二百三十四話 探索は順調
通路を一つずつ行き止まりまで探索する事、五本。
ようやく宝箱を見つけることができた。
喜び勇んで宝箱を開ける、なんて真似はしない。
ちゃんと周囲に罠がないかを確かめてから、俺は離れた場所にいながら傀儡操術で操るアタックゴーレムに宝箱を開けさせる。
ここまですれば、仮に宝箱が爆弾であっても、俺に被害は出ないはずだ。
果たして結果は、宝箱の中から円形の刃が飛び出してきて、アタックゴーレムに当たって床に落ちた。
「罠ありの宝箱だったか。中身はなんだろう」
俺は蓋を開けられた宝箱に近づき、中身を確認する。
そして見た瞬間に、俺の望むものじゃないことが確定した。
「なんだよ。剣かよ」
不老長寿の秘薬では決してあり得ないものに、俺は肩を落とす。
それでも宝箱から出た剣だからと、俺は宝箱の中から拾い上げた。
剣は、豪華な装飾がされた金属製の鞘に入れられた、鞘と同じような装飾がされた柄があった。
大きさは俺の片腕よりやや小さいし、柄の持ち手部分も短いから、片手剣だな。
十五階層未満でも、宝箱の中の武器は効果付きの魔具だったことが多い。
だから多分、この剣も魔具なんだろうな。
そう予想しつつ、俺は剣を鞘から引き抜いてみた。
柄と鞘には装飾があったが、直剣の剣身には一切の装飾はなかった。
その代わりというわけじゃないだろうけど、剣の剣身と両刃は鏡面仕上げで研ぎ澄まされていた。
「なんともまあ、綺麗な剣だこと」
効果が微妙でも、芸術品として需要がありそうだな。
そんな感想を抱きつつ、俺は剣に意識を込めてみた。
すると剣身から水が湧きだしてきて、剣身全体を覆った。
「水を纏う剣なのか。うーん、微妙か?」
火の精を相手にするには使える効果ではあるけど、俺は剣を使わないしな。
俺は剣を持ちつつ、何気なしに振るってみた。
すると剣身から水が離れ、振るった軌道と同じ形で水の刃が飛び出し、ダンジョンの壁に当たった。
「……なるほど。飛び道具にもなるわけか」
どれぐらいの威力があるかはモンスター相手に使って試してみないと分からないが、遠距離から火の精を狙い撃てるという点は良いな。
感心しながら剣を見ると、先ほど水刃を発射したのにもかかわらず、剣身は水で覆われていた。
「ふむっ。ちょっと次元収納で水を吸ってみるとしようか」
俺は剣に意識を込めたまま、次元収納を剣の側に出現させる。
次元収納の出入口である白い渦は、剣を中に入れようとするが、俺が手で剣の柄を持っているため、吸い込めない。
剣は吸い込めていないが、剣身が纏っている水は、次から次へと次元収納の中に入っていき、その入った分の水が次々に剣身から湧き出ている。
「休憩部屋に続き、新たな水源を確保できたな。剣士にしてみたら、勿体ない剣の使い方なんだろうけどな」
俺は剣に意識を込めることを止めると、軽く剣振りして水気を飛ばしてから金属鞘の中へと仕舞う。
そして鞘に入れた剣を、次元収納の中に入れた。
ついでに、宝箱に仕掛けてあった罠の金属の円盤を拾い、それも次元収納の中へ。
「よしっ。次の宝箱を探そう」
俺は意気込み、アタックゴーレムと共に通路の探索を再開した。
宝箱を見つけてから、新たに通路を二本行き止まりまで調べたが、どちらも宝箱も隠し部屋もないハズレの道だった。
そして運悪く、その道中の中で、アタックゴーレムの耐久度が限界を向かえ、薄黒い煙に変わって消えてしまった。
戦力が減ったし、帰るのには良い時間だったので、今日の探索は終わりにすることにした。
俺は魔法の地図を取り出し、いま居る場所から十六階層の出入口へと向かう道を確認し、引き返すことにした。
その道中、頼りになる配下は失ってしまったものの、戦い慣れてきたので、一人でも六匹一組のモンスター相手に勝つことができるようにはなっている。
「やっぱり、次元収納に大量に入れてある水が強力だな。火の精だけでも倒しきれれば、後は楽だ」
十六階層浅層域のモンスターたちは、火の精を巨人化させることに特化したような構成だ。
キメラ犬もレッサーインプも、空中に逃げて時間稼ぎしながら、火を出して火の精に吸収させることを主目的にしているからな。
でも逆を言えば、火の精を水で消火してしまえば、他のモンスターは取るに足りない実力しかない。
もちろんキメラ犬もレッサーインプも、油断できるほど弱くはない。
でも、十四階層のモンスターと大差のない程度の強さしかないからな。
十五階層のエクスマキナを倒せる実力があるのなら、キメラ犬もレッサーインプには苦戦しないだろう。
俺は一人で来た道を引き返していき、アタックゴーレムを突っ込ませられない分だけ戦闘時間だかかったものの、無事に十六階層の出入口に戻ってきた。
一息入れて、俺は自分の失態に気付いた。
「帰り道で、隠し部屋に寄って水を補充するの忘れてた」
とりあえず次元収納の中にある水の量を確認する。
たぶん、次の探索で休憩部屋に入る分の水は残っている。
なら、剣や自宅での補給は必要ないだろう。
俺はそう結論付けると、魔槌を次元収納に入れてから、出入口の白い渦に入って東京ダンジョンの外へと出た。