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二百三十九話 久々、インタビュー

 新装備である、金色の全身ジャケットとエクスマキナの兜を着け、俺は自宅を出て最寄り駅へと歩く。

 その道中、金ぴかな外見だからか、道行く人が振り返って俺の方を見て驚いている。

 俺はその視線の中を平然と歩いていく。

 今までの防具も、カマキリ仮面だったりガイコツ仮面だったりと、人の目を集めるものだった。

 なので、いまさら人の目がどうこうという気持ちは、俺の中にはない。

 電車に揺られて東京駅に到着し、待ち合わせの東京駅丸の内広場へ。

 さて、江古田記者はどこにいるだろうと見回していると、少し遠くの場所からこちらに駆け寄ってくる人物が見えた。

 目を凝らすと、その人物が江古田記者だと分かった。

 しかし、以前インタビューを受けたときに比べて、なにか変化があるような気がする。

 それが何だろうと考えている間に、江古田記者が身近にまで接近していた。


「あの! 貴方、ガイコツ仮面さんですよね!」


 質問しているような言葉だが、口調は断定的だった。

 見た目が以前と変わっているのに、どうしてそう自身ありげに断定できるんだろうか。

 俺は謎を感じながらも、イキリ探索者っぽい受け答えをするべく演技を始める。


「俺以外の誰に見えるってんだ」

「いやいや。つい先日と、見た目が違っているじゃないですか!」

「そりゃあ、防具を新しいものに変えたんだ。見た目が違っているのは当然だろ」

「見た目が違っているから、ガイコツ仮面さんですかって聞いたんじゃないですか!」

「いや、俺はガイコツの仮面を被ってないが?」

「ガイコツ仮面さんって呼んでいるのは、以前にそう言えっていわれたからで――ああもう、名前教えてくださいよ!」

「嫌に決まってんだろ。下手に名前が知れ渡ったら、ウゼエ連中がわんさか寄ってくるに決まってんだ。人が成功すると、すぐ甘い汁を吸おうと集まって来やがる。ああいう連中を逮捕する法律を作った方がいいぜ、まったくよお」

「もう! ああいえば、こういう人ですね!」


 適度な会話のキャッチボールを行ったので、俺は会話に飽きたという態度を演じると、江古田記者を先導して歩き始める。

 もちろん行く先は、いままでのインタビューと同じく、東京駅近くにある老舗の喫茶店だ。

 喫茶店の中に入り、他の客の邪魔にならない角の席に案内されて座る。

 メニュー表を手に取り、注文する料理と飲み物を決めると、俺は江古田記者にメニュー表を差し出す。


「ほれ、いくつか新メニューがあるようだぞ」

「そうなんですか! ステーキ食べようと思っていたけど、新メニューがあるならそっちにしようかな」

「好きなもんを食べればいい。ああ、取材費じゃ、この喫茶店の飲食代は出ないんだったっけか?」

「いえ。今回は世界で初めて十五階層を突破した人への独占インタビューですから、編集長からは予算上限なしで取材して来いって言われてますんで」

「どんなに高いものを頼んでも、経費で落ちるってわけか」

「十四階層に住んでいる探索者へのインタビューでは、高級風俗店で接待した料金も経費になったそうですから、喫茶店の食事代ぐらいは軽いものでしょうね」


 高級風俗店がどれほどの料金かは、その手の店に行ったことのない俺が知っているのは、青少年系の漫画で得た情報だけ。

 その漫画知識でも、数十万から数百万まで幅があるので、詳しい値段までは知らない。

 でも、仮に数十万円と仮定しても、この喫茶店で大量に飲み食いしなければ到達できない値段だ。

 だから江古田記者が、ここの食事代ぐらいは経費で落とせると太鼓判を押すのも当然だな。

 そう納得し、俺は新メニューの一つであるスパゲッティボロネーゼに加えてブレンドコーヒーを頼んだ。

 一方で江古田記者は、時価のステーキと新メニューの一つの厚焼き玉子サンド、そして瓶コーラを頼んだ。


「ステーキとタマゴサンドって、良く食うな」

「あはははっ。四月に新入社員が入ってきて先輩になるんだからって、色々と業務を押し付けられてしまって。色々とやらせてくれるのは有り難いんですけどね」


 疲れが浮かぶ笑顔を見て、俺は理解した。

 江古田記者と再開した際に何らかの違和感を抱いていたが、その理由が江古田記者の容姿に疲れが見えたからだった。

 その点を鑑みて江古田記者をよくよく観察すると、化粧で顔は誤魔化しているが、衣服や髪が薄汚れていることに気付いた。


「お前なあ。取材対象に合うんだから、身綺麗にして来いよ」

「えっ!? ボディーシートで拭いてから来たんですけど、臭います?」

「臭いはしないが、髪の毛が脂でテカってるし、服には寝皺っぽいものがついてて見苦しい」

「あはははっ、原稿の締め切りが近くて会社で寝泊まりしてまして」


 江古田記者が誤魔化し笑いをしていると、料理が運ばれてきた。

 俺の前には、太い麺にゴロゴロとしたひき肉がまとわりついたボロネーゼが。江古田記者の前には、鉄板に焼かれて音を立てるステーキと、分厚い玉子が挟まれたサンドイッチが置かれた。

 美味しそうな料理が配膳された後で、コーヒーと瓶コーラが置かれた。

 俺と江古田記者は、とりあえず先に料理の味を確かめるべきと、言葉もなく意見が一致した。

 江古田記者がナイフとフォークを構える間、俺はエクスマキナの兜の口元を操作する。

 エクスマキナの兜の口元を開き、料理を食べるための空間を開けるためだ。

 江古田記者は、ステーキにナイフを入れながら、俺の顔を凝視する。

 きっと口元がオープンになったエクスマキナの兜を見て、俺の顔が確認できるんじゃないかと期待したんだろうな。

 しかし残念ながら、エクスマキナの兜の内側には、オーガ戦士の頭骨兜がある。

 口元をオープンにしたところで、見ることができるのは頭骨兜の顎なので、江古田記者が期待するような俺の顔が見えたりはしないけどな。

 その後、俺はボロネーゼを、江古田記者はステーキを食べ終えるまで、取材開始は遅れることになったのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何気ない食事シーンにもジブリ映画の様な省かないで良い情報があります。 [気になる点]   主人公は江古田記者に「コレがジャーナリスト最後の仕事にする覚悟はあるのか?記事が雑誌に載る前に雲隠…
[一言] 世界中で注目されている第一人者に会う格好じゃ無いよな。
[一言] 見た目が違ってもこんな格好する奴って他にはまあ居ないだろうしなあ
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