は別の攻撃手段を取ることにした。
「魔力弾」
宣言の直後、俺の指の先から魔力弾が射出され、鞄ミミックへと向かった。
鞄ミミックが跳ねて着地する先を狙った、完璧に直撃する軌道だった。
しかし魔力弾は、鞄ミミックにダメージを与えることができなかった。
その理由は、鞄ミミックが大口をあけて、魔力弾を食べてしまったからだ。
「……はぁ? おいおい、マジかよ」
まさか鞄ミミックが魔法を食べることができるだなんて、考えてもいなかった。
だけど、これで俺の攻撃手段のうち、魔槌の打撃と魔力弾が鞄ミミックに通用しないことが分かってしまった。
「最近は頼り過ぎているから自重しようと思っていたのに」
俺は魔槌を爆発力を発揮させた状態にして、鞄ミミックが近づいてくるのを待った。
鞄ミミックは、俺の攻撃を二度も凌いだからか、悠然と跳ねて近づいてきた。
その間抜けに不用心な行動の対価として、俺は鞄ミミックに魔槌による攻撃を当てて、ヘッドに爆発を解放させた。
打撃に強い耐性を持ち、魔法を食べることが出来る鞄ミミックであろうと、至近距離での爆発には耐えられなかったようだ。
それでも、爆発によって体を構成する革が破れたり焦げたりしているにも拘らず、鞄ミミックは爆発に耐えて生き残った。
直撃でも生き残るあたり、本当に打撃系の攻撃に耐性があるんだろうな。
「でも、二撃は耐えられないだろ!」
今度は俺の方から接近して、再び魔槌による爆発を鞄ミミックに食らわせた。
俺の見解通りに、鞄ミミックは二度目の爆発によって絶命し、薄黒い煙に変わって消えた。
ドロップしたのは、なぜか食物と思わしき板状の肉がついた、一メートルかける四メートルほどの長方形の革だった。
次元収納に入れて確認すると、どうやらミミックの肉のようだ。
その後、筒腕ロボットと射撃合戦を繰り広げていた装甲鴉を打倒した後で、ミミック肉を取り出してみた。
ダンジョンでドロップする他の食肉と同じように、謎の薄いフィルムで覆われていた。その薄いフィルムを外してから、ミミック肉を掴む。
どうやらミミック肉は、身と革を別々に掴んで引き離すように引っ張ると、簡単に身と革に別れることが分かった。
ではと、剥がした身の端を食べてみると、なんとも複雑な味がした。
「イカのような食感だけど、イカの味じゃない。貝の味に似ているけど、完全にそうじゃない」
海産物特有の甘味があるけど、畜産物のようや旨味もあるし、野菜のような苦味も感じられ、果物のような酸味もある。
このまま刺身で醤油をつけて食べても美味しそうだけど、刻んでサラダに混ぜてドレッシングをかけても合いそうだし、焼いたり煮たりしても美味しそうだ予感もある。
なんとも不思議な味の、俺の知識には他に類似の食品が見当たらない、そんな食べ物だった。
「干してみたり、燻製にしてみたりも面白そうだよな」
干しミミック肉や燻製ミミック肉にしたら、酒が進みそうな味になりそうだなと、そんな直感があった。




