二百四十九話 六本足の馬
十六階層深層域にでる三種類のモンスター。
その最後の一種類は、足が六本ある鹿毛馬のモンスターだった。
「スレイプニル――は足八本か。六本足の馬って、ファンタジー作品に出て来たっけか?」
普通の馬のお腹部分にもう一対の足がある感じだ。
あの姿で、どんな戦い方をするんだろうと、先ほど傀儡操術で配下にした歯車ロボット二匹を嗾ける。
そして俺は、六本足馬と共にでてきた道化師へと向かう。
馬の方を歯車ロボットに押さえて貰っているため、道化師には楽に近づけた。
道化師は遠距離攻撃タイプなので、武器の距離まで接近出来てしまえば、倒すことは簡単だった。
トランプと銅色のコインを次元収納に回収して、改めて六本足馬に向き直る。
歯車ロボットは、物理攻撃に強い身体をしている。そのため、六本足馬が立ち上がっての前脚の蹴りや、尻っ跳ねしてからの後ろ脚の蹴りを食らっても、大したダメージは負っていないようだ。
それでも、蹄とロボットの鎧が奏でるガンガンという音から、六本足馬の足の威力が高いことが伺える。
もし俺が食らったら、防具によって大怪我を負うことはないかもしれないが、大きく吹っ飛ばされることは間違いない威力があるだろう。
俺は自動操縦のような感じで歯車ロボットを動かしていたが、ここからはマニュアル操作で動かすことにする。
傀儡操術により二匹の歯車ロボットたちの動きが変わり、六本足馬に抱き着くようにして抑え込もうとする。
六本足馬は大暴れして抑え込まれないようにするが、二体一の状況では多勢に無勢で、徐々に追い詰められていく。
しかし、いざ捕まえようとしたところで、六本足馬の体表に白い泡立ちが起こった。
すると歯車ロボットたちの捕まえようとしていた手が、六本足馬の体表を滑った。
「あれって、粘液性の防御膜か?」
疑問に思いつつ、俺は歯車ロボットで六本足馬を再度捕まえようとする。
しかし六本足馬は二匹の歯車ロボットの間に体をねじ込むと、体表の白い泡立ちで滑り抜けるようにして、包囲網を突破してみせた。
そして包囲を抜けた後は、俺に目掛けて突っ込んできた。
「チッ。失敗か!」
俺は傀儡操術に意識を割くことを止め、魔槌で迎撃する。
俺が魔槌で殴りつけると、六本足馬の顔面に魔槌のヘッドが入り、ぐっと叩き込みにいこうと力を込め――つるりと体表を滑った。
「のわッ!?」
急に手応えが変わったことで、俺の体が思わずつんのめる。
明らかな隙。
これは六本足馬の攻撃を一発は食らう覚悟をするべきだな。
そう考えて、身体に力を入れて耐える体勢に入る。
しかし、その用心は必要なかった。
多少なりとも魔槌の打撃によるダメージがあったようで、六本足馬は身体をふらつかせて攻撃できない様子になったからだ。
それならと、俺は改めて魔槌を振り上げ、六本足馬の意識が元に戻った直後に、魔槌を振り下ろした。
六本足馬の頭のど真ん中を狙った攻撃は、多少体表で滑りはしたものの、しっかりと打撃を通すことができた。
六本足馬は頭を粉砕され、薄黒い煙に変わって消えた。
現れたドロップ品は、頭と革と蹄と臓物が剥ぎ取られた、六本足馬の半丸枝肉だった。
「……競走馬って五百キログラムぐらいあるって聞いたことあるけど」
ゲーセンにあった競走馬のアナウンスで、五百キログラムとか言っていた気がする。
内臓を取って百キロへったと仮定しても、最低でも四百キログラムあることになる。
六本足とはいえ馬肉なのは間違いなんだろうけど、こんな沢山の肉があってもなあ。
「一匹は確保するとしても、二匹目からは役所に売り払ってしまったほうが良いな」
一日一キログラム食べるとしても、丸一年食べ続けても残る量だしな。
とりあえずなくなるまでは度々食べようと決めて、次元収納に馬肉の塊を入れると、深層域の探索の続きをすることにした。