二百二十四話 十五階層の報酬
宝箱を開けると、中には三つのものが入っていた。
一つ目は、今までと同じで、スキルの巻物。
二つ目は、大きな魔石。
三つ目は、模様の入ったバッヂのような金属板。
まずはスキルの巻物からだ。
『打撃強化、爆破魔法、傀儡操術から一つを選べ』
初めて聞く、爆破魔法と、傀儡操術のスキル。
爆破魔法は名前の通りに、爆破する魔法を使うスキルだろう。
傀儡操術は、メタルマネキン人形と樹皮人フィギュアを自宅で操ったように、人形のようなものを操ることが出来るようになるスキルだろう。
個人的な興味としては、爆破魔法に興味がある。
でも、これが爆裂魔法なら、アニメ好きな俺は迷いなく選んでいただろう。
しかし爆破魔法なんだよなあ。
というか爆発系なら、魔槌が担ってくれるから、選ぶ必要性が薄いんだよな。
となると、人とパーティーを組まないと誓った俺のための救済措置のような、傀儡操術が良いかもしれない。
十六階層から先は全くの未知な場所だ。
一人で行くには不安があるし、仲間が居たら心強いしな。
問題は、この傀儡操術によってどの程度のモノが操れるかと、どのぐらいのスピードで操れるか不明な点だ。
選んでみたら、全くの地雷スキルだっていう可能性もある。
『打撃強化、爆破魔法、傀儡操術から一つを選べ』
アナウンスが急かしてくるし、俺は腹を決めた。
「傀儡操術を選ぶ」
そう宣言した直後、俺の頭の中に傀儡操術の詳しいやり方が湧き出てきた。
俺はそのやり方を反芻して理解し、むしろ当たりのスキルだと分かった。
「無生物系のモンスターを配下に加えるスキル。つまりテイマー系のスキルだ、コレ」
マネキンとかゴーレムとかを操れるっぽい。
しかも配下にしたモンスターは、次元収納に入れられるようだ。
ってことは、このスキルがスキルの巻物の候補として出る条件の一つに、次元収納スキルを持っていることってのがありそうだな。
「ともあれ、中々に良いスキルなんじゃないか」
いまスキルを得たばかりなので、傀儡操術はLV1の状態。
これで、どの無生物系のモンスターを操れるか試してみたいな。
たぶん弱いモンスターしか配下にできないだろうけど――
「――待てよ。もしかしたら、配下にしたモンスターも魔石で強化できたりするかも?」
無生物系のモンスターは、いわば道具のようなもの。
魔石を与え続けたら道具が進化するのなら、無生物系のモンスターのモンスターだって成長しないとも限らないよな。
新しく育成要素が追加なのかと、ちょっとワクワクしてきたが、検証は後に置いておこう。
スキルの巻物の次は、大きな魔石。
これはもちろん、魔槌に使用する。
大して期待してないで魔槌で割り、魔槌が魔石から出た光を吸収した直後、全体的に輝き始めた。
「進化の兆し! メイスの進化も中ボスを倒した直後だったことを考えると、進化させたい武器で中ボスを倒さないといけなかったりするのか?」
疑問を口に出しながら考えている間に、魔槌の変化は終了していた。
ヘッド部の打面が一回り大きくなり、ジェットバーナーの数は三つになった。
この三つのジェットバーナーは輪っかに繋がれていて、その輪の円周上に等間隔で配置されている。つまり三つとも噴出口は、ヘッドの打面に対して斜めを向いている。
「一つか二つだけ点火すると、変な軌道になりそうだけど」
俺は懸念を抱きながら、新しくなった魔槌に意識を込めてみた。
すると、三つの噴出口から火が一気に出た。
予想外の自体に、俺は魔槌を手から取り落としてしまい、魔槌の打面が床に落ちた。
その瞬間、爆発が起こった。
爆発の威力は、進化前の魔槌が空振り十回した時と同じぐらいだった。
「……つまり、ヘッドに爆発力を持たせるのに、空振りする必要がなくなったわけだ。でも多分、空振りを重ねると威力を上がる能力はそのままだろうな」
俺は落としてしまった魔槌を拾い、そして向き直る。
メイスが進化した時に感じた、これ以上進化しなさそうという感じは、この魔槌からはしてこない。
つまり魔槌は、まだ進化の余地があるってことだ。
ともあれ、魔槌は使い勝手が上昇する方向に進化したようで満足だ。
宝箱に残る最後の一つは、護符のようなバッジのような、模様が入った金属の小板。
次元収納に放り込んで、用途を調べてみた。
「身代わりの板。致命傷を一度だけ防ぐことができる、のか」
中々に良い品物だな。
これから未知の階層に入ることを考えると、保険として確保して置くべきアイテムだ。
「それで見ないようにしていたけど、あれがドロップ品なわけだよな」
俺が目を向けたのは、床に倒れているエクスマキナ。
いや、俺が魔槌で吹っ飛ばした部分が復元されているし、先ほど得たばかりの傀儡操術スキルの対象に選ぼうとしても選べないので、エクスマキナ本体を模した標本といった感じなドロップなんだろうな。
俺は人間の等身大のエクスマキナ人形を触って確かめていくと、鎧の外し方が分かるようになった。
どうやらエクスマキナは、装甲板を付けたロボットではなく、人間でも着れる鎧を装着したロボットという感じのようだ。
鎧を剥がしてみると、中身はバネと歯車とパイプの集合体で、心臓部は小型化された魔産エンジンが搭載されていた。
もちろんこの人形なので、魔産エンジンも本物じゃなくて模型だ。
「こんな中身なのに、雷の矢を受けて動きが止まったのは、電気抵抗で金属部が熱くなるから、重要箇所が熱でへたらないように放熱優先でセイフティーが働いたからなんだろうな」
もし電子基板が使われいたら、雷の矢を受けたら再起動なんてできないはずだしな。
あと、俺はエクスマキナとの戦いの終盤に雷の矢の後に水の矢を突き刺したけど、あれって水で中身が冷えて再稼働が早まっていた可能性があるんじゃないか。
というか、水がエクスマキナの中から出てきていたのって、多分冷却に使っていたからだろうし。
俺が悠長に魔槌を空振りし続けている間に、エクスマキナが再稼働していた可能性だってあったんだろう。
「俺が勝てたのって、運が良かったのが最大の理由なんだろうな」
俺は反省し、次に戦う機会があった場合に備えて、どう戦うべきかを人形から調べていく。
「金属の塊の中身が熱を帯びると停止するっていうのなら、火を中に撃ち込むのが一番楽そうだな。あとは、土の矢を突き刺して、中身を砂まみれにするとかか」
手癖が悪い人なら、エクスマキナの鎧を脱がせて、その鎧を剥がした部分を攻撃するって手も使えるだろうな。
「そういえば、この人形の鎧って、模型なのか? それとも本物の鎧と同じ物なのか?」
普通に考えれば模型だろうけど、確認のために、俺は魔槌で脱がした兜を軽く叩いてみた。
これが模型なら、魔槌のヘッドは重さがあるから、簡単にへこんだことだろう。
しかし叩いた結果、兜は全くの無傷だった。
「……もしかして?」
俺は兜が壊れても言いやという気持ちで、兜を軽くトスで上げる。そしてフルスイングした魔槌で打ってみた。
ガツンと良い音がして、兜は空中を飛んでいき、ダンジョンの壁面に当たって落ちた。
俺が近づいて拾ってみると、全くの無傷だった。
「おいおい。模型に本物を使う必要はないだろうに」
と感想を口に出して、俺は勘違いしているんじゃないかという可能性に気付いた。
俺はエクスマキナの精巧な模型の方がドロップ品の主体だと思っていたけど、もしかしたらこの鎧の方が主体なんじゃないだろうか。
あのエクスマキナの模型は、この鎧を飾るためのトルソーだとしたら、鎧が物理攻撃に強い本物であることの説明がつく。
「でも通常ドロップで、この鎧と模型ってのはやり過ぎだよな。もしかしたら、レアドロップ品なのか?」
通常なのかレアなのかは、二回再戦してドロップ品の出現割合を確かめてみるしかないな。
「岩珍工房に頼んでいる防具が届くまで、そしていまある魔石鏃の矢を使い切るまでは、エクスマキナを周回するのもいいかもしれないな」
俺以外の人がエクスマキナを討伐するまで、俺がエクスマキナを倒せることを秘匿するために、ドロップ品は売れないけどな。




