二百四十八話 戦闘中
歯車ロボットとピエロ。
この二匹に対してどう戦うか。
「簡単に勝つ方法は思いつくけど、それは実力ってわけじゃないしな」
とりあえず思いついたことは脇に置くとして、真っ当な戦いを続けてみよう。
俺は、ピエロの遠距離攻撃に注意しながら、歯車ロボットに魔槌で攻撃してみた。
俺の基礎魔法を防御したように、輝く壁で防御するかと思いきや、歯車ロボットは身体の鎧で受け止める。
爆発力を発揮させてないので、ごく普通に打撃を加えただけだけど、その手ごたえが変なことを感じ取った。
その手ごたえを前に感じたときを思い出し、俺は舌打ちする。
「チッ。こいつも、エクスマキナと同じように、物理防御が高いタイプかよ!」
中ボスと雑魚では、防御力が同じはずがないのは、ゲームでも現代ダンジョンでも同じなんだろう。
歯車ロボットの方が、エクスマキナよりも防御力が低いのは、殴った際に出来た鎧の微小なへこみを見ればわかる。
これがエクスマキナだったら、へこみすらつけられなかっただろうしな。
それはそれとして――
「――ああもう、面倒臭い!」
雑魚敵が物理防御特化なんて、打倒するのに時間がかかって、戦いが長引いてしまう。
なら基礎魔法で攻撃すればいいと思っても、歯車ロボットには魔法を止める輝く板を出せるのだから、一筋縄ではいかない。
しかも、歯車ロボットを倒そうと躍起になれば、ピエロからの遠距離攻撃を食らう羽目になる。
そら、いまもピエロが懐から出したダーツ矢をこちらに投げてきた。
「そっちも面倒だな!」
俺は、飛んでくるダーツを跳び下がりながら避けた。ダーツはダンジョンの壁に当たり、長めの針が全てその壁に埋まるほど深く突き刺さる。
もしあのダーツを食らったら、内臓まで達する深い傷を負ったことは間違いない。
再び仕切り直しとなったところで、俺は素早く戦法を組み立てる。
「よしっ。やってみるか」
俺は意を決し、再び歯車ロボットに打ち掛かる。
歯車ロボットは、俺が振るった魔槌を身体で受け止める。
その際にピエロは、歯車ロボットの身体で俺が隠れないよう、位置を移動していた。そして再びシルクハットを脱いで、その穴をこちらに向けようとしていた。
モンスター側の役割を考えたら、きっとそうしてくるだろうなと、俺は読んでいた。
「守られる立ち場なら、守護者の陰から出るのは悪手だぜ! 魔力弾!」
俺は片手を魔槌から離すと、ピエロの方に向けた。そして宣言した直後に、その手の先から魔力弾が放たれた。
魔力弾はピエロが構えていたシルクハットを撃ち抜いて穴を開け、その奥にいたピエロ自身にも命中した。
穴だらけになったシルクハットでは炎を出せないのか、ピエロは穴が空いた黄色い燕尾服を抑えながらシルクハットを被り直す。
もう一撃とピエロに手を向けたままでいると、歯車ロボットが俺とピエロの間を塞ぐように立ち位置を変更してきた。
まあそうするよなと予想通りの行動に、俺も予定通りの攻撃をすることにした。
俺は先ほど魔力弾を放った手を、今度は歯車ロボットに向ける。
しかし使うのは、魔力弾ではない。
「魔力盾」
俺は魔力盾を、歯車ロボットに押し付けるように発動させる。
攻撃ではない行動に、歯車ロボットが少しだけ混乱したように動きを停止する。
その隙に、俺は片手で持っている魔槌に意識を通し、爆発力を発現させた。
歯車ロボットは、ジェットバーナーが点いた魔槌を脅威と感じたのだろう。あの輝く板を出現させようとした。
しかし歯車ロボットの輝く板と、俺が押し付けている魔力盾が干渉し合ったことで、その両方が一秒と経たずに消えた。
「食らえ!」
俺は片手で魔槌を振るい、魔槌のヘッドが歯車ロボットに当たった直後に爆発。
歯車ロボットは、エクスマキナ以上に魔法攻撃に弱いようで、魔槌の爆発で胴体部の四分の一が吹き飛んだ。
ここで俺は歯車ロボットを蹴りつけ、その体をピエロの方へと押しやった。
ピエロは倒れかかる歯車ロボットを支える気はないようで、大慌てな様子で横へと逃げる。
それならと、俺は歯車ロボットを追撃することにした。
再び魔槌に爆発力を発揮させて殴りつけると、歯車ロボットの胴体部が破断して真っ二つになり、薄黒い煙に変わって消えた。
「これであとはお前だけだな」
俺の宣言に、ピエロは道化師らしい大仰な身振りで驚きを表現する。
しかし戦いを諦める気はないようで、ピエロは懐から出した複数のダーツを投げ、その直後に両手を打ち鳴らした。
俺は飛んできたダーツを潜り抜けるようにして避けながら、ピエロに接近。ピエロの身体の前に展開されたカード束を突き破るように、魔槌を振るった。
魔槌は、罰靴力を発現させないまま、ピエロに命中。
遠距離型のモンスターらしく防御力は紙なようで、ピエロからは魔槌に殴られて骨が折れて肉が潰れた音がした。
それでも矢張り十六階層のモンスターだけあり、それなりの生命力はあるようで、一発殴っただけで倒すことはできなかった。
「これで、終わりだ!」
怪我をした場所を大仰な身振りで押さえているピエロの頭を目掛けて、魔槌を振り下ろす。
頭蓋骨と頸椎が破壊され、ピエロも薄黒い煙に変わって消えた。
「ふうっ。初戦闘とはいえ、手こずったな」
俺は自分の戦い方の拙さに反省しつつ、倒したモンスターのドロップ品を回収することにした。
歯車ロボットからは、歯車ロボットが着けていた鎧の上半身部分がドロップした。
ピエロからは、箱に入ったトランプとゲーム用コインらしきものがドロップした。
「コインは結構な数があるな。材質は、銅か?」
十円玉と同じ色合いと大きさのコインは、何にも模様がつけられていない、つるりとした表面のもの。それが数十枚ある。
このコインが本当に銅なのか、そうじゃないのかは分からない。
それでも、この金属分の価値は必ずあるだろうと考えられる。
俺はそれらドロップ品を次元収納に入れると、通路を先に進むことにした。
道中の罠を魔力球を当てることで誤作動させて解除し、さらに先へ。
すると、次のモンスターたちに出くわした。
それは、歯車ロボット二体だった。
「さっき倒し方はわかったから、今回は簡単な方法を試すか」
俺は手を歯車ロボット達に向け、そして宣言する。
「傀儡操術」
歯車ロボットは生き物じゃないモンスター。傀儡操術の適用範囲内だ。
そして俺はいま、二匹のモンスターを操ることが出来る。
つまるところ、目の前にいる歯車ロボットたちは、即座に俺の配下にできるってこと。
「よしっ。掌握できた」
歯車ロボットは、俺が跪けと命じると、その通りに跪いて首を垂れた。
こうして戦力を確保したところで、さらに通路の奥へと向けて歩くことにした。




