二百三十一話 モンスターの強化
順調に探索を続けていたが、五匹一組でモンスターが現れる場所で、探索を足踏みすることになった。
理由は、火の精の所為。
火の精は、火を食らうと身体が大きくなる特徴を持っている。
そしてキメラ犬とレッサーインプは、どちらも火を放つことができる技能を持っている。
その結果、火の精一匹に他四匹のモンスターたちが火を放ったことで、火の巨人と言えるような姿に成長させてしまったのだ。
「いけ、アタックゴーレム!」
俺は傀儡操術でアタックゴーレムを火の精に嗾け、俺自身は他のモンスターの排除に動いた。
しかしキメラ犬とレッサーインプは、上空に逃げたり回避に専念したりと、時間稼ぎをする。
たぶん、火を食らわせて巨大化した火の精がアタックゴーレムを倒すまで粘ろう、という魂胆なんだろう。
そうはさせまいと、俺は魔槌の爆発能力を作動させたうえで、コンパクトかつ素早く魔槌を振ることで、キメラ犬とレッサーインプを倒していった。
それでも時間は稼がれてしまい、四匹のモンスターを倒しきるまで五分も時間をかけてしまった。
その時間の消費によって、俺の配下のアタックゴーレムが火の精に負けることになる。
火の精によって散々に炙られたことで、アタックゴーレムは全身が赤熱化していた。そして赤熱化が内部にある重要機関にまで浸透して、その重要機関が熱で壊れたためだろう、アタックゴーレムは薄黒い煙に変わって消えてしまった。
お互いに頼りになっていた仲間を失って、俺と巨大な火の精は一騎討ちになる。
「最大強化された火の精か。手強さを体感する良い機会ではあるけど」
しかし俺の革の全身ジャケットは、レッサーインプの火の球すら防げない防御力しかない。
そんな防具では、レッサーインプの火の球を多量食らって大きくなった火の精の攻撃を防げる気がしない。
というか、巨大な火の精の近くにいるだけで、ジャケットから焦げ臭い臭いがしてきているんだけど。
「チッ。残り少ないけど、使うしかない」
俺は魔石鏃の矢を次元収納から出し、水を魔石鏃から噴出させてから投げつけた。
火の精は、巨大になっている手で矢を受け止める。じゅわじゅわと火と水が戦う音がする中で、その手で矢を握りつぶした。
魔石鏃が壊れたからか、握りつぶされた瞬間に水の放出が止まった。
火の精の大きさが、先ほどより若干小さくなっているから、水をかければ小さくなるって弱点は健在のようだ。
「仕方ない。使い切る気で行くか」
俺は次元収納にあった全ての魔石鏃の矢を出すと、全てに水を発現させてから、次々に投げつけた。
火の精は矢を何本か握りつぶしたが、幾本かを胴体部に食らった。
矢から放出される水によって、火の精の大きさがドンドンと小さくなっていく。
しかし体積を減少させながらも、火の精は身体に刺さっている矢を引き抜いては握りつぶし、少しでも体積を保とうとしている。
そうして全ての矢が握りつぶされた頃には、火の精は俺より二回りほど大きいぐらいにまで小さくなった。
「これぐらいなら、倒しきれるはずだ」
俺は魔槌に爆発力を発現させてから、火の精へと攻撃した。
魔槌の爆発によって、火の精の身体が千切れ飛ぶ。
火の精は吹き飛んだ部分を、残っている火の体で補うようにして、形を再生させる。
しかし俺が次々と魔槌を爆発させて吹き散らせるため、どんどんと火の精の身体は小さくなっていく。
やがて元の大きさにまで減少した直後に俺が魔槌を放ったところ、火の精は千々に吹き散った後で薄黒い煙に変わって消えた。
「ふぃ~。どうにかなったけど、これは厳しいな」
今回は火の精が一匹だけだったから良いが、これが二匹三匹と巨大化していたら、戦い勝つことは難しかったことだろう。
「魔石矢も尽きちゃったし、アタックゴーレムも失ったし、撤退するしかないか」
様子見という点では、もう十二分に情報を集めることができた。
火の精を相手にするには、水が必要不可欠。
次にここに来る際には、次元収納の中に大量の水を入れて持ってくるしかないだろう。
「でも次元収納の出口は身体の近くにしか展開できないから、遠距離攻撃用に投げられる消化グッズとかを購入して効くか試してみてもいいな」
どんな物が良いかを考えながら、今日は引き上げることにした。
もちろん今日集めたドロップ品は、俺が十六階層に入っていることを知られないために役所に売るわけにはいかないので、次元収納の中にしばらく死蔵されることは決定済みだ。