二百五十四話 宝箱の中身は
十七階層浅層域の通路を周りつつ、七匹一組のモンスターとの戦いに慣れるよう行動していく。
十数日そんなことをやって、一匹出していた歯車ロボットも次元収納に入れて、一人で七匹一組のモンスターたち相手に危なげなく勝てるようになった。
勝てるようになったとはいえ、油断はできない。
この浅層域のモンスターたちには、必勝パターンというものがあるからだ。
巨大花が蔓と痺れ毒で相手の動きを鈍らせ、アロマロカリスが手足に貼りついた上で噛みついて相手の動きを完全に止め、格闘トロルが持ち前の超重量を用いた突きや蹴りで止めを刺す。
もちろん、俺が無傷で行動できていることからわかるように、俺がモンスターの必勝パターンを食らったわけじゃない。
戦いを通して、モンスターたちの行動を見極め、どんな目的で行動しているかを読み解いたことで、その必勝パターンを理解しただけだ。
それにしても、この必勝パターン。
モンスターの数が多ければ多いほど、そして探索者側の数が少なければ少ないほどに、ハマる戦法だよな。
並の探索者パーティーだと、モンスターたちと戦う度に、一人ずつ削られそうだ。
まあ俺のように、十六階層から先の階層でモンスターの数が多く出る場所に赴くような探索者は現状いないので、心配する必要性は薄いけどな。
「っと、またレアドロップ品か」
やっぱり一度に出くわすモンスターの数が多い場所の方が、レアドロップ品が出やすいのは確定のようだ。
他のドロップ品と共に、トロルの精力剤を次元収納に回収し、通路の探索に戻る。
通路を歩きつつ、俺は基礎魔法の魔力球を放ち、罠を誤作動させることで解除していく。
大量の罠を解除してきたことで、罠にも色々と種類があるんだなと理解することができた。
罠のスイッチを踏んだ人のみを狙ったもの、スイッチを押した人ごと周囲を巻き込むもの、押した人とは違う場所を狙ったもの、押してから数秒経ってから発動するもの。
そしてそれらの罠に使われている道具にも、矢や槍やナイフのような罠から飛んできて残るものと、毒霧や落石に油と一分後には薄黒い煙に変わって消えるものがある。
推測するに、残るのは探索者側が利用することができるもので、残らないのは再利用が難しい上に通行の妨げになるものだと思われる。
モンスターたちと戦いつつ、罠を解除しつつ、ドロップ品を回収しつつ、罠の道具を手に入れつつ、通路を進んでいく。
そして通路の行き止まりまで辿り着いた。
行き止まりには、この十数日かけた探索で、初めてとなる宝箱があった。
「モンスターが七匹一組になったから、宝箱の中身も新しくなっているはずだよな」
俺はウキウキとした気分で、宝箱から離れた位置から魔槌の先を使って、宝箱の蓋を押し開けようとする。
直後、宝箱の薄く開いた蓋の隙間から、猛烈な炎が吹き上がって通路を明るく照らした。
魔槌を飲み込み、俺の眼前近くにまで迫った炎に、俺は驚きの声を上げてしまう。
「うおっ!?」
俺は魔槌を手放し、後ろに跳んで炎を回避する。
手放す際に編に力が入ったのか、魔槌は宝箱の蓋を完全に押し上げて開封した。
その開封したことが逆に良かったのか、急に吹き上がっていた炎が消え、通路の明るさが元に戻った。
「ふいぃ~、焦った。そうだよな。宝箱に仕掛けられている罠も、凶悪になっていて当然だよな」
俺は動揺を誤魔化すために独り言を呟きつつ、先ほどまで炎を吐いていた宝箱に近づく。
宝箱の縁に乗っかる形で持たれかかる魔槌を手に戻し、損傷具合を確認する。
炎に巻かれていたのがほんの数秒だけだったからか、特に大した損傷もないようだ。
魔石を与えた武器は自動修復されるようになるので、炎のダメージも回復してしまったのかもしれないけどな。
それはさておき、宝箱の中身だ。
何が入っているのかなと見てみると、俺の期待とは明らかに違ったものが入っていた。
「これは、槍か?」
宝箱から引き抜いてみると、俺の身の丈を越える柄の長さを持った、『山』の形を薄く横に伸ばしたような穂先の槍だった。
「十文字槍? いや、トライデントか?」
穂先の形は、その両者の特徴を混ぜ合わせたような感じだ。
横に飛び出した刃の部分によって、より敵に当てやすくした槍なのは間違いない。
でも、俺は槍は使わないんだよな。
残念に思いつつ、俺はこの槍を次元収納に入れて識別を働かせてみた。
そうして分かったが、この十字槍は効果付きの武器だった。
意識を込めると、穂先に切断力場なるものが発生するらしい。
たぶん、『山』の部分から先に向かってビーム刃みたいなのが出て、大きな穂先になるタイプだろう。ファンタジーやSF作品とかでよくある、光の刃ってやつだ。
「これが片手剣や短剣サイズなら、鑑賞用として確保することも考慮したけど」
この槍は柄だけで俺の身長と同じぐらいのサイズだ。
鑑賞用として手元に置くには、邪魔になる大きさだ。
仕方がない。オークションに出品することにしよう。
この光の刃がエクスマキナに通用するのなら、より高値で売れるんだろうけど、その手間をかけて証明してまで売る気は、俺にはない。
「ともあれだ、光の刃がでる武器なんて、今まで出会わなかった。つまり宝箱の中身は、いままでより良いものになっていることは間違いない」
俺は、いよいよ不老長寿の秘薬に手が届くんじゃないかと期待を持ちつつ、通路の探索を続けることにした。




