二百五十一話 淡々と
俺は十六階層深層域に対して落胆したので、ごり押しで通路の解明を終わらせることにした。
どうせ歯車ロボットは補充できるしと、二匹ともに敵モンスターへと特攻させて大暴れさせる。敵の注意が歯車ロボットに向かっている間に、俺が忍び寄って敵に不意打ちを食らわせて倒して周る。
味方の歯車ロボットが損傷の重なりよる破壊で消えてしまったら、敵モンスターの歯車ロボットを傀儡操術で新たに配下にして戦わせる。
ダンジョンの罠についても、わざと歯車ロボットに作動させて、それが本当に罠で隠し部屋を開けるためのスイッチじゃないことを調べていく。もちろん、罠で損傷して消えたら、次の敵で歯車ロボットを補給することは忘れない。
そうした繰り返しによる強行軍で素早く移動して、通路を一本ずつ調べていった。
「宝箱の数が多いのは、許せる」
俺が思わず呟いてしまったように、宝箱がポンポンと見つかっている。
もっとも、中身については、これまで見つけたのと同グレードなものばかりなので、目新しさはない。
魔法効果付きの武器が多く見つかっているので、これを十四階層で未だ足踏みしている連中に渡せば、より多くの探索者がエクスマキナを突破できるかもしれない――が、そんな真似をする気は一切ない。
魔石鏃の矢を使えば倒せるような敵なのだから、手助けは必要ないはずだからな。
「レアドロップ品が度々出てくるのも、魔石が出るのも、許せる」
強行軍でモンスターを蹴散らしているだけあって、モンスタードロップ品を数多く入手できている。
その数に比するより少し多い感じで、レアドロップ品と魔石も手に入っている。
魔石はともかく、レアドロップ品に関しては、あまり良いものじゃないけどな。
ピエロのレアドロップ品は、意識を込めてから振れば、任意の目を出すことができるサイコロ。
六本足馬からは、等身大の六足馬の剥製。
歯車ロボットからは、歯車ロボットの三十センチ大の可動式フィギュアがレアドロップ品だ。
イカサマ師なら、出目を操れるサイコロは垂涎の品だろう。
競馬好きや馬好きの人なら、六本足馬の剥製は手に入れたいものに違いない。
歯車ロボットフィギュアについても、精巧な出来なので、ロボットプラモデル好きなら一つは手元に置いておきたいものだろう。実際に俺は、このフィギュアの一体を自宅に持ち帰ることに決めているしな。
しかしレアドロップ品として考えてみると、サイコロは所詮サイコロでしかないし、馬の剥製は馬に興味がない人にはゴミでしかないし、歯車ロボットフィギュアもロボット系に興味がない人には不要なものだしで、高値で売れるとは決して限らないものばかり。
サイコロなら純金製だった方が良かったし、馬由来のものなら革製品の方が有り難いし、個人的に歯車ロボットからなら魔産エンジンの新型が出て欲しかった。
「ま、そうそう上手くは行かないってわけだな」
俺は強行軍に次ぐ強行軍で、深層域を調べて行き、三勤一休な探索者活動にも関わらず、一週間で全てを調べ終えてしまった。
一週間で深層域全てを調べ終えたものの、その無茶のツケは、俺の精神に弱めの燃え尽き症候群を起こすことでの支払になった。
「あーーー、だりーーー」
調べ終えた次の日は一日休日にして精神と体力を回復させたはずなのに、俺の心にやる気というものが湧いてこない。
こんな気持ちのままダンジョン探索をしても、注意散漫で怪我をしそうだ。
なら今日一日も休日にするべきという考えが浮かぶが、ダラダラと休むとやる気がこれから先も復活しない気がしている。
気分を持ち直すためには、なにかしら働くべきだろうな。
「十階層未満の場所で、のんびりモンスター狩りでもするか?」
いまの俺の実力なら、腑抜けた状態でも、十階層未満のモンスター相手に怪我を負うことはないはずだ。
しかし、いま感じている気だるさから考えると、モンスターと戦うという時点で億劫だ。
「うーん……。今日は、次元収納の中にあるドロップ品を全部売り払う日にするか」
俺の次元収納の中には、まだ十六階層中層域で集めたドロップ品が残っている。そして深層域のドロップ品に関しては、まだ一切売りにだしてないため、大量に在庫がある。
リアカーでダンジョンと役所を往復するのが面倒臭いので、ここ最近は役所にドロップ品を売るさいはリアカーの荷台一杯分しか売ってなかったから、在庫はたまる一方だったんだよなあ。
「荷物をスッキリさせるためにも、今日はダンジョンと役所を往復するだけにしようかな」
俺はダラダラとした態度で金ぴかな防具ジャケットを身につけ、これまた金色な頭防具をかぶり、自宅からダンジョンへと向かった。
予定した通り、俺は十六階層の出入口にてリアカーの中に次元収納の中にあるドロップ品を積み込み、それを役所まで牽いて移動して買い取り窓口にて売り払うことを繰り返した。
十六階層深層域の通所ドロップのうち、六本足馬の馬等身大の塊肉は重くて嵩張るので、その肉だけを載せるにしても二個が上限でしか運べないため、在庫を一掃しようとすると時間がかかって仕方がない。
塊肉ほどじゃないにせよ、歯車ロボットの上半身鎧も幅をとるので、こちらも十個も乗せられない。
その点、ピエロのトランプとゲームコインというギャンブルセットは嵩張らないので、一往復でかなりの数を売りに出すことができて楽だ。
ともあれ、今日一日はドロップ品を売る日と決めたので、少しずつでも確実に所有するドロップ品を売り払っていくことにした。
俺はダラダラと東京ダンジョンと役所を往復しているが、買い取り窓口の職員にはたまったものじゃないだろう。
なにせ、数百キロ分の塊肉を一個か二個かずつ買い取る羽目になって、時間がかかるし人手がいるしと、業務への圧迫はハンパない。
俺が延々と馬肉の塊を売りつけてくるものだから、とうとう昼前に食肉専門の業者が大型トラックでやってきて、俺が売った馬肉の塊をロボットアームと冷凍機能付きのトラックの荷台に回収し始めた。
しかし俺が溜めた馬肉の数はトラック一台分を越え、応援で二台目のトラックがくることになった。
その二台目のトラックにパンパンに詰め終わったところで、俺が食べる分の一匹分を残して、馬肉の在庫は次元収納からなくなった。
馬肉が終われば、あとは鎧とギャンブルセットを売るだけ――いや、レアドロップ品があった。
俺は馬肉の次は、六本足馬の剥製を役所に売ることにした。
剥製は塊肉より軽いけど、嵩張り具合は同じぐらいなので、こちらも一つか二つずつで売っていく。
レアドロップ品だけあって数は少ないので、四往復ぐらいで売り切ることができた。
その他のドロップ品は、鎧以外に嵩張る者はないし、鎧と鎧の間に押し込むことができるしで、逆に一度に大量のドロップ品を役所の窓口に押し付ける形になった。
これはこれで、仕訳け数が膨大になるため、馬肉の塊とは違った形で、役所業務を圧迫することになってしまった。
ちなみに、意識して出目を操れるサイコロの一つは研究用として安値で買い取られ、その他はオークションに出品することになった。六本足馬の剥製と歯車ロボットの可動式フィギュアも、全品がオークション行きだ。
「そんじゃあ、売り上げ代金は銀行振り込みにしてくれや」
「は、はひ。ありがとうございました」
疲労困憊といった態度の職員に見送られて、俺は役所を後にした。
ほぼ一日中ダンジョンと役所を往復するという単純作業をこなしたことで、身体の疲れはあるものの、燃え尽き症候群はすっかりなくなっていた。
やっぱり、単純でも目的をもって身体を動かした方が、やる気が戻ってくるものなんだな。
俺は軽くなった気分と体調を自覚しながら、家路につくことにした。
翌日、ふと思いつきで朝に役所へ顔を出してみると、昨日俺に対応してくれた職員の人達が魂が抜けたかのような様子を見せていた。
どうやら昨日忙し過ぎたことで、彼ら彼女らに燃え尽き症候群が起こってしまっていたらしい。
悪いことをしちゃったなと思いつつ、俺はそっと役所から出て東京ダンジョンへと向かうことにしたのだった。




