二百五十八話 スキルの活用
二匹一組から三匹一組でモンスターが出る区画へ移動した。
たった一匹モンスターの数が増えただけなのに、ここで俺は意外にも苦戦することになった。
正確に言うと、とある組み合わせのモンスターたちだけに、俺は苦戦していた。
その苦戦する組み合わせとは、風の精一匹とベビードラゴン二匹だ。
どうして苦戦するのかというと、ベビードラゴン二匹が延々と火球を引き撃ちしてくるからだ。
「対応するのが面倒くさいなあ! 魔法盾!」
火球の一発を避けつつ、もう一発は魔法盾で防御。その後に魔槌を振り上げて接近しようとする。
しかし風の精が空気の塊を吹き付けてきて、俺の出足は鈍ってしまう。
その間に、ベビードラゴン二匹は素早く空中を飛び、俺の横や背後へと移動していく。
それならと風の精を狙おうとすると、今度はベビードラゴン二匹が火球を交互に断続的に発射してきて、俺の行動を阻害してくる。
俺が火球の防御で手一杯になっていると、風の精も場所を移動してベビードラゴンの片方の近くへ。
その直後、風の精が近づいた方のベビードラゴンが吐く火球が、風の精の支援を受けて大型化した。
「魔力盾」
大型化した火球を魔力盾で防ぎつつ、立ち位置を変えるために横へと移動する。
俺が攻撃じゃなくて回避を選んだところ、ベビードラゴンたちは火球を撃つことに集中し始める。
いや集中するだけじゃなく、ベビードラゴン二匹が互いに近づいていく。
射撃系ゲームの常識で考えると、火線は揃えるよりも交わる用にした方が火力がでるもの。
だからベビードラゴンの行動は、あいつらの火力を下げることに繋がる行動――のはずだった。
だがベビードラゴン二匹が一メートルの間をあけて空中に並んだところで、二匹の火球が共に大きくなった。
「風の精の火球への援助って、一対一じゃないのかよ!」
火球が二つとも大型化するのなら、たしかに火線が交差する立ち位置よりも、並んで放った方が火力がでるわけだな。
そんな感心をしながら、俺はどう戦うべきかを必死に考える。
そしてある戦法を思いついた。
その思いつきを実行しようとしたところで、ベビードラゴン二匹から大型化した火球が飛んできた。
「魔力盾――」
俺が展開した魔力盾に火球が衝突し、周囲の空間に火の子が無数に散らばった。
そして魔力盾と火の球が衝突した影響が消えたとき、俺の姿はダンジョンの通路になくなっていた。
ベビードラゴン二匹と風の精は、俺の姿が見えなくなったことに、不思議に思っていそうな態度で空中にとどまっている。
そんな中で俺は、ソロソロと動かし続けていた足で、風の精へと静かに接近していく。
こうして景色を見て、こうして足を動かしていることからわかるように、俺は火球で死んだわけじゃない。
魔力盾を発動した直後、火球が命中するより先に、俺は空間魔法スキルの空間偽装を使って自身の姿を光学迷彩で隠した。そして姿を景色と同化させながら、足音を立てないように歩いて移動しているわけだ。
そうして、あと一歩で魔槌の間合いに風の精を捉えられるという場所に至ったところで、風の精が俺の方に振り返った。
姿は消しているはずなので、どうして居場所がバレたか理由は不明だ。
だが、もうこの距離まで接近できたのなら、風の精を倒せない理由がない。
「うおらあああ!」
俺が気合の声を上げながら、爆発力を発揮させた状態の魔槌を勢い良く振り下ろす。
風の精はベビードラゴンの陰に退避しようとしたようだったが、それより魔槌が当たる方が早かった。
魔槌のヘッドが、風の精の体に当たった直後に爆発を起こす。その爆発によって、風の精は千々に千切れた直後に薄黒い煙に変わって消えた。
色々と邪魔をしてくれた風の精が消えれば、あとはベビードラゴン二匹だけ。
ベビードラゴンだけなら大した相手じゃないので、サクッと魔槌で殴って倒してやった。
「ふぅ。時間がかかったな。それにしても、風の精が厄介だ」
真っ先に倒した方が良いとは分かるものの、風の精は基本的に俺から距離を取って戦おうとするので、真っ先に狙うというのが難しい。
どう戦うべきかを改めて考え、そして一つの結論に至る。
「いまさっきのように、空間偽装で姿を消しながらのステルスアタックで、風の精を先に倒すようにするしかないか?」
そのためには、先に空間魔法スキルの空間把握でモンスターの位置を把握する必要がある。
これまで、モンスターと出会ったら戦えば良いからと、通路の把握以外に空間把握は使ってこなかった。
しかしこれからは、今まで使用をサボっていた分だけ、空間魔法を使い倒してやろう。
「じゃあ早速、空間把握」
空間把握の影響範囲がダンジョン内に広がり、俺は直感的に通路がどういう構造で、その通路に何が有るかを感じ取った。
通路上の罠の場所も、薄っすらと違和感という形で把握できる。しかし、罠を発動させるスイッチについては、通路と一体化して存在しているためか、上手く把握することができない。
しかし俺が空間把握に期待する役割は、モンスターの位置を明らかにすること。
その面で言うのなら、役割は十分に果たせていると言える。
「欲を言うなら、風の精だけでも区別できたら万々歳なんだけど」
流石にそこまでうまい話はなく、空間把握の圏内ギリギリにモンスター三匹がいることは分かっても、その種類までは分からない。
仕方がないと諦め、そのモンスターたちに近づくため、通路を先へと進んでいくことにした。




